ノアの生きる理由
鬱エンド?
当然フィクションです。
苦手な方は光の速度で逃げてください。
初投稿なのでご容赦を。
「僕はノア、10歳だ。施設で育ったが、
立派な男だ。と、思う。」
「僕の趣味が変わっているとみんなが言うんだ。
廃墟とか、新しいやつもいい!建物探検が好きなんだ。」
「みんなと懐中電灯とコンパスをもって探検するんだ。
あ、みんなっていうのは…。」
ノアの自己紹介を遮るように声がする。
「もういいわ、次の子にしましょう。」
華やかな女性がそういうと、側にいる男性が指示を出す。
普段怒ってばかりの、養護施設の『先生』と呼ばれる
職員が営業スマイルで従う。
時々ある異様な光景。
ポピーの番だ。
「ポピーよ。初めまして。
ポピーは大人しいから、静かにできるの。」
薄く開いたドアの向こうにいるジャックが、
クスクスと笑いだす。
しかめっ面のポピーが、大げさに足音を立ててドアに近づく。
ポピーは怒りに任せてドアを乱暴に閉めた。
中から「ポピー!」と先生の怒鳴り声が聞こえた。
ジャックは大笑いだ。
午前中から続いた異様なイベントは午後3時には終わり、
それぞれ外に遊びに行く。
ポピーの次に面接したリリーは、
遊びに来られなかった。
先生は「暗くなる前には帰るのよ。」と言いつつ、
送り出してくれた。
ガブが「行くぞ。」と一番低い声をかける。
それに伴い、僕、オリバー、
ゲオルグ、ジャック、ポピーが歩く。
ジャックとポピーはいつも同じ喧嘩をする。
「いっつもポピーが後ろだな!」
「ここに紳士は、一人もいないのね。」
「なら一番前に行けよ!」
「一番前に行ったら誰についていくのよ!」
再び一番低い声がする。
「遅くなるようなら、引き返すぞ!」
とガブが止める所まで一緒だ。
ガブリエルは最年長で14歳。
略称ガブ。
学校に通いながら、僕らのことを見ている。
僕はガブのことが少しだけ嫌いだった。
いっつも偉そうにしていて、いや、偉いけど。
声が一番男らしくて。
どこかに遊びに行っても、
何かを見つけたらすぐに取り上げる。
危険じゃないかチェックするんだって。
そんなガブがいないと、僕らは外に遊びに行けないんだ。
いつもの公園についた。
普通の子供たちもいる。
ポピーが走り出し、
女の子2人のところに入っていった。
ジャックはゲオルグとオリバーを連れて、
走り回っている。
それをガブが軽く追いかける。
それを見るのが僕のいつもの行動。
ガブが疲れたのかこっちに来て座る。
「何してる?」
僕は答える。
「見てる。」
「何を?また建物か?」
「うん。いつかあんな家に住みたいんだ。」
「いいな、それ。」
「ガブは来ないでね。」
「なんで?俺が嫌いか?」
「そんなんじゃない。僕の家だからさ。」
「立ててから言えよな。」
「そうだね。」
ガブは僕より大人だ。
だから少しだけ嫌いなんだ。
ガブが急に走っていった。
ポピーが泣いているみたいだ。
ジャックはそれを必ずいじる。
ゲオルグとオリバーは助けもしない。僕も。
空を見ると雲が、覆いかぶさる布団に見えた。
「そろそろ帰るぞ!」
少し震える僕を動かしたのはガブの声だった。
やっぱり少しだけ嫌いだ。
施設につくと、手を洗ったりみんなで
食器を運んだりする。ジャック以外はね。
手を合わせてお祈りをして食事をするんだ。
ガブに何回怒られてもジャックはすぐ食べる。
今日は少し豪華な食事だった。
リリーに里親が決まったって。
ポピーは泣いていて先生に「ポピーは?」
って言っていた。
今日もよく泣いているなぁ。
リリーが去っていつもの日常になったけど、
今日は違った。
公園の近くの建物が、老朽化しているから
取り壊すらしい。
先生が持ち主と知り合いで、
お願いしたら一日だけってことで
許可が下りた。
待ちに待った建物探検だ!
ガブから渡されたマスクをつけて
コンパスを持って、準備は万端だ!
