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第十四章:首都へ引越し

宴の翌日の朝、夜叉王丸は身支度を揃えると妖鳥族の里を出て行った。


見送りは昨夜に抱いた女性だけだったが、それは女性が望んでいた事でもあると夜叉王丸は考えていた。


女心を組まない男は最低だと思っている夜叉王丸は女心を組んで女性一人に見送られて里との境界線を越えて人間界へと戻った。


人間界に戻った夜叉王丸はサングラスを掛けてコートからセブンスターを取り出してジッポで火を点けると道路に面した歩道を歩きだした。


「・・・ふぅー」


夜叉王丸は紫煙を吐きながら残り一日を何処で過ごそうかと考えていたが、何かを閃いたのか立ち止まった。


「魎月の家にでも行くか」


数百年前に王として隠居したが影響力は未だに強く実力も計り知れない。


義弟と弟子も魎月と一緒に隠居して思い思いの生活をしていると聞く。


魎月は横浜の一軒家で探偵稼業を営みながら妻と二人で暮らしている筈だ。


「ここからだと六、七時間は掛るな」


車などでは時間が掛るが魔術を使えば直ぐに行ける。


だが、夜叉王丸は敢えて魔術を使わない事にした。


「旅は行く過程を楽しむものだ」


誰に言う訳でもなく夜叉王丸は再び足を動かした。


一時間くらいしてドライブインに着きタクシーを拾うと京都駅まで連れて行ってもらった。


「お客さんは東北から来たんですか?」


タクシーを運転する気立ての良さそうな中年男性が聞いてきた。


「何でだい?」


「いえ。言葉の中に東北訛りがあったものですから」


「よく分かったね。確かに東北出身だよ」


夜叉王丸は苦笑して答えた。


「里帰りか何かですか?」


革トランクを見て帰郷するのかと思ったのだろう。


「いや。今回は横浜にいる友人を訪ねに行くんだ」


「そうなんですか?」


「あぁ。実家からは縁を切られていてね」


運転手は申し訳ないと謝った。


「気にしなくて良いよ。もう何十年も前だから」


話しを打ち切ると他愛もない話をして駅まで向かった。


「楽しい時間だったよ」


運転手に一万円多く渡して礼を言った。


「また機会があればご利用ください」


チップを貰って運転手は笑顔になりながら去って行った。


駅に着いた夜叉王丸は神奈川行きの新幹線に乗ってから魎月に携帯で連絡した。


「夜に横浜に行くんだが、大丈夫か?」


「あぁ。藍璃も大丈夫だと言っている」


「分かった」


短い会話で連絡を終えるとトランクを隣の席に置いて帽子を深く被ると眠りに着いた。


たっぷりと東京に着くまで熟睡した夜叉王丸は革トランクを持つと駅から降りてタクシーを拾い横浜に向かった。


横浜の魎月の家に着いたのは午後九時半になってからだ。


ドアノブを叩くと中から女性の声がしてドアが開いた。


「こんばんは。飛天さん」


黒髪を後ろで結って可愛らしいエプロン姿で出て来たのは魎月の妻で藍璃と言う。


「よぉ。藍璃ちゃん。久し振り」


ニッコリと笑う夜叉王丸。


「勇牙さんー。飛天さんが来ましたよー」


中に入ると奥からグレーのランニングシャツに黒のジーパン姿の同い年くらいの男が出てきた。


「よぉ。魎月」


片手を上げて笑い掛けると男も笑いながら片手を上げた。


「久し振りだな。飛天」


二人は再会を喜んだ。


「藍璃。すまないが酒棚からヘネシーのコニャックを一献とってきてくれ」


「分かりました」


藍璃は直ぐに地下室へと続く階段へと姿を消した。


「行き成り来るって事は気紛れだな?」


一人用のソファーに夜叉王丸を座らせると魎月、勇牙は苦笑して聞いた。


「まぁな。残り一日の休暇をお前の家で過ごすのも悪くないと思ってな」


夜叉王丸の答えに勇牙は苦笑した。


「独身だからこそ出来る行動だな」


「まぁな。お前の場合は無理だろ?」


「あぁ。だけど、一人身には得る事の出来ない温かい家庭があるからな」


互いに独身と家庭持ちを話題に他愛無い話しをしていると藍璃がコニャックを持ってきた。


勇牙は藍璃から受け取ったヘネシーのコニャックを氷の入ったグラスに入れて夜叉王丸に渡した。


「久し振りの再会に乾杯」


二人はグラスを合わせてコニャックを口にすると藍璃も混ぜて談笑した。


深夜二時になって眠くなった藍璃と一緒に勇牙も寝室に行き夜叉王丸は二人用のソファーで眠る事にした。


翌日の午後になってから夜叉王丸は魎月と藍璃夫妻に見送られながら魔界へと帰還していった。


魔界に帰った夜叉王丸はバラテに戻ると引っ越しの準備をするヨルムンガルドに出迎えられた。


「お帰りなさいませ。主人様」


執事服に身を包み兵士に命令するヨルムンガルドは夜叉王丸の姿を見ると一礼した。


「あぁ。ただいま。後どれ位で準備が終わる?」


「十分後かと」


「そうか。俺の荷物は?」


「兄さんと茨木殿が運んで行きました」


「って事はダハーカ達も一緒か?」


「左様です」


「そうか。俺は取り合えず万魔殿に行くから後は頼む」


「畏まりました」


ヨルムンガルドは一礼すると再び作業の命令に戻った。


翼を出して万魔殿に向かった夜叉王丸は今頃になって見上げ物を買ってくるのを忘れていた事に気付いた。


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