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第九章:別れと帰還

バルトに滞在して半年が経過した。


その頃には夜叉王丸は傷が癒えて帰還できるようになり魔界に帰る事になった。


「色々と世話になったな。ジャンヌ」


夜叉王丸は黒いトレンチコートを着ながらジャンヌに感謝した。


「いいえ。私の方こそ礼を言う方です。・・・・・・本当に、ありがとうございました」


ジャンヌは涙声になりながら礼の言葉を言った。


半年という短い期間だったが、その半年の間で夜叉王丸に好意を抱き始めた時の帰還であるためジャンヌは悲しさを抑えられなかった。


「・・・・・・・・」


夜叉王丸は後ろにいるジャンヌに向き直ると指で優しく目元を拭ってやった。


「・・・・泣くな。お前には笑顔が一番似合う」


ジャンヌは我慢できないように夜叉王丸の胸に飛び込んで静かに泣いた。


暫く抱き合っていたが、呼ぶ声がして二人は離れた。


夜叉王丸が船に乗るとジャンヌを始めとした天使達が港で見守っていた。


無情に船が港を離れても天使達は船が見えなくなるまで見送った。


その中でもジャンヌは、ずっと夜叉王丸を見続けた。


船が見えなくなっても暫く見続けていた。


夜叉王丸を乗せた船は当初とは違いゆっくりとした速さで三日間を掛けて魔界に到着した。


魔界に到着すると港には仰々しい行列な夜叉王丸を出迎えた。


夜叉王丸を護る護衛騎士団である近衛兵だ。


近衛兵とは王族などを護る警護騎士団で剣だけでなく毒物などの知識や魔術、射撃なども要求される。


全ての騎士にとって近衛兵に抜擢される事は名誉ある事である。


しかし、夜叉王丸の近衛兵は不満が一杯だった。


そのためか夜叉王丸が降りて来ると怒りの表情が更に険しくなった。


「・・・・お帰りなさいませ。皇子様」


一人の近衛兵が一歩前に出て夜叉王丸に敬礼した。


黒い軍服に身を包み黒のベレー帽を被った近衛兵が敬礼すると腰まで伸びたウェーブの掛った金髪が夜叉王丸の手に当たった。


歳は夜叉王丸と同い年で美形だが、険しい顔で綺麗よりも恐ろしさの方が増して濃紺の瞳は鋭かった。


『・・・・不味い相手に会ったな』


夜叉王丸は嫌な予感が当たったと嘆いたが、そんな表情は出さなかった。


「出迎え御苦労だな。シルヴィア」


「勿体ない言葉を」


女、シルヴィアは険しい顔のまま一礼した。


シルヴィア・エターナ・ゾルディスは元地獄帝国海軍の中将を務める女侯爵だったが実力を買われて夜叉王丸の近衛兵騎士団の隊長になった。


本来なら嬉しい限りだが、堅苦しい事を嫌う夜叉王丸のために戦場でも連れて行って貰えず外出の時も同行を許されないという目に合っている。


隊長を務めるシルヴィアにとっては夜叉王丸の皇子らしからぬ行動には貴族として近衛兵として我慢し難いものがある。


バルト戦も着いて行く筈が元上司であるリヴァイアサンの命令でヘルブライ男爵の軍団を夜叉王丸の護衛団である近衛兵を率いて倒して夜叉王丸に着いて行けなかったため機嫌が悪い。


