赤い『糸』
「―――先生、結那の容態は?」
「走ることで上がった心拍数に体がついていけなかったんでしょう。その体を、無理やり動かして走ったため、心臓と肺にかなりのダメージが加わってます。治せなくはないのですが―――。」
その時、結那の母親が遼に詰め寄った。
「あんたがそそのかして病室から連れ出したんでしょ。どこに行くつもりだったの?」
「…………」
「答えなさい!」
「お母さん。遼君が連れ出したわけじゃないんです。看護師が見たんですが、この子は『自分の意思』で遼君を追ったんです。恐らくは自分の体の限界を知りながら―――。」
「その通り……だよ。」
「結那!」
「遼は何にも悪くない。今までのは、全部私の方から遼に頼んだの。つまり、遼は巻き込まれただけ。遼のこと、許してくれる?」
「……わかったわ。」
「で、先生。私の体を治す方法はあるんですか?」
「ある………ことにはある。けど……その手術の成功率は低いわ。三割ってとこね。」
「受けます。受けさせてください。」
「でも失敗したら………」
「いいんです。治る望みがあるなら僅か一パーセントにでも賭けさせてください。」
医者が両親に確認をとる。
「………いいんですね?」
「………はい。」
「あの………遼以外はこの病室から出て行ってもらえますか。」
「わかりました。決心ができたらお呼びください。」
「………ありがとね。何度も何度も。」
「いや、いいさ。それよりも………」
「うん、わかってる。遼に会うのがこれが最後になるかもしれないってことも。」
「………いいのか?」
「だって、治ったら遼とまたデートできるじゃない。」
「こいつ。」
「あ、そうだ………これ………」
と、結那が懐から何かを取り出す。
「赤い紐………?赤い糸ってことか。」
と、小指に巻こうとするのを結那は止めた。
「あ、待って。……小指じゃなくて、左手の薬指に……」
「え、なんで?」
「いいから。」
「………小指じゃないのか……?」
と、不思議な面持ちで赤い紐を結ぶ遼。結那の方も、同じように薬指に紐を結びつけている。
「赤い糸で結ばれたものは、絶対に結ばれる。伝承にそうあるから、きっと……成功する。」
「お二人さん、そろそろ時間よ。」
「はい。………約束だよ。」
結那の乗った台車は手術室に吸い込まれるように入っていった。
それから何時間経っただろうか。遼は手術室の前でずっと祈り続けた。
そして、手術室のランプが消えた