アイ
<1>
ふと、
唐突に、呼吸のように、
君は僕の骸骨を奪う
接吻するのでも、
慈しむわけでもなく、
むきだしの白い脳に
指をそっと、つきさし
滑らかにかきまぜ
僕の前頭に熱が色めく
それは残酷な遊びだ
君の、色のかけた遊びだ
やがて、
脱力した手は脳を垂らしながら
僕の胸を滑り肋骨をはがす
澄んだ瞳に僕はもういない
白い鋭端に震える臓腑は裂かれ
さる君には聞き得ぬ赤や悲鳴があふれる
僕を囲ったものはもう、いずこへ
僕はこの胸の痛みにうめく
空っぽの眼窪に見られ
零れた脳漿に慰められ
<2>
感情の欠落。不感の性器。平常の鼓動。
・乳白の素肌・
感覚の錯誤。不定の視線。平坦な赤面。
・柑橘の体温・
感性の問題。不能の野生。平凡な言葉。
・薔薇の微笑・
…………あ。……で……。も…………。
・こないの?・
<3>
私が幼子を絞め殺したのは、
私に向けた微笑んだ
瞳があまりに、
つぶらであったから。
薔薇が、一輪の薔薇だけが、
赤く肉感に溢れているのは、
あまたの同胞の、
血を啜ってきたから。
この心に掲げた理想が、
ただ一筋の誉れであるためには、
あの未熟な蕾を、
手折る他なかったから。
知ってはいけなったのだ。
あまりにも高すぎる純潔など、
たとえ額縁のなかであってさえ、
目に灼きついてしまったらば。
ましてそれが愛の、この身に受けた愛に埋もれた、かつての純白な羽根であったとしたら、母よ。私はあなたに何を手向けられるか。
冷たく弛緩した過去と、その返り血の通った手を、あなたへと差しのばさねばならないのか。