「・・・・この度は多大なる戦果を上げたと聞いております」


事務的な口調で話すシルヴィア。


「あ、あぁ。まぁ、な」


夜叉王丸はどうにかして逃げる手はないかと考えていた。


「是非とも詳しい話を馬車の中でお聞きしたいです」


有無を言わさない口調で喋るシルヴィア。


高級そうな馬車の中に入ればシルヴィアの愚痴と説教話が待っているのは必定だ。


『・・・・ど、どうする』


ダハーカ達が心配そうに見守る中でシルヴィアが迫った。


「さぁ、早くの・・・・・・」


「お帰りなさいませ。飛天様」


シルヴィアを押し退けるようにして現われた人物がいた。


歳はジャンヌと同じ位で着ている灰色の軍服と腰まで伸ばしたストレートの薄紫色の髪が見事に合って妖しく光って琥珀色の瞳が少女のように純粋だった。


「おぉ。シャルロット」


夜叉王丸は助かった笑みを浮かべた。


シャルロット・フェルディオナ・ルーゼンベラクレス、没落した伯爵家の令嬢だったが伯爵家を再興させて騎士の称号を得た女伯爵で夜叉王丸の部下でもある。


夜叉王丸とはある事件で知り合ったのだが、それは別の物語で書く事にさせてもらう。


伯爵家を再興したシャルロットは近衛兵とは違う新たに親衛隊と呼ばれる新たな隊を作り上げた。


この隊は貴族だけの近衛兵とは違い中流階級の者でも実力者なら入れる隊として人気があり夜叉王丸の護衛部隊でもある。


堅苦しさを何より嫌う夜叉王丸にとっては友達感覚で付き合える部隊として近衛兵よりも仲良くしていてシルヴィアから目の敵にされている。


「お身体は大丈夫ですか?重傷を負ったと聞いたので城で待つ事が出来ずに来てしまいました」


心配そうな表情で夜叉王丸に近づくシャルロット。


「あぁ。大体は治った」


軽く身体を動かしてみせる夜叉王丸にシャルロットは微笑んだ。


「それは良かったです。このシャルロット、大恩ある飛天様にもしもの事があったらどうしようかと気を揉んでいました」


「女の子に心配を掛けるとは最低だな」


自嘲気味に笑う夜叉王丸。


「いいえ。女を心配させるのも男の特権というものです」


シャルロットは夜叉王丸の頬に触れようとした。


その時だった。


横から剣が突き出されてシャルロットは反射的に避けて腰に差したレイピアに手を掛けた。


「気安く皇子様に触れるな。白豹」


シルヴィアが近衛兵騎士団の証であるS字型の鍔が特徴の両刃剣、カッツバルゲルの剣先をシャルロットに向けながらドスのある声で言った。


「行き成り剣を向けるなんて近衛兵として恥ずかしくないのですか?」


シャルロットも腰に差した金とルビーで飾られたレイピアとマインゴーシュを抜いて低い声で言い返した。


「黙れ。貴様などに言われる筋合いはない」


「怒ると皺が増えるわよ。“おばさん”」


その場にいた者達が凍りついた。


「・・・・きぃぃさま!!」


シルヴィアがカッツバルゲルを持ってシャルロットに襲い掛かった。


二人が剣を交えるのを近衛兵と夜叉王丸達は呆れた眼差しで見た。


シルヴィアとシャルロットが喧嘩するのは何時もの事だ。


「・・・・今の内に城に行くか」


夜叉王丸の言葉にダハーカ達は頷いてシルヴィアとシャルロットが喧嘩をしている内に馬車に乗り城へと向かった。


後に残った近衛兵と親衛隊は顔を見合せてどちらともなく夜叉王丸の後を追った。


馬車に乗り城に着くと、門の前で大勢の宮廷女官達が夜叉王丸を出迎えた。


「夜叉王丸様っ。どうぞ、こちらへ」


女官達は夜叉王丸の腕を掴むと大急ぎで衣装室へと引っ張って行き後に残されたダハーカ達は茫然としていた。


「時間がありませんから手早く済ませますよ!!」


女官頭の言葉に女官達は頷いて夜叉王丸の服を脱がすと素早く黒の立襟型の軍服を着せた。


「次は髪よ!!」


ボサボサと伸びた髪を象牙の櫛で丹念に梳かした。


「お髭も剃らせて頂きます!!」


髭は女官頭自らが剃刀で剃った。


「・・・・・終わったか?」


げんなりとした口調で尋ねた。


「はい。とても凛々しいですわ」


女官達は惚れ惚れとした息を吐いた。


半年の間、髪も髭も伸ばし放題だった夜叉王丸は大きく変化した。


ボサボサだった髪は櫛で梳かされて艶が出来て無精髭も剃った事で中々の男前になった。


「これなら皇子として申し分ないですわ!!」


自信満々で頷く女官達に呆れながら夜叉王丸は立ち上がって同田貫を腰のベルトにぶら下げた。


「刀よりサーベルの方が似合いますわ」


女官頭が不満そうに言った。


「俺みたいな無頼には刀が似合うんだよ」


苦笑して答えながらソフト帽の変わりに黒の軍帽を被ると黒のロングトレンチコートを羽織ると女官達に礼を言って部屋を出た。


部屋を出て客室に向かうとダハーカ達が煙草を蒸かしていた。


「随分と弄られたな」


夜叉王丸の格好を見てダハーカは目を細めた。


「だから宮廷は嫌いだ」


艶のあるポニーテールの髪型を無造作に掻き上げた。


「そう嫌がるなよ。せっかくめかし込んだんだ。どっかの令嬢でも引っ掛ければ良いだろ?」


茨木童子が左腕の義手を布で拭きながら笑った。


「冗談言うな」


心底、嫌そうな顔をする夜叉王丸。


「・・・・皇子様。皇帝陛下、並びに王族の方々がお待ちです」


兵士が部屋の中に入って来て夜叉王丸に謁見するように言った。


「分かった。直ぐに行く」


夜叉王丸は頷くとダハーカ達に促した。


ダハーカ達も頷いて八人で謁見の間へと向かった。


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