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第1話 錬金術との出会い

 一年前、この世界に魔王と呼ばれる存在が姿を現した。

 魔王は魔物たちを利用して、世界を滅ぼそうとし、混乱を招き入れた。

 しかし突如現れた剣士によって魔王は滅び、彼は英雄の称号を得ることになった。

 こうして、魔物はいなくはならなかったが、魔王に怯える日々は終わりを迎え、人々からも心に余裕が生まれるようになっていた。

 そして現在、私、アルトは山奥の村で幼馴染みである、銀髪で儚い印象を持たせるストレートヘアーの少女、イヴと一緒に暮らしている。

 イヴとは十年前に出会って、色々あって一緒に暮らすことになったんだ。

 そんな彼女と私は、この家に住んでから放置していた地下倉庫の掃除をしていた。

「もう…これ、いつ掃除したのよ?」

「えっと…いつかな?もしかしたらやったことないかも…」

「全く…いらないものをホイホイぶちこむからこんなに汚くなるのよ。普段からちゃんと掃除していればこんなことには…」

 始まった…イヴはこういう話になると長いんだよなぁ…

「その話は後!まずは掃除を終わらせようよ!」

「あ!こら逃げないの!」

 私は話をそらしてイヴから離れた場所に移動すると、見慣れない分厚い本を見つける。

 その本はほこりを被っており、しかもかなりぼろっちいものだった。

 私はそれを手に取り、ほこりを払って中身を見てみる。

 う…なにこれ…全然読めない…

 私が困り顔で謎の本を読んでいたところに、イヴが不思議そうな顔で近づく。

「何読んでるの?」

「あのね、なんか見慣れない本が落ちてたから読んでみたんだけど、全然読めなくて…」

「へえ…ちょっと見せてみて」

 私はイヴに本を手渡す。

「……これ、かなり古い文字ね。少なくとも二千年は前のものよ」

「二千年も!?」

「うん。内容は錬金術の研究のレポートのようなものね。色々実験したことの結果が記されてる」

「えっ?イヴはなんで読めるの?大昔の文字なんじゃ…」

「ふぇ!?い、いや…子供の頃に教わってたことがあって…」

「そうなの!?」

 子供の頃に大昔の文字を教わってたって…私に会うまでは何をしてたんだろう?

「わ、私のことはいいから!早く掃除を終わらせましょう!」

「あ、うん。そうだね」

 それにしても、錬金術か…

 錬金術って確か、大昔に途絶えた魔法だったよね。

 後でイヴに読んでもらおっと!

 その後、私たちは休憩を挟みながらも、長い時間をかけてようやく終わらせることができた。

 昼間に始めていたはずなのに、気がつけばすでに夜中だった。

「さてと、疲れちゃったしさっさとご飯食べちゃいましょうか。今日の当番は私よね?」

 イヴはそう言ってエプロンを身に付け、台所に向かう。

「あ、ちょっと待って。頼みたいことがあるんだけど」

「なに?デザートも作ってほしいの?」

「そうじゃないよ!私が頼みたいのは別のこと!」

 私はさっきのボロい本をイヴに見せる。

「今日の当番は私がやるから、イヴはこれを読んで、その内容を私に教えてほしいの」

「その本って錬金術の?でも、そんなもの読んでどうするの?」

「やってみたい!」

 私はそう言うと、イヴはあきれた顔で言った。

「言うと思った。じゃあできるところまで解読しておくから、アルトはご飯よろしくね」

「うん!」

 私はイヴからエプロンを受け取り、それを身に付けて台所で調理を始める。

 本を読んでもらったささやかなお礼として、今日はイヴの好きなきのこ料理を作っちゃおうっと!

 私はきのこのキッシュ、グラタンを作ってテーブルに運んだ。

「おまたせ。解読進んだ?」

「ええ、ある程度はね。でも全部読むにはまだ時間がかかりそうね…」

「大丈夫、ゆっくりでいいから。じゃあ休憩をかねてご飯食べようよ!」

「あら、今日はきのこ料理がいっぱいね!」

「本を読んでくれたお礼にって思って…喜んでくれた?」

「当然!ありがとうアルト!」

「えへへ…」

 なんだか、イヴにお礼を言われるのは照れくさいな…

 私たちはテーブルに置かれた料理を食べ終えると、現在読み進めた部分の情報を共有していた。

 まあ、私がただ教えてもらってるだけだけど…

「えっと…つまり錬金術っていうのは、物と物を、融合?させて、別の物を生み出すってことなの?」

「まあざっくりと言うとそうだね。あとそれに釜を使うらしいよ」

「釜?そんなものどうするの?」

「ごめん、そこまではまだ読めてないんだ」

「そうなんだ。急がなくてもいいから自分のペースでお願いね?」

「ええ、わかったわ」

 

 

 それから一日過ぎて、イヴは本の解読が終わったようだった。

「おはよう…解読終わったよ」

 なんだか眠そうにしている。自分のペースでって言ったのに、無理して夜中まで起きてたんだ…

「ごめんね…私が変なこと頼んだせいで夜更かしさせちゃって…」

「ううん、私も読んでて楽しかったし、平気だよ」

「ならいいけど…」

 本当に大丈夫なのかな?やっぱりちゃんと寝た方が…

「もう、アルトは心配しすぎだよ。ちゃんと休むときは休むから」

「……わかった。だけど、心配だけはかけないでね?イヴは前から変な方向に力入れるんだから…」

「うん、ありがとね…心配してくれて…」

 イヴはそう言うと、錬金術の本をテーブルに置く。

「それじゃあ昨日の補足説明ね。錬金術は魔法の液を使うんだけど、その液の魔力を維持するためには、魔力の込められた容器が必要なの」

「でも、それなら釜である必要はないんじゃないの?」

「その辺の説明は書かれてなかったね。まあ何か理由があるんだとは思うけど…今は後回しにしようか」

「そうだね。それで、他にわかったことは?」

「わかったことはこれくらいだね。後は錬金術の実験の過程と、道具のレシピくらいかな」

「そっか…」

 でも釜がないんじゃ、錬金術は出来ないなぁ…

 あれ?待てよ?

