旅立ちのとき
『いやー。すまんなお主の反応が面白うてしょうがなかったんじゃ』
「まあ、もういいや」
創造神と同じように、少しもったいつけて気になったことを聞く。
「ここはいったいどこだ」
『お主も我と会って、想像できておるだろう」
「まあ、な」
創造心に指摘された通り、察しはついている。
「ここがどこなのか、という答えは出せていない。でも、地球上でないことは分かる」
『うむ。その通りじゃ』
創造神が肯定する。
「俺は、死んだのか?」
『うむ』
さっきと変わらない口調で答えた。
「俺は、自分がなぜ死んだのは分からない。それを教えてもらうことはできるのか?」
そう聞いた途端、創造神はとてもばつが悪そうにゆっくりと口を開いた。
『それなんじゃが••••••••••••』
「(ん? 一体どうしたんだ。そんなに言いにくい死に方をしたのか、俺は)」
『 お主の死の理由を言う前に話しておく事がある。この世界には、お主ら人類が知る神話は存在せぬのじゃ』
「(そ、そうだったのか)」
創造神は、気にせず続ける。
『オーディンもいなければ、ゼウスもいないし、ルーやメジェドなんかもいないのじゃ』
「(何で最後の2つだけマイナーなのチョイスしたんだよ)」
『天地を創造したのも、この地球に生命を誕生させたのも、人類に多くの恩恵を与えたのも、死や破壊や絶望を与えたのもすべて創造神たる我の役目なのじゃ』
「(そうだったのか。大変なんだな)」
『その通り大変な役目じゃよ』
「(うわ、また心を読んできた)」
『でも、その分やりがいもある』
「(さっきとは比べ物にならないほど、大人っぽく見えるな。外見は幼女だけど)」
『やかましい』
「(まずい、聞こえてたか)」
しかし、創造心は構わずに続ける。
『話を戻すが、すべてを我1人でやっているとな、その、ミスをする事もたまにあってな、だから』
「つまり、俺を死なせるつもりでなかったのに間違って俺を死なせた。と?」
『うむ。そうなる、な』
「(嘘だろ⁈)」
『それが本当なのじゃ。こう、何というか、名前を書き間違えてしまってな』
「デ○○ートかよ‼︎」
『ま、それは冗談じゃが』
「(イラッ)」
ゴチンッ
『いったぁ、何をする』
「こんな需要な内容の最中に冗談なんか挟んでんじゃねーよ。この、駄神が』
そう言われて、創造神はしおらしくなった。怒られる事に慣れていないようだ。
『物は相談なんじゃがの、光牙』
「なんだ」
『もう一度人生送るのはどうじゃ?』
「え?」
『実はの、これが始めではないのじゃ。今までにも何度か失敗した事はあった。その度に生き返らせた、いや、転生させたという方が正しいか』
空想の産物であるはずの異世界転生を体験する事になった。光牙は自分では気づいていなかったが、少し興奮していた。
「それって、チ、チート能力とか貰えたりするの?』
しかし、その問いには彼が創造だにしていなかった回答が帰ってきた。
『残念ながら、それは出来ないのじゃよ』
「え? な、何でだよ」
『第一に、神が人間一人と密接な関係を気づいてはいけないからじゃ』
確かに、神は全員に平等であるからそれは納得できる。
『第二に、わかってるとは思うが元の世界に転生させてやる事はできないのじゃ。そうすると、必然的にランダムでどこかの世界に転生される。そこの世界で生を受ければ、もう我の管轄ではないのじゃ。そこの世界の創造神の管轄になるのじゃ』
「つまり、俺がチート能力を受け取ってしまったら、転生された先の世界のパワーバランスが崩れてしまう、と」
創造神はゆっくりと、しかし、力強く光牙の言葉に頷いた。
光牙はしばらくの間黙り込む。今まで信じられないような話を一気に説明したのだ無理もない。
だが、光牙が決心するまで時間はそう長くはかからなかった。
「よし、分かった。それでいい」
『未練などはないのか?』
「特には。強いて言うなら、妹の事くらいかな。だから、俺の死をそれとなく伝えておいてくれ」
光牙のその言葉を聞いて、創造神は長く大きな溜息をつく。
『仕方なかろう。任された』
「恩にきるぜ。か・み・さ・ま」
満面の笑みを浮かべてそう呟いた。挑発的にも見えたが、何かを吹っ切ったようにも見えた。
『では、行くぞ』
と、創造神が言った瞬間に、光牙の足元に見た事もない魔法陣が展開された。そして、天に向かって光が差しているようであった。不思議な光景だが、なぜか恐怖はない。この光は温かく、包まれていると穏やかな気持ちになっていくからだろう。
『さあ、旅立て人の子よ。汝に神の祝福があらんことを』
次回から異世界編に入ります。