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第十七章:妖鳥族の里へ

屋敷に帰った夜叉王丸は城での出来事をダハーカ達に伝えた。


「俺らを敵に回すとは哀れな奴らだ」


ダハーカがジョーカーを蒸かしながら感情の無い声で言った。


「まったく。昔から妖狸は礼儀ってもんを知らないから困ったものだ」


茨木童子が舌打ちをしながらコーヒーを口にした。


「どっち道これから殺すんだ。礼義なんて気にしなくて良いだろ?」


フェンリルが欠伸を洩らしながら答えた。


「フェンの言う通りだ。これから死ぬ奴らに礼儀なんて要らねぇよ」


ゼオンがフェンリルに賛同した。


「主人様。何時ごろ起つ積もりですか?」


ヨルムンガルドが一人用のソファーに座りながらセブンスターを吸う夜叉王丸に尋ねた。


「準備が出来次第に起つ。兵たちにも伝えて置け」


「畏まりました」


ヨルムンガルドは頷くと部屋を出て行った。


「ダハーカ。今回は、手加減なしで良い。殺戮の限りを尽くせ」


夜叉王丸の言葉を聞いてダハーカは不敵に笑った。


「ほぉう。それは結構だ。バルト戦じゃ楽しめなかったからな」


口端を釣り上げて笑うダハーカ。


「話しは終わりだ。全員、準備をしとけ」


ソファーから立ち上がると夜叉王丸は素手でセブンスターを揉み消して部屋を出た。


自室へと足を向ける中で不意にジャンヌが出てきた。


「お帰りなさいませ。飛天様」


メイド服ではなく風呂から上がったのか白いネグリージェに水色のレースを肩に掛けている姿で梳かれた髪が微かに濡れていた。


「・・・・・あぁ。ただいま」


「どうかなさいましたか?」


夜叉王丸の様子が可笑しいのに気づいたのか心配そうに聞いてきた。


「近い内に戦に行く事になった」


戦と聞いてジャンヌは表情を硬くした。


「そう、ですか」


「・・・・あぁ。だから、暫く屋敷を開ける事になる」


「私は、戦に参加する事は出来ません。だけど、飛天様達が無事に帰って来る事を願っています」


頭を下げたジャンヌの蒼銀髪が揺れて夜叉王丸の鼻を刺激した。


「・・・・心配するな」


夜叉王丸は一房摘むと口付けた。


「必ず帰って来る。だから、屋敷を頼むぞ」


名残惜しげに髪を離すと夜叉王丸は自室へと向かった。


「・・・鵺」


自室に入ると直ぐに鵺を呼び出した。


「お呼びでしょうか」


音も無く現れて片膝を着く鵺に夜叉王丸は命じた。


「日本に飛んで出来る限り情報を掴んで来い」


「御意」


鵺は直ぐに姿を消して夜叉王丸だけが残った。


「・・・・この俺に喧嘩を売った事を後悔させてやる」


ギリッと唇を噛み夜叉王丸は妖狸に怒りを露わにした。


将皇が助けを求めて来てから一日が経ってから兵士たちに戦の事を説明した。


「これは、俺の私的が理由での戦で死んでも無駄死になるかもしれない」


「もしも行きたくない者がいるなら名乗り出ろ。咎めはしない」


暫く待ったが誰も名乗りを上げなかった。


「俺は、お前たちのような兵を持って幸せだ」


夜叉王丸の言葉に兵たちは照れ笑いを漏らした。


「ベルゼブルから必要な物は揃えると言われたから何か必要な物があるなら言え」


「それなら軍医殿が欲しいです」


一人の兵士が名乗り出た。


夜叉王丸の軍団には軍医が誰もいない。


「しかも美人で優しい女医さんが欲しい!!」


ダハーカの言葉に皆が頷いた。


「美人は保証できないが軍医は用意する。他には?」


「特にないから美人女医を頼む」


「出来るだけ努力してやる」


夜叉王丸は溜め息を吐きながら答えると背中を向けた。


