~思索の答え~
結局、その時限は保健室で過ごすことになってしまった。
お礼を言って保健室を出て、教室までの道でさっきのことを考えていた。
―――あの人、どうして私の名前を―――。
自分で言うのもあれだが、影が薄いことは分かっている。時々、存在自体を忘れられることもあるほどだ。それなのに、あの人は私の名前を知っていた――。そういえばあの人、誰だっけ。この教室にいたんだから、クラスメートのはず。だけどクラスと関わりの薄い私は、クラスメートの顔や名前はあまり覚えてない。
そして、答えは私の教室を2mくらい通り過ぎたところで出た。そうだ、確か――――、館斑――、館斑 遼。確かそれがあの人の名前だと思った。確か、私の席の斜め前に座っていたはずだ。
しかし、なぜ――――。
私の思考は何かにぶつかったことで打ち切られた。顔を上げると、そこにいたのはたった今考えていた事の当事者――――館斑君だった。
突然のことで驚いて飛び上がりそうになる私に、館斑君は微かな笑みを浮かべて、
「もう体調はいいのかい?」
「あ、はい・・・・・その・・・・・さっきは・・・・ありがと。」
ああやっぱり、人の顔が目の前にあると話しにくい。どうしても上がってしまうと言うか、うまく話せないというか、とにかくそう言う気持ち。でも、今は、何かそれとは違う、よくわからない感情が心に浮かんでくる。―――何なんだろう。
「そっか。あ、そうだ、これ。」
と、プリントを手渡して来た。
「さっきの授業のやつ。今回の宿題も入ってるからやっといたほうがいいよ。」
「あ、ありがと・・う。」
いつものことだけど顔をまともに直視できない。どうしても伏し目がちになっちゃう。
「ま、無理してやらなくてもいいと思うよ。体調の方が大事なんだし。じゃ、次の教室こっちだから。」
と、去り際に、
「体は大事に、ね。」
と、言い残し、頭にそっと手を置かれた。
え、何今の!?――――少なくとも、彼よりも低身長な私に対する嘲りではないようだ。だけど――――なぜだろう、この今までに感じたことのない胸の高なりは――――――。