第一歩
「(んぁ)」
いい気持ちで寝ていた彼は、聞きなれない言語の話し声で目を覚ました。
しかし、そこで一瞬考え込んだ。
「(あれ? これ、前に一度あったな。既視感ってヤツか。二度も同じ手に引っかかってたまるか)」
そして、彼は以前の二の舞いにならぬようゆっくりと、恐る恐る目を開いた。
だが、彼の予想はハズレだった。むしろ、少し暗いぐらいである。
「(なんだよ。心配して損したな)」
そして、またしても予想外のことが起こった。
突然、体に電撃が走るのような激痛に彼は襲われる。
「(ぐっ‼︎)」
しかし、幸いにも激痛の後聞きなれない言語が理解できるようになっていた。
「(まあ、結果オーライかな)」
それから、辺りを見回すと二人の男性が目に付く。一人目の男性は、彼のすぐ側にいる。どんな見た目かというと、アインシュタイン博士によく似ていると思う。
「侯爵様、無事生まれました。男の子です」
「そうか。お前もよく頑張ったな」
と呼ばれた二人目の男性は、三十代半ばほどに見える。動き回るより、机にむかって仕事をする印象だ。
「はい、あなた。よかった、私たちの愛しい子」
後ろから声がした。
振り返ると、聖母像のような微笑みを浮かべた女性が彼を抱きしめていた。
この二人こそ、彼の両親のセヴラン・マーキス・エルファスとアリゼ・マーキス・エルファスだ。
「この子の名前はどうしようか? うーむ、実に悩ましいな」
「あなた」
「どうした? アリゼ」
「実はもう決めているんです。この子の名前」
「そうか‼︎ それでなんて名前だ」
「グレン、という名がいいかなと私は思います」
「グレンか‼︎ いい名だ」
そう言うとセヴランは彼を持ち上げ、
「今日からお前はグレン、グレン・マーキス・エルファスだ。よろしくな、ははっ」
心の底から嬉しそうに笑った。
「だぶ」
光牙改め、グレンも満更じゃなさそうだった。
「(これからよろしく。父さん、母さん)」
「だぁ〜」