第7話 不仲な仲間たち
「もう駄目だぁ…」
もうすぐ昼過ぎになる時間帯に、私はテーブルの上に突っ伏した。
「どうしたの?そんなだらしない格好して」
「レンガが作れないんだよぉ…」
「レンガって、昨日頼まれてたやつね」
そう、私はあれからいろいろな組み合わせを試してみたのだが、どうしても脆くなってしまう。
ちょっと踏んだだけで割れたりしたので、流石にそんなものを渡すわけにはいかない。
「どうしよう…このままじゃ、期限なんてあっという間だよぅ…」
「う~ん…だったら、村の人たちに聞いてみたら?何かヒントがあるかもしれないし」
「村の人にかぁ…」
私は頭を上げて呟いた。
確かに私一人の知識じゃ限界があるし、そうしてみるのもいいのかも。
「そうだね。それじゃあちょっと行ってくるね」
「ええ、遅くならないでよ」
「子供じゃないんだから大丈夫だよ」
私はそう言って家を出て、色んな人に話を聞くことにした。
えっと、その手の話題に詳しそうな人はっと…
そうだ、クロウなら何か知ってるかな?ちょっと尋ねてみよう。
私はすぐそばにあるクロウの家の前に立ち、ノックする。
「誰だ?」
「私だよ。アルトだよ」
「お前か、じゃあ入っていいぞ」
「それじゃあお言葉に甘えて、お邪魔します」
扉を開けて中に入ると、私たちとさほど変わりない家具の配置だった。
奥には台所があり、その数歩先にはテーブルと椅子があり、そこにクロウが座っていた。
「何の用だ?つまらん用事だったら怒るからな」
「えっとね…錬金術で行き詰まっちゃったから、誰かの話を参考にしようかなって思ったの」
「行き詰まったねぇ…言っとくが、俺は錬金術でのアドバイスは一切できないぞ?」
「でもさ、レンガのことなら少しはわかったりしない?」
「レンガ?それが今作ろうとしてる物か?」
「うん。土と鉄を使ってるんだけど、なかなか丈夫に出来上がらなくて…どうしたらいいと思う?」
「えっ?土と鉄?それしか使ってないのか?」
「そうだけど、何かおかしいかな?」
そう尋ねると、クロウは呆れたように頭を抱える。
「お前なぁ…そんなんじゃあレンガは作れないぞ…」
「嘘!?」
「いいか?まず鉄はいらない。あんなもの混ぜたら熱ですぐに壊れるぞ」
「ふむふむ…」
私はポケットから紙と鉛筆を取り出して、クロウの話を書き込む。
「後は粘土と水、そして石灰が必要だ。材料はこんな感じだ」
「なるほど。随分と詳しいんだね?」
「田舎で暮らしてたんだ。これくらいは普通だ」
田舎で暮らしてたなんて、意外だなぁ…クロウって都会で一匹狼ってイメージだったのに。
「で、これで参考になったか?」
「うん、バッチリ!ありがとうね、クロウ!」
私はお礼を言うと、クロウの家を出て道具屋に向かった。
石灰や粘土なら道具屋で揃えられると思うし、これなら早く片づきそうだね。
そう思ってたのに、道具屋のおじさんに言われた第一声はというと…
「悪い、どっちも売り切れてるんだ!」
頭の中が真っ白になった。
一晩中ずっと頭を抱えて悩んだことの解決策がようやく見つかったかと思ったのに、まさかの売り切れなんて…
私はおじさんの服を掴み、泣きながら尋ねた。
「ど、どこかに粘土と石灰が手に入る場所はないの!?」
「お、落ち着けよ…粘土はともかく、石灰ならなんとかなるかもしれん」
「本当!?」
「おう、石灰が売り切れてる理由は魔物に原料の採掘場を占拠されたからなんだ」
「つまり、その魔物を倒せば…」
「ああ、石灰を作り出すことが出来るってことだ」
よし、粘土なら錬金術で作れるし、これなら何とかなりそう!
