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第11話 傷ついた者

 翌日、私は村の前で、家に帰るエリアさんを見送りに来ていた。

「アルトには世話になったな。ありがとう」

「いえ、私の方こそ。イヴのこと、本当にありがとうございます」

「別に私はなにもしていない。お礼を言われることじゃないさ」

 はぁ…!やっぱりエリアさんって大人だなぁ。

 あの三人も、もっと大人になってくれたら…

「アルト。困ったことがあれば、ぜひフェヒター家に来てくれ。いつでも力を貸そう」

「はい、ありがとうございます」

 エリアさんは馬車に乗り込み、そのまま村を後にした。

 馬車が見えなくなり、家に帰ろうと思った瞬間視界がぼやけ、意識が薄れていく。

 私はふらつき、近くの気に寄りかかって尻を地につける。

 しばらく安静にしていると視界も意識も元に戻った。

 なんなんだろう。やっぱり私、疲れてるのかな…

「大丈夫か?」

 私が立ち上がろうとすると、誰かに声をかけられた。

 その方を見てみると、声の主はクロウだった。

「……もしかして、ふらついてるの見られた?」

「ああ」

「そっか…」

 みんなに心配かけないようにって思って隠してたんだけど、見られちゃったかぁ…

「その症状、いつ頃からだ?」

「えっと…一ヶ月くらい前、仕事が忙しくなり始めた頃から」

「そうか」

 クロウはそのまま村に戻ろうと私に背を向けるが、歩き出す前に一言だけ言葉を放つ。

「疲れが溜まってるなら、早めに休んどけよ」

 クロウはそう言うと歩き出し、この場を去っていった。

 今のは、彼なりの気づかいなのかな…

 やっぱり根はいい人なんだよね。素行は悪いけど。

 私は立ち上がり、クロウに言われた通り休むために家に帰った。




 数日後。

 溜まっていた依頼をようやく全て終わらせることが出来、今日は久々にお休みしている。

「はぁ~…最近床で寝てたせいか、いつものお布団がふかふかだぁ~」

「全く…いくら移動が面倒くさいからって、床で寝ることないじゃない」

「だってその方が移動する時間を睡眠に割けるし、起きたらすぐに調合できるしでいいことづくめだよ。ちょっと体痛くなるけど」

「そんなことしてると、本当に体壊すわよ?」

「大丈夫だよ。ちゃんと寝てるし、食事も摂ってるんだから」

 私がそう言っても、まだ心配した表情を向けるイヴ。

「……大丈夫。少なくとも、しばらくはちゃんと休むから。だから心配しないで」

「……うん」

 イヴの表情が少しだけ和らいだ。これからは心配させないように、ちゃんと布団で寝ようかな。

 そう考えていると、三回のノックの後に玄関の扉が開かれ、そこからクロウが家の中に上がってくる。

「アルト、少しだけ付き合ってもらうぞ」

「断る。早く帰って」

 即答だった。しかし即答したのは私じゃない。イヴだ。

「俺はアルトに言ったんだが」

「アルトは今依頼が終わって休んでるところなの。わかったら帰って」

 イヴはクロウを睨みながらそう言った。

 クロウはそんな視線を無視して私の方をじっと見る。

「ど、どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 クロウの普段見ない反応に疑問を抱くが、それを尋ねる前に話が進む。

「休んでいるところ悪いが、こっちも急いでいる。大人しくついて来てもらう」

 クロウは私に詰め寄ろうとするが、イヴが立ち塞がった。

「やっぱりあなたたち貴族は最低ね。他人の都合なんて考えもしない。そんなのが英雄なんて笑わせるわね」

「……いい度胸してんじゃねえか」

 イヴの言葉を聞いたからか、険しい表情になり、腰に指した剣に手をかける。

「ちょっ!?駄目だよクロウ!剣なんて使っちゃ!」

 クロウは私の言葉に耳を傾けてはくれずに剣を抜く。

「今まで言わせておけば調子に乗りやがって…!」

 クロウが突きを放ち、イヴはそれをかわして壁に立て掛けていたレイピアを手に取る。

「ようやく正体を現したわね。ここであなたを倒して、二度とアルトに近づけないようにしてやる!」

 クロウとイヴは真剣で斬り合いを始めてしまった。

「二人ともやめてよ!どうしてこんなことを!」

「アルトは黙ってて!」

「アルトは黙ってろ!」

 駄目だ…二人とも聞く耳持たない感じだ。このままじゃあどっちかが死ぬまで続けちゃいそうだよ…

 止めないと…何とかして止めないと…

 でもどうやって?言葉は届かないし、今の二人の間に入り込む余地なんて…

 私がどうしたらいいかわからずにいると、二人は一度距離をとって睨み合う。

 間に入り込む余地…そうだ!今しかない!二人が動かずにいる今しか!

 私は急いで立ち上がり、二人の間に入って争いを止めようとする。

 その直後、二人は同時に動き出す。

 今二人の間に入るのは危険かもしれない。でも今はそんなことを考えてる余裕はないし、それにこの争いを止められるチャンスは他にない。

 二人が武器を振るった直後、私は二人の間に割り込んだ。

「「なっ!?」」

 二人は驚いた声を出す。

 その直後、後ろから肩をレイピアに貫かれ、剣で横腹を斬られた。

「かは…!?」

 私は二つの傷口を抑えたままその場で倒れてしまう。

「うう…」

 痛い…熱い…苦しい…

「アルト!しっかりして!アルト!」

「くそ!医者を呼んでくる!それまでくたばるなよ!」

 二人の声が聞こえる…よかった…争いは止めてくれたんだ…

 私は安堵すると次第に体から力が抜けていき、そのまま意識が失われた。




「ん…」

 目が覚めると、見知った屋根が視界に映った。

「あら、目が覚めたのね」

 声がした方を視線を移すと、そこには白衣を身に付け、長い金髪をヘアバンドで纏めた胸の大きなお姉さん、一言で言うとこの村のお医者さんであるミーナさんがいた。

「ミーナさん、どうしてここに?」

「あなたが怪我したからに決まってるでしょう?本当にあなたは抜けてるんだから」

「ははは…」

 私は苦笑いをすると、窓の外が暗くなっていることに気づいた。

「もう夜中なんですね」

「夜中どころか、あなたは二日間ずっと寝てたんだからね」

「そうなんですか?」

「ええ。それにしてもあなた、運がよかったわね。あと少し傷の位置がずれてれば命に関わっていたわよ。今回は応急手当もしっかりしてたから大事には至らなかったけど…」

「そうですか…」

「それにしても、なんで家の中でそんな重傷を負ったの?」

「えっ!?えっと…」

 どうしよう…本当のことは話せないし…

「れ、錬金術で失敗しちゃって」

 どうだ?これで誤魔化せるか?

「なるほどね。話せない事情があるのはわかったわ」

 見破られていた。たまにこの人は心が読めるんじゃないかと思うことがある。

「それじゃあ今日はあたしは戻るけど、ちゃんと安静にしてなよ」

「うん。ありがとうミーナさん」

 ミーナさんは手を振るとそのまま玄関から家を出ていった。

 私はその後すぐに眠りにつき、安静にしていた。

 そして翌日。

 私はイヴが家にいないことに気がついた。

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