引き裂かれる2人
次に気がついたとき、私はかかりつけの病院のベッドの上だった。
「あ、気がついた?」
「先生・・・・・」
「まだ休んでなさい。多分疲労から来た発作だと思うわ。久しぶりに長い距離を歩いたから疲れたんでしょ。それにしても、彼、すごいわね。あなたの荷物からここの診察券探して、今から救急車呼ぶよりも背負って病院まで運んだほうが速いって判断して、駅からここまでおぶって運んできたんだから。もしかして彼氏?」
「は、はい・・・・・」
私のことをおぶって―――。遼の背中に乗せられて運ばれている自分を想像してしまい、ちょっとだけ顔が赤くなる。
「ま、とりあえずしばらくはまた病院暮らしね。あなたの学校にも近いし毎日寄ってもらえば?」
「そう・・・・ですね。」
一方その頃――――。
遼は病室の外で結那の両親と話していた。
「成程。で、結那をここまで運んできてくれた、というわけだね?」
「はい。」
「ありがとう。君の判断がなかったら結那はどうなっていたか。」
「お父さん。煽てないでください。遼――とか言ったわね。いい、あんたが連れ回したから結那は倒れた。つまりあなたのせい。」
「母さん、それは結果であって遼くんのせいじゃ――。」
「黙っててください。いい、あなたが近くにいると結那は苦しむの。だから今後一切結那には近づかないで。」
一切結那に近づくな。その言葉が遼の胸に突き刺さった。自分のしたことは結那を苦しめていたのか。デートの誘いを断るべきだったのか。いや、その前に――――好きにならなければ、そもそも出会わなければ良かったのだろうか―――――――――。
そうだ、きっとそうなんだ。俺が居なくなればあいつは苦しまないんだ。手を引くべきなんだ。
「・・・・・・・・はい。」
「わかってもらえたようね。」
結那の母親は満足げに言い、席を立った。
残された遼は、静かに立ち上がると結那の荷物を病室の前に置き、静かにその場を立ち去った。
今後一切関わるな。その言葉は結那にも届いていた。そして、遼がその条件を飲むのも。
―――遼が、私の前から消える―――?それが、私のためなの――?私は、遼がいることによって苦しむの―――?遼は、私を苦しめる存在なの―――?
その時、病室の外でガサッという音がした。遼かもしれない―――。逸る気持ちを押さえながら、ゆっくりと病室の扉を開けた。すると、そこにあったのは紙袋だけ。今日、遼と一緒に行った店のだ。
そして、その取っ手の紐にメモが結び付けられていた。
「君を苦しめたくない。さらば、愛した人。ここまでだ。」
これを見て私の迷いは消え失せた。もう言いつけなんてどうでもいい。私は走り出した。