それからベルゼブルに報告しようと城に向かおうとユニコーンに乗り屋敷を出た時に門の前でソフィーと会った。


「ソフィー。どうした?」


夜叉王丸がユニコーンから降りて尋ねた。


「は、はい。この度、戦に行くと噂で聞きまして、是非とも私を同行させて貰いたく来ました」


「同行?」


「はい。夜叉王丸の軍には医者がいないと聞いております」


だから自分を軍医にしろと言うソフィー。


『女医で美人』


目の前にいるソフィーならダハーカ達も顔見知りだし美人だから納得するだろう。


「よし。分かった。それじゃ、軍医として同行してくれ」


少し考える振りをして直ぐに結論を出した。


「は、はいっ」


ソフィーは大きく頷いた。


「何か必要な物があるなら言ってくれ。ベルゼブルに伝えるから」


ソフィーは手術道具など戦場で必要な物を要求した。


その他には、どうしても助けられない者に慈悲の心で止めを刺す為に使用するスティレットまたの名をミセリコルディア、慈悲の短剣と呼ばれる短剣を注文した。


他に必要な物がない事を確認すると夜叉王丸はユニコーンに再び乗ると魔天楼に向かった。


「・・・・以上だ」


ベルゼブルに必要な物を言い終えた夜叉王丸はセブンスターを銜えた。


「言われてみたら、お前の軍団には医者がいなかったな」


今さら気付いたように言うベルゼブル。


「あぁ。よく今まで生き残って来たと思うよ」


苦笑する夜叉王丸。


「まぁ今度からはソフィーがいるなら問題ないだろ?後、何人か医者を寄こそう」


「頼む。だけど、エリートやキャリア組は駄目だぞ」


「分かっている。その点は心配するな」


夜叉王丸の付け足した言葉に苦笑しながら答えるベルゼブル。


「なら良い。それじゃ、俺は帰る」


背を向けてドアに手を掛けようとした時に先にドアが開きシャルロットとシルヴィアが入って来た。


反射的にベルゼブルを見るがベルゼブルも困惑している表情だった。


「皇子様。今回も私たち近衛兵を置いて行く積りですか?」


「飛天様。私たち親衛隊は飛天様を護るために存在しているんです。それを置いて行くなんて酷いですよ」


何時もは仲の悪い二人だが今回は巧みな連係プレイで夜叉王丸に詰め寄って来た。


「いや、誰も連れて行かないなんて行ってないぞ」


内心では置いて行く積りだったが、嘘を吐いた。


「本当ですか?」


「前にもそんな事を言って置いて行かれた気がするんですけど?」


『何で、こういう時に仲良く組むんだよ』


「今回は軍医も連れて行くから護衛する奴らが欲しかったんだよ。だから、お前らがいると助かる」


『私は貴方を護る為に存在するんです』


と口を揃えて言って夜叉王丸の言葉を一掃する二人。


「まぁまぁ、二人とも。軍医を護衛するのも大切な役目だぞ」


見かねたベルゼブルが助け舟を出した。


「軍医が居なければ傷ついた兵を助けられない。それに、こいつはダハーカという相棒がいる」


『あんな性欲の塊は当てに出来ません』


ベルゼブルの言葉も一掃する二人に夜叉王丸は嘆息した。


「あんまり言わないでくれ。あれはあれで頼れる所があるんだ」


「な?頼む。軍医の護衛をしてくれ」


もはや拝み倒しする形で頼む夜叉王丸に二人は渋々ながら折れた。


『・・・・分かりました』


はぁ、と親子二人は溜め息を漏らした。


「時に皇子様。牢に入れた妖狸の者はどうしますか?」


思い出したようにシルヴィアが言った。


「あいつらは海にでも放り込んでの海獣の餌にしろ」


「サタナエルはどうなさいますか?」


「ああ、あいつもいたか」


「お前が殺さない限り生きてるぞ」


呆れた口調で喋るベルゼブル。


「飛天様から見ればサタナエルなど記憶する程でもない小物のいう事ですね」


