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第十一章:治療と旅行

医務室に着いた夜叉王丸は胸にしがみ付いたままの少女を優しくベッドの上に置いた。


「あ、あの、ありがとうございました」


少女は頬を赤くさせながら礼の言葉を言った。


貴族の令嬢として人の前で男にしがみ付いて泣いた事を恥じているのだろう。


「なぁに。俺の揉め事に巻き込んだんだ。礼は要らないよ」


苦笑して答える夜叉王丸。


「それじゃ、俺は消えるよ」


背を向けて去ろうとする夜叉王丸。


「皇子様っ。傷の手当ては?」


老医が慌てた口調で夜叉王丸に聞いた。


「いや、娘の前でむさ苦しい男の手当てなんてしない方が良い」


じゃあな、と言って医務室を出て行った。


「さぁて、あいつならまだ起きてる筈だから行ってみるか」


突き刺された短剣を抜きもしないで夜叉王丸は万魔殿のとある場所に向かった。


「・・・・居るか?」


コンコンとドアを叩く夜叉王丸。


夜叉王丸がいる向かった場所は万魔殿にある小さな診療所。


ここに昔馴染みの医者がいるのだ。


暫くするとドアが開き中から白金の髪を靡かせた美女が出てきた。


ペイモンやシルヴィアなどの美しさとは違い温和で癒される美しさだった。


赤いフレームの付いた洒落た丸眼鏡から見える黒い真珠の瞳が可愛らしかった。


「まぁ、飛天様。どうしたのですか?」


「夜遅くにすまないな。ソフィー。少し怪我をしてな。診てくれないか?」


自身の身体に刺さった短剣を見せる夜叉王丸。


「どうぞ。こちらへ」


ソフィーと呼ばれた女は眉を顰めたが、夜叉王丸を中に招き入れた。


この女性はソフィー・デルモット・エーデルという元宮廷侍女で夜叉王丸の侍女だったが現在は女医として万魔殿に診療所を設けている。


「椅子に座って服を脱いで下さい」


治療室に入れると椅子に座らせると机に医療ハサミと包帯、消毒液を用意した。


「どうなさったのですか?」


「ヘルブライに襲われてな」


「飛天様なら傷など負わない筈ですから、人質を取られたのですか?」


短剣を抜きながらソフィーは推測した。


「あぁ。お陰でこの様だ」


「幸いにも傷口は浅いです。心配いりません」


全ての短剣を抜いて消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に張った。


「すまないな」


「いいえ。どんな時も患者が来れば治療するのが医者として務めです」


ガーゼの上から包帯を巻き笑顔で答えるソフィー。


「はい。これで大丈夫です」


「ありがとう。金は今度払うよ」


椅子から立ち上がり血で濡れた軍服を持って部屋を出ようとした。


「あの、軍服、私が洗いますよ?それに、今夜は遅いですし泊まった方が・・・・・・・・」


さっきまでの態度と一変して赤面しながら途切れた口調で喋るソフィー。


「一人暮らしの女の家に俺みたいな無頼が泊まる訳にはいかないだろ?」


苦笑する夜叉王丸。


「い、いいえっ。私は大丈夫です。それに、飛天様となら・・・・・・・」


「あ?何て言った?」


最後の方が聞き取れずソフィーに尋ねる夜叉王丸。


「い、いいえ!何でもありません!!そ、それより今日は泊って下さい!?」


「そこまで言うならお言葉に甘えようかな」


ソフィーの態度に夜叉王丸は苦笑して答えた。


「そ、それじゃ、こちらへ」


治療室を出て案内された場所は客室だった。


机とソファーが二つと質素な造りだった。


「毛布をお持ちします」


どこか嬉しそうに言いながら部屋を出るソフィー。


「そう言えば、ダハーカ達はどうしてるかな?」


