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第二十二章:黒闇天

朝の早い内に魔界を出発した事で夜叉王丸は低血圧を発揮して馬車の中で眠っている。


服装は何時もと変わらず黒一色に黒のロングトレンチコートに黒のソフト帽だ。


ジャンヌの方は低血圧でもないため商人と談笑していた。


話しによると商人は香辛料や羅針盤などを売りに行くらしい。


水色のワンピースに身を包み蒼銀髪の髪はポニーテールではなくストレートヘアーにしていた。


「それじゃ飛天様は民衆の英雄なんですね」


「はい。私たちが理不尽な目に合っていると必ず助けに来てくれました」


長身の身体を伸ばして寝息を立てる夜叉王丸を優しく見つめるジャンヌ。


「この方は本当に英雄です。民の為に懸命に行動してくれています。そして誰よりも部下思いな方です」


手綱を握る商人の口調は誇らしげだった。


「だから、皇帝陛下も夜叉王丸様を信頼しているのです」


ジャンヌは改めて夜叉王丸の凄さを実感して、この男に仕えている事に誇りを持った。


瞬間魔法などを使って三時間後にインドに無事に到着した。


「それでは、お礼は後ほど・・・・・・・」


商人は馬車から降りた夜叉王丸とジャンヌに一礼して市場の中へと消えた。


「何もなくて良かったですね」


ジャンヌが隣で欠伸をする夜叉王丸に笑い掛けた。


「・・・・あぁ。これで役目は終わりだ。少し市場でも見て回るか?」


夜叉王丸の提案にジャンヌは笑顔で頷いた。


「よし。それじゃ行くぞ」


革トランクを左手に持つとジャンヌを誘って市場を歩き始めた。


市場には色々な物が売り買いされていた。


「賑やかな所ですね」


ジャンヌが市場を眺めながら隣を歩く夜叉王丸に話しかけた。


「あぁ。民が幸せそうな笑みを浮かべている」


淡泊な言い方だが、優しさが溢れていた。


暫く歩いていると馬の蹄が大量に聞こえてきた。


「・・・・何だ?」


夜叉王丸が訝しげに辺りを見回すと行き成り矢が飛んできた。


反射的にジャンヌを背後に隠してトランクで矢を叩き落とした。


「大変だ!ラーヴァスが来たぞ!!」


一人の民衆が大声を上げて逃げた。


「おらおら!どけ!!愚民共が!?」


「はははは!良い眺めじゃ」


漆黒の馬に乗りながら剣を振り回す大柄な男と一緒に乗っている少女が高笑いを漏らした。


その後ろを屈強な体格をした男たちが控えていた。


「誰だい?あの木偶の棒は?」


近くにいた男に尋ねてみた。


「インド魔界の王であるラーヴァナ様の次男でラーヴァスですよ」


男は小声で答えた。


「父親がご病気である妃の看病で忙しいから好き放題なんですよ。ご長男のインドラジット様も今は留学中ですので・・・・・・・・・」


「一緒に乗っている娘は?」


「黒闇天という娘で毘沙門天様と吉祥天様の娘らしいですよ」


「毘沙門天殿と吉祥天殿の娘?」


夜叉王丸は眉を顰めた。


自分の記憶が正しければ“夜叉”の称号を得て宴に参加した時に紹介されたのは一人だけだった。


「何でも姉の白明天様の影に隠れていたそうで殆ど顔を見せなかったらしいです」


男と話している内にラーヴァスは馬に乗ったまま剣や弓矢で市場を破壊していた。


ラーヴァスは心から楽しんでいるようだったが、黒闇天の方は無理をして笑っているように見えた。


「・・・ジャンヌ。暫く待っていろ」


ジャンヌを壁に隠すと夜叉王丸はラーヴァスの前に立った。


「おい。ここは市場だ。馬を走らせる場所じゃねぇ」


「何だ?貴様は」


「お前らに名乗るような名前はない。さっさと消えろ」


懐からセブンスターを取り出してジッポで火を点けた。


「貴様、俺が誰か知らないのか?」


「馬に乗って女を侍らした馬鹿な餓鬼だろ?」


「・・・・どうやら死にたいようだな」


ラーヴァスは馬から降りて後ろに控えていた男たちに片手を上げて手を出すなと合図した。


長身である夜叉王丸を遥かに超えた身長だ。


「馬鹿で図体がでかいとは絵に描いたような暴君だな」


紫煙をラーヴァスに向けて吐いた。


その直後にラーヴァスの右拳が夜叉王丸に襲い掛かった。


しかし、繰り出された拳を軽く横に払うと飛び膝蹴りを顔面に食らわせた。


「ぐあっ」


ラーヴァスは鼻血を出して悲鳴を上げた。


間を置かずに夜叉王丸はガラ空きの脇腹に連続攻撃を食らわした。


ラーヴァスはもんどりを打って地面に大きな音を立てて倒れた。


その音を聞いた馬がヒヒーンと鳴き声を上げて前足を上げて暴れ回り乗っていた黒闇天が落ちた。


「・・・・ッ」


地面に叩き付けられた女は気絶した。


夜叉王丸に倒されたラーヴァスは部下が慌てて抱えるようにして馬に乗らせると女を置いて走り去って行った。


「・・・女を捨てるとは男の屑だな」


夜叉王丸は苛立った口調で吐き捨てると片膝を着いて意識を失った黒闇天を間近で見た。


女というよりは少女と言った年齢だ。


十七、十八で腰まで伸びたアメジストと白が混ざって色彩が薄い紫の長髪に宝石のような瑠璃色の瞳だったが今は閉じている。


手に持っていた扇は離れた場所に転がっていて手に取って開いてみた。


「・・・・・・・」


“我が娘、黒闇天”


毘沙門天の筆跡で書かれていた字を見て夜叉王丸は間違いなく毘沙門天の娘だと確信した。


「飛天様。その娘は大丈夫ですか?」


壁に隠れていたジャンヌが夜叉王丸に近づいてきた。


「頭を打って気を失っただけだ」


首に手を当てて脈がある事を確認してから答えた。


「ともかく手当てをしないと」


ジャンヌが心配そうに黒闇天を見下ろした。


「近くの宿に部屋を借りよう」


黒闇天を片手で軽々と抱き上げると左手にトランクを持って宿を探し始めた。


残った市場の者は夜叉王丸とジャンヌの背中を信じられない様子で見ていた。


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