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反生徒会組織:JOKER  作者: 皇モア
プロローグ
1/20

神谷紳二

「よお、二連続十位サン。運命の日だゼ。結果はどーよ?」


 緒方は誰もいなくなった教室で、黙々と日直に充てられた仕事である日誌を書いていた。遠く離れたグラウンドから運動部の声が少しばかり聞こえること以外、教室はとても静かで仕事のしやすい環境だった。

ところがそこに、荒々しい来訪者が来た。乱雑にドアを開き、履き潰された上履きで無遠慮に大きな音を響かせながら教室へ入り、緒方の座る席の前へと椅子を跨ぐ形で座った。緒方はその来訪者に一度ちらりと視線を向けるも、直ぐに自分の手元へと戻してしまう。その態度に来訪者は勿論不満の表情を見せ、緒方の右手からボールペンを奪った。


「魚クン。そんなつまんねー反応すんなよ。常々思ってるがお前には愛想やユニークさが全くと言っていい程ない。そりゃあいけないゼ魚クン。これからの世の中、コミュニケーション能力が大切なんだゼ?」

「お前、次魚クンっつったら刺すぞ」

「毎日生きてるのか死んでんのかわかんねーような面と、死んだ魚みたいな目してる緒方クンのあだ名には、魚クンがぴったりだと思うけどナ。……うお!」


 魚クン、と来訪者である神谷紳二が再び口にしたその瞬間。緒方の手は一切の無駄なく手近にあったシャープペンシルを握り込み、一度くるりと手の中でそれを回し神谷の顔面へと突き刺しにかかった。

目前にまで迫ったその武器を右側へ顔を逸らすことでなんとか避けた神谷は、突然身に迫った危機に驚きと恐怖で数秒身を固くする。が、緒方が机に乗り出していた体を引き、何事もなかったかのように武器にしたシャーペンを使って日誌を再び書き始めたことをきっかけに、神谷も椅子へしっかりと跨り直した。

今度は、立ち上がって逃げ出す足と心の準備も整えて。


「それで?俺の最初の質問はちゃんと聞いてたか?」

「勝手に聞こえた」


 緒方はシャーペンを動かす右手を止めず、左手を机の中に突っ込み一つの青い封筒を取り出す。糊付けを雑に剥がされたその封筒から、神谷はくしゃくしゃにされた跡の残る紙を抜き取った。シワを伸ばすように広げ、特徴的なネコ目をすっと細める。


「はあ、まーたかよ。緒方は十位が好きだナ?」

「馬鹿野郎。俺が好きなのは一番だけだ」

「これで三連続だゼ。お前、そろそろ九位にくらいなっていーんじゃないの?」

「うるせえよ。そう言うなら、その不動の九人をなんとかしろよ」

「いやそこはほら、お前がご自慢の頭脳で倒せよ。打倒生徒会ダロ?まあ、万年最下層走ってる俺が偉そうなこと言えねーけどネ」


 しわくちゃの紙を机に放り出し、神谷は頭の後ろで腕を組む。机に置かれた紙には『緒方結斗』と『第十位』、そして『IQ165』の文字がやけにくっきりとした黒字で書かれている。それを少しばかり睨みつけるようにして一瞥した緒方は、短い溜息の後ようやくシャーペンを置いた。


「お前は誰が上位九人だと思う」

「宇都宮姉弟は怪しいナ。怪しいどころじゃない。アイツらは確実に『何か』の役割を担ってると思う」

「あの二人は当然『何か』だろ」

「その『何か』までは分かんないけど。後は……ううん、誰だろうナ。白柳カナ」

「白柳?三年の白柳類のことか」

「あれ。噂に疎いことで有名な緒方も、流石に白柳サンのことは知ってんの?」

「委員会が一緒なんだよ。あの人、なんか噂になってんのか」


 神谷は自分の痛んだ銀髪を指先で弄りながら、にんまりと口元を歪めた。待ってました、と言わんばかりのその表情に、緒方は眉を顰める。


「緒方の入ってる委員会って言えば、生徒会執行委員か?はあ、なら尚更怪しいナ。白柳類は生徒会長だって、最近じゃ一番注目されてる奴の一人だゼ」

「生徒会長?何を根拠に」

「ここ一年の定期試験や全学年統一試験でずっと一位。全国模試でも上位五十人には必ず入ってる。更にどういうわけか、性格や素行も良いと来た。女子生徒が根こそぎ持って行かれそうなレベルだゼ。全く、疎ましい奴ダナ」

「お前がモテないのはその見た目と素行だろうぜ。まずきっちり制服を着ろ。不用意に他人を疎むな。……テストの点で判断されんなら、楽だろうよ。でも違うだろ。この学校のシステムは、目に見える学力だけじゃ判断出来ないようになってる」


 そう言って緒方は、少しシワの伸ばされたその紙を再びぐしゃりと丸め込み勢い良くゴミ箱へと投げた。壁に跳ね返り見事ゴミ箱に吸い込まれた紙に、ピュウ、と神谷が口笛を吹く。


「後もう一人」

「誰」

「生徒会ってわけじゃーないが、面白い話を聞いたゼ。天羽雅希。知ってるか?」

「知ってるも何も、そいつも生徒会執行委員だ。でも、それ以外には知らねー」


 生徒会長だと噂される白柳類について語る時よりも、幾分も楽しそうなイヤラシイ表情を浮かべて神谷は自身のスマートフォンを取り出す。数度のタップの後、緒方に画面が見えるようにくるりとスマホを回した。

 表示されたサイト画面を見た緒方は僅かに目を見開き、この学校ではあまりに有名なその『団体名』に釘づけになった。


「反生徒会組織ジョーカー、天羽雅希はそのジョーカーの創設者だって専らの噂ダヨ」


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