到着した建物は二階建ての民家で、
引っ越しはすでに終わっている。
ガブも含めて普通の家に入ることは
まったくない。
オリバーとゲオルグは施設に来る前に
家で住んでいたみたいだけど、
あんまり思い出せないみたい。
僕も昔のことは思い出せないや。
建物に入るとわくわくする。
でも必ず低い声の邪魔が入る。
「気を付けて歩けよ!何か見つけたら知らせろ!」
僕は少しだけため息をつきながら歩く。
電気は来ていない。昼間だから明るいけど、
部屋によっては暗い所もある。
「うわー!」
突然、虫嫌いのオリバーが叫んだ。
ジャックは笑う。
心配するのはガブの仕事だ。
オリバーの声のせいでポピーが動けないらしい。
オリバーは「もうやめようよ。」とぐずりだし、
ゲオルグはオリバーと同じ意見のようだ。
オリバーははがれた壁紙にほほを撫でられ、
模様が虫に見えたらしい。
僕なら絶対に叫んでいるね。同じように。
「ノア!」と、低い声で引き止めるガブ。
構わずに行くと、暗がりの部屋の隅に
光るものがあった。
指輪だ!
すぐにポケットにしまい、
近くにあった石を手に取る。
妙に高揚感があったのを覚えている。
「ノア!」
今度はシャツをつかまれた。
汗が噴き出すようだ。
「何か見つけたのか?」
僕は恐る恐る石を見せる。
これが成果物だと示すように。
「…。一人で行くなよ!」
良かった、なんとか誤魔化せた。
ガブはポピーを背負い、
一度入り口に引き返した。
結局ポピーを背負ったまま戻ってきた。
多分ガブの背中の居心地が良かったんだと思う。
ポピーは来ないほうがいいと思うんだ。
出来れば一人で探検したい。
ガブが僕に聞く。
「ジャックはどこだ?」
しまった!あいつ一人で先に行っちゃったのか!
先を越された!
ガブは悔しがっている僕に、
ジャックを探すように言った。
これはチャンスかもしれない。
「探してくる!」
と、真っ直ぐ二回への階段に行く。
階段は踊り場付きだ。
僕はジャックを探す気はない。
いち早く建物の奥に行きたかった。
さっき拾った宝物の確認もあるしね!
階段を急いで上がり、踊り場に差し掛かった時。
「わ!」
ジャックだ!
驚いてのけぞっているところを
蹴ってくるジャック。
当然階段から落ちるわけで、
階段の横の壁に擦りながら転がり、
腕や足に痛みが走る。
涙が出たが、声は上げなかった。
僕だって男だ。
音を聞いてガブが駆け付ける。
ポピーは背中に張り付いたままだ。
僕は泣き顔を見られないように涙を
拭った。
ガブは怒っていた。
「今回はここまでだ!」
ジャックは頭を叩かれながらも、
勝ち誇った顔をしている。
いつもなら悔しがるところだが、
今回の僕は違った。
宝物を見つけたのだから!
施設に帰りポピー以外のみんなで反省会だ。
ポピーは外れたところで眠そうにしている。
先生とガブ、僕がいてジャックとオリバーとゲオルグ。
円を描いた椅子に、年齢順に座る。
オリバーとゲオルグは同い年だ。
オリバーはジャックが悪いと言いたげだが、
ジャックがにらむと下を向く。
「反省するから、もうやめようよ。」
震えた声で縮こまる。
オリバーは反省点があったのかな?
反省するのはジャックだと思うけど。
続いてゲオルグはオリバーに同調する。
オリバーの弟分だし、いつも通りだ。
ガブはジャックをにらむが、僕をもにらんできた。
僕はジャックに蹴られたというのに。
先生がガブに、何があったのかを聞く。
ガブは頭の中で整理したのか、少し間をあけ口を開く。
「ポピーを連れて戻ったら、
ジャックが見当たらなかった。
俺の次に年齢の高いノアに
探しに行かせたが喧嘩してやがった。
こんな調子じゃ探検は中止で当然だよ。」
僕は反論した。
「先に仕掛けてきたのはジャックだ!
脅かされて蹴られて階段から落ちたんだ!
ジャックのせいだ!僕は悪くない!」
ジャックはにやにやしながら言う。
「ちょっと足で押しただけだろ?
階段から落ちたのはノアの不注意だ。」
僕は悔しさで涙が出そうだったが、その時。
「いい加減にしなさい!」
と、先生の雷が落ちた。
落ちた先はガブのもとだった。
「言い分はわかるけど、ノアもまだ子供よ?
