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幻影(旧タイトル:七変の幻影)  作者: 新染 因循
文学フリマ短編小説賞応募作品
4/7

アイ

<1>


ふと、

唐突に、呼吸のように、

君は僕の骸骨を奪う


接吻するのでも、

慈しむわけでもなく、

むきだしの白い脳に

指をそっと、つきさし

滑らかにかきまぜ


僕の前頭に熱が色めく

それは残酷な遊びだ

君の、色のかけた遊びだ


やがて、

脱力した手は脳を垂らしながら

僕の胸を滑り肋骨をはがす


澄んだ瞳に僕はもういない

白い鋭端に震える臓腑は裂かれ

さる君には聞き得ぬ赤や悲鳴があふれる

僕を囲ったものはもう、いずこへ


僕はこの胸の痛みにうめく

空っぽの眼窪に見られ

零れた脳漿に慰められ



<2>


感情の欠落。不感の性器。平常の鼓動。


     ・乳白の素肌・


感覚の錯誤。不定の視線。平坦な赤面。


     ・柑橘の体温・


感性の問題。不能の野生。平凡な言葉。


     ・薔薇の微笑・


…………あ。……で……。も…………。


     ・こないの?・



<3>


私が幼子を絞め殺したのは、

私に向けた微笑んだ

瞳があまりに、

つぶらであったから。


薔薇が、一輪の薔薇だけが、

赤く肉感に溢れているのは、

あまたの同胞の、

血を啜ってきたから。


この心に掲げた理想が、

ただ一筋の誉れであるためには、

あの未熟な蕾を、

手折(たお)る他なかったから。


知ってはいけなったのだ。

あまりにも高すぎる純潔など、

たとえ額縁のなかであってさえ、

目に灼きついてしまったらば。


ましてそれが愛の、この身に受けた愛に埋もれた、かつての純白な羽根であったとしたら、母よ。私はあなたに何を手向けられるか。

冷たく弛緩した過去と、その返り血の通った手を、あなたへと差しのばさねばならないのか。

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