不滅
<1>
瞳に刺さった光子は去り
棘のない闇はしみ
くさっていく温度が離れ
鮮魚のように踊り
灰は重力から見捨てられ
風にあやされ
風の揺籃は 母を追想し
父を木霊し
熱燗のごとき夜は
錦絵のごとき朝はいずこ
比喩が地平に沈んだとき
人は死ぬ
*
なにを見た?
わたしたちの景色に
おまえだけの
なにを見た?
言ってごらん。
時間はある。
大丈夫、おまえがしたよう
おまえも愛されている。
ヒトだけではなく。
<2>
雲は
夜空の蕾、
朝日に熟れ、
雷雨、詩の一節へ
形象をわたり
急峻な山、
豪邁に轟き、
小川、青の波濤へ
場所をわたる。
やがて ほつれ
ほぐれ て
遍在の風
心や灰 にさえ。
見えずとも
消えはせぬ
ただ一基の
なもなき墓。
<3>
見よ。
正午に驕り昂ぶっていた太陽が、
闇の鏤むる瑠璃の天に怯へ
波濤へと飛びこんでゆくのを。
死に体の奴隷が、手負ひの獣となるのを。
かつては<神々の血>が、
のたりと時に吹かれゆくさまを
詩人は謡ったものだが、
今やたれが記憶しえよう。
丘陵にて宿り木とただ一人ばかり
語り継ぎし予言者の風貌を。
黄昏に燃べられた、
芳しき煙の晩餐を。
知れ。
満腹と幸福が旅寝の果て、汝が床に
時は鎌を掲げて佇んでいると。
海底にむかし轟いた、
文明のいくせの悲鳴を。
だが案ずるな、
ただ身をまかせよ。
汝が背後のあけぼのと
隣に眠る熟睡の稚児が腕に、
汝が知らぬ蒼穹がくる。
<4>
天命あるがゆへの
一輪がはかなさよ
とこしえの寂寥に拓けた
たなびく曙のもと、
命の重さにふるえつつ
花ひらけ。
荒野を微風さえ慰めり
なれば、たれが望まん
一輪の鮮かさの死を。
たとひその灰が
一粒の雨によりて
弔われやうと。
宵闇を嘲笑うよう
凛とあれ、しとやかなる
誇りもたば、やおら散らへ
おんなが微笑むやうに。
青の目醒めこそは
うつなきものなれば。