勝手に置いてきたが、恐らく帰っているだろうと思った夜叉王丸は毛布が来るのを待たずにソファーに横になると眠りに着いた。


次の日の朝、ドアを叩く音で起きた。


「朝は低血圧なのに・・・・・・・」


ギロリと鋭い眼差しを送る夜叉王丸。


彼の低血圧は酷いもので眼つきが破滅的に悪く初対面の者には最悪の印象を与えている。


「飛天様。起きていますか?」


「あぁ。少し待っててくれ」


コートの中からサングラスを取り出して掛ける夜叉王丸。


「入って良いぞ」


失礼します、と断ってソフィーが入って来た。


「朝食をお持ちしました」


焼いたトーストと半熟目玉焼きとコップ一杯のコーヒーを二人分もったソフィーが机に置いた。


「私もご一緒して良いですか?」


昨日の態度とは違い平常だった。


「あぁ」


サングラスを掛けた夜叉王丸を不思議に思わずにソフィーは向き合うように一人用のソファーに座った。


「すまないな。休ませて貰った上に朝食もご馳走して貰って」


夜叉王丸はトーストを齧りながら感謝した。


「いいえ。他ならぬ飛天様ですもの。お気になさらずに」


コーヒーの入ったカップを持ちながらソフィーは答えた。


「ブルーマウンテンを使っているな?」


「はい。少しお金が入ったので奮発して買っちゃいました」


クスリと笑うソフィーに釣られて夜叉王丸も微笑んだ。


「この濃くのある香りが実に良い」


トーストと目玉焼きを食べ終えるとコーヒーカップを取って香りを楽しむ夜叉王丸。


「ちゃんとミルク入りですからね」


ソフィーの言葉に夜叉王丸は苦笑した。


「ありがとう。ソフィー」


「いいえ。これも元宮廷侍女としての役目ですから」


二人は互いに笑い合ってコーヒーを飲んだ。


それから朝食を終えた夜叉王丸はソフィーに礼を言って診療所を後にしてバラテへと向かった。


バラテに帰ると予想通りダハーカ達は帰っていた。


「お前もゼオンと同じく朝帰りかよ」


ソファーでジョーカーを蒸かしながらダハーカは不機嫌そうに言った。


「ゼオンも?って事は、また小遣い稼ぎか」


元罪人のゼオンだが、女受けが良く貴族の未亡人や既婚者と愛人関係を持つなどプレイボーイの顔を持っていた。



「お前がヘルブライの野郎をしっかり殺しておかないからいけないんだ」


苛立った様子でジョーカーを灰皿で揉み消すダハーカ。


「?何かあったのか?」


「ヘルブライが乱入して来たせいで、お預けを食らったんだと」


茨木童子が竹竿の手入れをしながら答えた。


「なるほど。そりゃ悪かった」


悪ぶった様子もみせずに謝る夜叉王丸。


「所でフェンとヨルムは?」


「フェンは昼寝でヨルムは経済雑誌を読んでる」


「そうか。取り合えず、お前らに言っとく。旅に出かける」


「旅?唐突にどうした?」


「恐らく、そろそろフォカロル辺りが俺を呼び出しに来る筈だから逃げる」


「分かった。後は任せろ」


茨木童子は竿を布で包みながら言った。


客人の接待などでは茨木童子が一番得意だった。


フェンリルとダハーカ、ゼオンは気が早いため向かずヨルムンガルドは笑顔で毒を吐くため喧嘩になり易い。


鵺に関しては無愛想で無表情のため論外だ。


それに比べて茨木童子は見た目に寄らず子供好きで接待も得意だ。


「それじゃ、後は頼む」


夜叉王丸は部屋に戻ると黒のジャケットを着てソフト帽を被ると手早くオーダーメイドで作らせた黒の革トランクに必要な物を入れると人間界へと通じる門を開き魔界を去った。


その五分後にフォカロルが来て茨木童子が接待に当たったのを夜叉王丸は知らない。


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