あなたがしっかりしなきゃ!ガブリエル!」
ガブの表情に怒りが見えた。
「俺の判断に間違いはない!」
と言って、ガブは自分の部屋に行ってしまった。
先生が後を追って行ったので、
反省会はお開き。
ジャックも興味がなくなったようで、
ポピーのところに行った。
僕は苛立ちながらも、
一人になるためにトイレへ走る。
悔しくて一人で泣くために
トイレへ行くわけではない。
理由はほかのことだった。
指輪だ。本物の宝物。
蛇の向けがらや鳥の羽とは違う、
大人の宝物だ。
シルバーのリングに宝石が一つついている。
ガラスかもしれないが10歳の僕には
関係がなかった。
「ルビーかな…。」
吸い込まれそうな赤い石は、
すごくきれいで、長く見つめていても
飽きなかった。
僕の悔し涙はいつの間にか止まり、
食事の呼びかけまでずっと眺めていた。
結局ガブは食事に現れなかった。
とある日、施設の周りが騒がしく、
聞いたこともない音楽が建物に跳ねまわっていた。
音楽団がこの街にやってきたのだ。
ポピーは高く幼いの声で、
「音楽をたしなむのはレディーの務め!」
といって偉そうだった。
ジャックは珍しく大人しいし、
オリバーとゲオルグも窓際で静かにしていた。
庭の長ベンチで先生とガブが何か話しているが、
跳ねまわる音楽でかき消される。
僕はあの指輪を眺めながら、
音楽を聴いていた。
食事の後は本来外に出られないのだが、
今日はみんなで出られるらしい。
音楽団が近くの広場まで来ているみたいで、
そこに音楽を聞きに行く。
ポピーが行きたいと駄々をこねたから
とガブは言っていたが、どこか嬉しそうだった。
コンパスと指輪と懐中電灯を持っていくことにしたが、
懐中電灯はガブに取られた。
コンパスと指輪は僕のポケットにある。
ガブはコンパスが動かないことを知っていたんだ。
勿論指輪のことは言っていない。
外に出たけど電灯を照らすガブが、
後ろに行こうとする。
「これじゃ見えないから僕が電灯を持つよ!」
と提案するも却下。
しかも「念のため手をつないで歩け!」と。
いつまでも子ども扱いしてさ。
ジャックは子供だけどね。
広場につくとジャックは最前列に行こうと
走ったが、警備員に止められる。
観客は100人以上いたと思う。
観客の中に紛れたら見つからないことは、
僕にもわかった。
僕はオリバーとゲオルグ、
それとポピーと手をつないで待っていた。
その間にガブがジャックを引っ張ってくる。
ガブは珍しく「ありがとう。」と、
僕にお礼を言った。今日はみんな変だ。
結局遠くから聞くしかなく、
演奏を見ることはできなかった。
観客から離れて一塊になりながら
音楽を聴いていると、
ポピーが最初に根を上げた。
食後で歩いて、眠気が出たのだろう。
オリバーとゲオルグも同様らしく、
「もうやめて帰ろうよ。」
と、いつものオリバーに戻っていた。
ジャックを捕まえたままのガブに、
「オリバーとポピーが眠そうだよ。」
と、伝えて帰ることになった。
ガブはいつも通りにポピーを背負い、
器用にジャックと手をつないで歩く。
帰り道の途中で音楽が鳴りやみ、
街の静けさに狂気を感じた。
普段はこんな時間に外に出ないから。
月明かりの狂気に飲まれたのは、
やはりジャックだった。
ガブの手を掃い、
奇声を上げて走り出した。
ガブは僕に指示を出す。
僕はオリバーとゲオルグの手を放し、
懸命に追いかける。
追い付いたところにトンネルがあった。
このトンネルは炭鉱として使われていたが、
すぐに掘れなくなり閉鎖されたものだった。
何年前かは知らない。
今は倉庫として使われてるらしい。
「トンネルだ!」とジャックが叫ぶ。
声がトンネルに入るが、
すぐに出てくる。
たまらなく鼓動が弾む。
ジャックも僕も狂っていた。
ジャックはガブから預かった電灯で先を照らし、
トンネルに入っていく。
「行くな!戻ってこい!」
一番低い少し嫌いな声が僕らより先に
トンネルの中へ入っていくが、
すぐに出ていくことを僕は知っている。
後で怒られないように「ジャック!帰ろうよ!」と、
僕の声をトンネルの外に投げる。
ジャックと僕は投げた声と反対の、トンネルの奥に進んでいく。
まだ入り口が小さく見える所に、
不思議なドアがある。
ジャックが触ると、簡単に開いてしまった。
施錠はされていないようだった。
後ろから頭を叩かれる。