「どうしてこの家の地下倉庫にこんな本があったんだろう…」

「えっ?別に、時を経てここに流れ着いたんじゃないの?」

「もしかしたら、ここが実験の場所だったりするんじゃない?」

「それはないんじゃないかな?流石にそんな偶然は…」

「いいやあるよ!私は探してみるよ!目の前の希望を掴みに!」

「あ!ちょっとアルト!?」

 私は素早く地下倉庫に向かうと、壁を押してみる。

「……何してるの?」

 イヴは冷ややかな目線を私に向ける。

「いや、昨日ここを整理したときには釜なんてなかったし、だったら隠し部屋とかあったりしないかなって思ってえ!?」

 私が話をしている最中に押した壁が傾きだし、反応しきれずに転んでしまう。

「アルト!?大丈夫!?」

「いたたたた…何とか大丈夫…」

 イヴの差し出してくれた手をとって立ち上がり、辺りを見渡す。

 壁の先にあったものは狭い部屋で、老朽化が進んだせいか、本の重さに耐えきれずに崩れた本棚や机が置いてあり、おそらくこの部屋は研究室だったのだろう。

 私は部屋を見ているときに、中心にあるものが目に入る。

 それは全く老朽化しておらず、虹色に輝く液体の入った釜だった。

 私は目を輝かせて言った。

「ふああ…!イヴ!見てこれ!錬金術に必要な釜だよ!」

「そうみたいね。まさか本当にあるなんて思わなかったけど…」

「ねえ、早速錬金してみようよ!」

「わかったから服を引っ張らないで…そうね…簡単そうなやつだと、リンゴジュースとかかな?」

「リンゴジュース?作り方は?」

「水とリンゴだけだよ。けど分量に気をつけないと失敗するみたいだから、そこはしっかりね?」

「わかったよ。早速素材を持ってこよう!」

 私は台所から水とリンゴを持ってきて、イヴの指示通りに釜に入れ、近くにあった棒でかき混ぜる。

 錬金術を終わらせて、釜の中を二つのコップですくうと、魔法の液が消えてリンゴジュースだけが残った。

「で、できた…」

「すごいよアルト!早速飲んでみようよ!」

 私たちはリンゴジュースを口にする。

 その味の感想は…

「「微妙…」」

 なんか微妙に薄い。リンゴの甘みもいかせてない。なんだかガッカリした気分になる。

「うーん…なにがおかしかったのかな…」

「でも初めてならこんなものじゃないの?誰でも簡単に出来るんだったら苦労しないだろうし…」

 私はしばらく考えながら、素材の分量を変えてみる。

 だけどそうしても、ただ味が濃くなったり薄くなったりするだけで特に完成度は変わらない。

「くぅぅ…こうなったらこうだ!」

 なかなか結果が出ないことに不満を感じ、私は思いきってリンゴだけを釜にいれてかき混ぜた。

「ちょ!?リンゴ丸ごとって!そんなことしたら水分が足りなくなって…!」

 私はイヴの声に耳を傾けず、完成したリンゴジュースをコップですくう。

 私はゆっくりとそれを口に運び、少量だけ飲み込む。

「ど、どう?」

 イヴが不安そうに尋ね、私は明るい表情で返す。

「すごく美味しいよ!イヴも飲んでみなよ!」

 私はそう言って、リンゴジュースの入ったコップをイヴに手渡す。

「の、飲んでみなよって…これ、アルトの飲みかけじゃ…」

「ん?どうしたの?」

「な、なんでもない!」

 イヴは顔を赤くしながら、リンゴジュースをイッキ飲みする。

 私はその様子を見て、ちゃんと味わえているのか不安になったが、飲みほしたイヴは驚いた表情でこちらを見てこう言った。

「美味しい…」

「でしょ!」

「うん。まさか、違うレシピで成功させちゃうなんて…なにか副作用あったりしないわよね?」

「…………………」

「どうして黙るの!?」

「いや…だって考えなしにリンゴだけってやってみたし、私は詳しいことなにも知らないし…」

「そ、それはそうかもしれないけど…怖いなぁ…」

 肩を落とすイヴをよそに、私はこう考えている。

 

 もしかしたら、錬金術はもっとすごいものが作れるのではないかと。

 

 この力には、すべてのものを作れるのではないかと。

 

 私はひとつの決意をイヴに話す。

「イヴ!私、錬金術師になる!そしていろんなものを作る!」

「ちょ、アルト…それ本気なの!?この力がどんなものかもわからないのに…」

「本気だよ!だって、釜に入れるだけで違うものを生み出せるなんて、すごいと思わない?」

「それは…すごいと思うけど…」

「だったら決まり!私は今日から錬金術師だ!」

 私は薄暗い地下倉庫の隠し部屋で高らかに宣言し、錬金術師としての道を進むことになった。

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