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幻影(旧タイトル:七変の幻影)  作者: 新染 因循
文学フリマ短編小説賞応募作品
7/7

不滅

<1>


瞳に刺さった光子は去り

   棘のない闇はしみ

くさっていく温度が離れ

   鮮魚のように踊り


灰は重力から見捨てられ

     風にあやされ

風の揺籃は 母を追想し

      父を木霊し


熱燗のごとき夜は

錦絵のごとき朝はいずこ


比喩が地平に沈んだとき

人は死ぬ






なにを見た? 

わたしたちの景色に

おまえだけの

なにを見た?


言ってごらん。


時間はある。

大丈夫、おまえがしたよう

おまえも愛されている。

ヒトだけではなく。



<2>


雲は

夜空の蕾、

朝日に熟れ、

雷雨、詩の一節へ

形象をわたり


急峻な山、

豪邁に轟き、

小川、青の波濤へ

場所をわたる。


やがて ほつれ

ほぐれ て

遍在の風

心や灰 にさえ。


見えずとも

消えはせぬ

ただ一基の

なもなき墓。



<3>


見よ。

正午に驕り昂ぶっていた太陽が、

闇の鏤むる瑠璃の(あま)に怯へ

波濤へと飛びこんでゆくのを。

死に体の奴隷が、手負ひの獣となるのを。


かつては<神々の血(イコル)>が、

のたりと時に吹かれゆくさまを

詩人は謡ったものだが、

今やたれが記憶しえよう。

丘陵にて宿り木とただ一人ばかり

語り継ぎし予言者の風貌を。

黄昏に燃べられた、

芳しき煙の晩餐を。


知れ。

満腹と幸福が旅寝の果て、汝が床に

時は鎌を掲げて佇んでいると。

海底にむかし轟いた、

文明のいくせの悲鳴を。


だが案ずるな、

ただ身をまかせよ。

汝が背後(そがひ)のあけぼのと

隣に眠る熟睡(うまい)の稚児が(かいな)に、

汝が知らぬ蒼穹がくる。



<4>


天命あるがゆへの

一輪がはかなさよ

とこしえの寂寥に拓けた

たなびく曙のもと、

命の重さにふるえつつ

花ひらけ。


荒野を微風さえ慰めり

なれば、たれが望まん

一輪の鮮かさの死を。

たとひその灰が

一粒の雨によりて

弔われやうと。


宵闇を嘲笑うよう

凛とあれ、しとやかなる

誇りもたば、やおら散らへ

おんなが微笑むやうに。

青の目醒めこそは

うつなきものなれば。

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