振り返るとポピーを背負い、
オリバーとゲオルグと手をつないで
息を切らしたガブがいた。
目線は空いたドアにある。
「ジャックは?」
当然ドアの向こうだ。
僕は答えなかった。
「ジャック!」と声をかけながら入るガブの
代わりに、オリバーと手をつなぐ。
僕とオリバーとゲオルグが一列になる。
その手は強く握られ、震えていた。
僕はオリバーの顔を見ることができなかった。
恐怖は伝染するから。
中に入ると真っ暗で、
唯一の明かりはジャックのものだと思う。
その明かりは奥へ奥へと向かう。
遠くで…カコン…と音がした。
それと同時に強い光に襲われ、
ポピーが叫ぶ。
オリバーに握られた手が、
痛かった。
目が慣れてくると奥でガブに蹴られているジャックが見えた。
どうやら電気が来ていたようで、
ジャックが明かりをつけたらしい。
ポピーの泣き声が響いてうるさかった。
泣き止むのを待って帰るつもりだったが、
僕は探検をしたくてウズウズしていた。
オリバーに「ここにいて。」と耳打ちをして、
手を放した。
オリバーは既に泣いていて、
「早く帰ろうよ。」と繰り返していた。
ゲオルグは「オリバーは僕が守る。」
と言っていた。初めて声を聴いたかもしれない。
ガブの隙を伺い、少し奥を見る。
シルバーの縁取りをした黒い箱が
いくつか積み上げられていた。
音を立てないようにゆっくりと
箱に近づく。
ロック部分をカチリと開けて、
箱を開ける。
錆ていたのか…ギー!…
と、大きな音が鳴ってしまった。
「ノア!」
と大きな声にポピーが小さくなり、
ジャックがびくつく。
僕は箱を開けたまま固まってしまった。
ガブが来て中を見ると、
「楽器か?」と言った。
高さが思ったよりあって、
中が見えなかった。
ポピーを背負いジャックと手をつないだガブは、
箱を閉めることができずにいた。
その時、入り口からガヤガヤと声がする。
ドアがバタンと壁に当たる。
「おや?でっけぇカエルがいるぞ?」
ガブの何倍も低く、大きく威圧的で
恐ろしい声がした。
その瞬間ガブが動く。
ポピーを下ろし、僕らの前に立つ。
「すみません。子供たちを見ていたんですが、
追いかけている内にここに入ってしまって。」
丁寧な口調で説明をするガブ。
こんな話し方をするガブは初めて見た。
男たちの表情は変わらず威圧的なままだ。
「そうか~。俺はてっきり泥棒が入ったのかと思ったよ~!」
「子守は大変だなー!兄ちゃんよくやってるよー!へへへ!」
酒瓶を持った大人たちは緩んだ顔でそういうと、
僕らに出ていくように手を掃う動きをした。
僕の背中を押したのはガブだった。
こわばった顔が並ぶ中、
僕も同じ顔だったと思う。
こんな状況でもガブは後ろについた。
「振り向かないで、そのまま歩くんだ。」
と、少し嫌いな声がした。
その声は震えており、いつもより小さな声だった。
大人たちの不気味な笑い声に送り出され、
ドアを出る。
バタン!という音とともに、
声がしなくなった。
ポピー、ジャック、ゲオルグ、オリバー、僕の順番。
それぞれがトンネルの入り口につくと、
先生が電灯をもって駆け寄ってきた。
「探したんだよ!」と怒っているのか不安なのか、
読み取れない表情をしていた。
泣きそうな僕らの後ろには誰もいない。
僕らは先生に説明もできなかった。
ガブはいなかったのだ。
先生はトンネルには入らず、
僕らを施設に連れて行った。
部屋から出てこないように言われ、
ひたすら待ったがとうとう朝が来た。
近くの河原で意識不明のガブが見つかり、
音楽隊はその日、音もなく消えた。
ガブリエルは帰ってこなかった。
今ならわかる。
ガブは僕らを守るために後ろにいた。
ガブは僕らのわがままでいなくなった。
言うことを聞かなくてごめんなさい。
指輪のことを黙っててごめんなさい。
隠れて箱を開けてごめんなさい。
当時のガブよりも低い大嫌いな声で
言っても届かないのだろう。
宝物だった罪悪感のこびりついた指輪は、
いまだに赤々と訴えかけてくる。
僕は生きて行こうと誓った。
まだガブに合わせる顔がないから。
最後まで読んでいただき、有難うございました。
どうしてこんな小説ができたかは、自分でもわかりません。
初めて読んだときは『なんだこれ!』と絶望しましたが、
手直しをしたら愛着が沸くもんですね。
気力があればまた書きたいです。
重ねて、有難うございました。