シャルロットが皮肉気に笑った。


自分の父親を死に追い詰めたサタナエルを殊のほか憎んでいるのを夜叉王丸は誰よりも知っている。


「まぁ、先に狸を始末してからサタナエルの事は片付ける」


夜叉王丸とシルヴィア、シャルロットはベルゼブルに一礼して部屋を出て二人と別れた夜叉王丸は将皇の元へと向かった。


「将皇殿。傷の具合は如何ですか?」


ベッドで寝ている将皇に尋ねた。


「はい。医者の手当が早かったお陰で何とか動けるようになりました」


傷は深かったが人間ではなかった事から思いの外に癒えるのが早いようだ。


しかし、激しい動きなどは出来る訳ではない。


「準備が出来次第にでも日本に行きます」


「将皇殿は傷もありますし、城で待っていて下さい」


夜叉王丸の提案を将皇は断った。


「いえ。私も同行します。一人、城で待つ事など出来ません。どうか共をさせて下さい」


傷口が開いたのか苦痛に顔を歪めながら将皇は夜叉王丸に懇願した。


「・・・・分かりました。将皇殿も連れて行きましょう」


将皇に宿る意志の強さに夜叉王丸は何かを感じ取ったのか承諾した。


「ありがとうございます」


丁寧に頭を下げる将皇。


「では、出発の時にまた会いましょう」


夜叉王丸は将皇と別れると屋敷へと帰って行った。


二日で戦準備を済ませた夜叉王丸の軍団は傷ついた将皇を連れて日本の妖鳥族の里へと向かった。


「・・・・これは、酷い」


妖鳥族の里は以前に来た時とは違い焼け跡の残骸などで廃墟と化していて屋敷も半分が焼け落ちていた。


「・・・・奴ら夜、民家に火を点けて警備が手薄になった所を見計らって屋敷を襲ったんです。その時、姫様が・・・・・・・・」


ギリッと夜叉王丸のユニコーンに乗った将皇は唇を噛んだ。


「・・・風疾殿は何処に?」


怒りを押し殺した声で将皇に尋ねる夜叉王丸。


「はい。無事な部分にいます」


将皇が先導して進み後に続いた。


焼け落ちていない部分の屋敷に入ると風疾が紫の布を額に巻いて寝込んでいた。


「お、おぉ、夜叉王丸様・・・・・・・・・」


風疾は臣下に支えられながら起き上った。


「来て下さったのですね・・・・・・・・」


震える手で近くに寄って来た夜叉王丸の手を握る風疾。


その姿は弱々しく哀れな姿だった。


「娘を、緋夜を助けて下さい。お願いです」


涙ながらに頼む風疾。


「・・・御安心ください。必ず緋夜殿と里の娘たちを取り戻してみせます」


風疾の手を強く握り締めながら夜叉王丸は励ますように言った。


礼を言う風疾を布団に寝かせた夜叉王丸は一人の臣下と話をした。


「里の兵はどうしましたか?」


「現在は、妖怪王の指揮する連合軍と一緒に妖狸の里に陣を構えています」


「敵の里に?」


「はい。奴らは城下町を取り囲んだ形の城に立て籠もっているんです。城の外に空堀を掘って、その上から幾つかの要塞を作って兵を散開させているんです」


「なるほど。籠城に塹壕ですか」


夜叉王丸は少し考える素振りを見せたが、直ぐに臣下に向き直った。


「分かりました。くれぐれも風疾殿を頼みますよ」


臣下が深く頷くのを確認して夜叉王丸は屋敷の外で待たせていた兵士たちに向かって叫んだ。


「これから妖狸の里に向かう。良いか?今回の戦、必ず勝つぞ。俺ら悪魔に喧嘩を売った事を骨の髄まで教え込んで二度と刃向えない位に叩くぞ!!」


おぉ!!と兵士たちは叫び声を上げて武器を掲げた。


「行くぞ!!」


夜叉王丸は飛竜姿のダハーカに乗ると天高く飛び妖狸の里へと向かった。


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