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独白
<1>
午後十時四十三分。
マンションの四階の
窓の金属枠に腰かけ
まばらな街灯光の中
ふと誰かの影は伸び
窓辺から跳ぶカラダ
僕の手の記録帳は
三途の川でぬれて
ぼろぼろによれて
白紙になり損ねた
ゲンコウヨウシ。
<2>
口だけがやたらめったら気取り
encyclopediaが縫われている目の
四肢を欠如した僕のからだ。
石の頭だけを大きくして
あらゆるものを知っていると
古ぼけた紙のにおいを吸いこんだ。
欠落した五感の愉悦さえもが
文字列として脳にinputされ
僕には四肢が欠如したままだ。
<3>
黄ばんだ写真に
奥行きだけ姿をみせず
感性の焚いた閃光が
いま一つの詩に
朧な記憶が
燭台のうえに
霧のように
揺れている
戦慄くのは
僕の口か脳か四肢
製糸の女工のように
欠落を縫う
きのう書いた詩は
今日の紙くずになり
きのうへ祈って
花束となる
<4>
滔々と流れる
記憶の分岐。
畔にたたずむ
所在なき僕。
水面にうつる
かつての僕。
石にぎる指に
思いが白む。
寂しげな音に
波紋は一つ。
おぼろに崩れ
水面は不定。
沈みゆく石は
やがて流れ。