「ありがとうおじさん!それじゃあね!」
私はおじさんにお礼を言うと、みんなを集めるために駆け出した。
「よーし!これで全員揃ったね!」
村の入り口でイヴとクロウ、そしてエクスの三人の姿を確認した私は元気な声でそう言った。
「はぁ…あなたと一緒なのね…」
「別に嫌なら抜ければいいだろ。俺は抜ける気はないしな」
「ふん…」
うわぁ…早速二人は険悪な雰囲気だなぁ…
「おい!英雄に対してその態度はなんだ!」
「英雄なんて謳われてるやつほど怪しいのよ。どうせこいつも、王国の思うように使われてるんでしょ?」
「お前なあ!」
「おいお前、エクスと言ったな。さっきも言ったが、俺を英雄と呼ぶのはやめろ。虫酸が走る」
「何でだよ!世界を救ったお前には、英雄と称賛される権利が…」
「そんなもんいらねえって言ってんだよ」
「お前…!英雄の名がどれだけ偉大かわかってないな!」
「そんなもん知らねえよ。俺はそんなもんが欲しくて戦ったんじゃない」
「お前…!」
「もう!みんな喧嘩するのはやめてよ!」
私が怒鳴って注意すると、三人とも静かになった。
「まずイヴ!相手のことが気に入らないからってすぐに喧嘩腰にならないの!」
「えっと…アルト?」
「返事は!?」
「は、はい!」
「次にクロウ!相手の感情を逆撫でさせるようなこと言っちゃ駄目!無意識だって言うなら、少しは言葉遣いを意識して!」
「……わかった」
「最後にエクス!相手に自分の価値観を押し付けちゃ駄目!人によって考え方とか違うんだから!」
「俺は英雄の凄さを知らないこいつらにそれを教えようとしただけだ!俺は別に悪くないだろ!」
「あれは完全に押し付けだったよ!これからは自分と考えが違うからって人に高圧的な態度とるの禁止!」
「だ、だが…」
「嫌って言うなら、私たちの間の密約を破棄するよ」
「き、きたねえ!」
「返事は!?」
「わ、わかったよ…」
はぁ…これからこの三人と一緒に行動すると思うと気が重くなるなぁ…
このメンバーを纏めるのは流石に骨が折れそう…
でも、こんなことで凹んでたら駄目だ。
立派な錬金術師になるためには、もっと精進しないといけないんだから。
「それじゃあ私たちがこれからやることを再確認するよ。私たちが向かうのは、山を降りてすぐのところにある石灰岩の採掘場。そこを占拠してる魔物を倒して石灰岩を採ってくるのが私たちの目的だよ」
「それはわかったが、そこまでは近いのか?」
「聞いた話だと、往復で一週間くらいだって。正直言うと、それくらい経つと依頼の期限ギリギリになっちゃうからなるべく急いで行きたいね」
「了解。それじゃあ早く出発するか」
「うん、そうだね」
私たちは荷物を持って村を出て、山を降りる。
旅って言うほど遠くに行く訳じゃないけど、仲間と一緒に村の外に出るのって夢だったんだよなぁ…!
その夢が叶って嬉しい!そうなるはずだったんだけどなぁ…
「「「…………………」」」
く、空気が重い…
三人とも無言で私の後ろに付いてきて、しかもなんかピリピリしてるからとても楽しめる状況じゃないよ…
ど、どうしよう…何か言って空気を和ませた方がいいかな?
よ、よし!それじゃあ何か面白い話題を!
「ねえ、みんなは何か趣味ってあるの?」
「趣味?突然どうしたんだよ?」
「これからみんなと旅するんだから、みんなのこと色々知りたいなって思って…」
「下らないこと話してないでさっさと進むぞ。時間がないのだろう?」
うっ…そこは空気読んでよクロウ…
「ちょっと待ちなさいよ。アルトは私たちに気づかって話を振ってくれたのに、そんな言い方ないんじゃない?」
「時間がないと言ったのはアルトだろう?ならば、早く目的地に向かうのが先決だろう」
「あなたって人は…!」
イヴはクロウの前に立ち、互いに睨み合う。
「待って!私が悪かったから!だから喧嘩しないで!」
二人はしばらく互いをじっと見つめていると、やがて無言で先に進み始める。
うう…何をしても下逆効果なんて…一体どうすればいいの?
私は体に重りをつけたような感覚で、日が暮れるまで歩き続けた。