第九話 私の気持ち。
今回は愛佳目線です。
私は、ずっと友達だと思ってた一つ年下の男の子に、告白されました。
いつからとか、聞けなかった。ただ単に、好きだと言われて。私には他に好きな人がいて。
「ごめんね。私、裕二とは付き合えない。まだ、部長のこと好きだし、それに……裕二のことは、そういう風に見れない」
私はそう言った。この時は、この答えが正しいのだと、そう思っていた。うやむやにせずはっきり伝えることが、正しいのだと。
でも、気づいてしまった。私のその言葉で、裕二を、私の大切な人を傷つけていたんだということに。
男女の友情は成立しない。そんなの嘘だって思ってた。でも、ほんとだった。
私はずっと裕二のこと友達だと思っていたけど、裕二は私のことを、女子として見ていたんだ。
「ずっと見てたから」
裕二にそう言われて、目が覚めた気がした。ずっと見てたんだ、私のこと。そうだよね、裕二はずっと私のことを好きでいたんだ。
なのに、そんなこと知らずに私は、友達として抱きついたり好きだって言ったりしていた。自分が恋愛対象外だと知ってそんなことを言われてたのなら、きっと裕二は傷ついていたんだろう。ううん、絶対。絶対傷つけていた。
裕二は、私が裕二のことを男の子として見ていないことを知った上で、私のことを好きになったのかな?好きって、分からない。
気づいたら目で追っていて、知りたいな、話したいなと思って。もうその時はすでにその人のことを好きになっている。サッカー部の刈谷部長のことを好きになった時も、そんな感じだった。
部長に、転びそうになったところを助けてもらった。その瞬間、ころっと恋に落ちちゃって、ぽやぽやしているうちに私の手はサッカー部のマネージャー志望と書いていて。
そして、部長に近づくために私はマネージャーになった。
あの頃は私は一年生だったから、部長は違う人だったけど、刈谷部長はもともと目立つタイプの人だった。それで、きっと刈谷先輩は部長になるんだろうと思っていた。
あれから、一年が経って。裕二に告白された私はけじめをつけようと思った。
――――部長に、告白した。
一言だけ、ごめんと言われて。最後に頭を撫でられた。涙が溢れそうになったけど、我慢して。ありがとうございましたと頭を下げた。
それで良かった。けど、つらくて、苦しくて悲しくて。そこで自分の間違いに気づいた。
私は裕二を傷つけた。ふり方を間違えた。ひどいことを言った。
今までにないほど後悔をして、泣きそうになった。でも、きっと裕二の方が私よりもっともっと泣きたいはず。
謝ろう。謝って、ちゃんと仲直りしよう。元通りにはなれなくても、ちゃんと謝りたいから。
裕二は、私にいつも優しかった。私がわがままを言ったら、聞いてくれた。
不器用だから照れると口が悪くなるし、すぐ顔が赤くなるから手で隠そうとする。でも、そんなところがすごく可愛い。
可愛いと言ったら否定する。好きだと言ったら照れながら俺もだよって言ってくれる。そんな裕二が私は大好きだった。
でも、裕二と私の好きは違ったんだね。私はずっと、友達や家族に思うような好きを裕二に感じていた。だけど裕二は、私のことを女の子として好きでいたんだ。
気づいてあげられなくてごめんね。裕二、ごめんね。
何度も、謝った。泣くつもりなかったのに、泣いてしまった。そしたら、裕二は私のことを優しく抱きしめてくれた。あたたかくて、いい匂いがする。
やっぱり裕二はいつものように優しくて、私は悪くないって言ってくれた。でも、違うよ。私が悪いの。
私、裕二に抱きしめてもらう資格なんてない。そう言った。だけど裕二は「資格なんて、いらねえよ」とつぶやいて、私を強く抱きしめた。
その時、私は気づいた。私が大切にしなくちゃいけなかったのは、部長じゃない。裕二だったんだ、と。
私は、裕二のことを守ってあげなきゃいけなかった。裕二を大切にしてあげなくちゃいけなかった。私たちは、きっとお互いを思いすぎていたんだね。
刈谷部長を好きだった気持ちはきっと嘘じゃないけど、でも私は、裕二のことを、心の奥でずっと好きだったんだ。それに気づかないで、私は裕二をいっぱい傷つけてしまった。
ごめんね裕二。今すぐにでも、告白したいよ。でも、そんなことできない。一度ふっておいて、やっぱり付き合いたいなんて、そんな都合のいいことできない。
裕二をあんなに傷つけたのに、こんな私じゃ、きっと裕二には釣り合わない。私じゃだめだ。私は、裕二を好きになっちゃいけない。
これが裕二をもっと傷つけることになったとしても、私は、裕二にはこの気持ちを伝えない。あの子には、教えるかもしれないけど。
彼にはきっと、私よりも大切な人がいつかできる。こんな最低な私よりも、もっといい人はたくさんいる。
だから、裕二。ごめんね。幸せに、なるんだよ。
「私やっぱり、裕二のこと友達にしか見れないよ」
嘘を、ついた。この選択が間違っていたとは思わない。いいんだよ、これで。裕二を混乱させたくないの。
私はこれから絶対に付き合わない。裕二とも、誰とも。だから許して裕二。笑って、友達に戻ろう。それがきっと、私たちの幸せなんだよ。
裕二は潤んだ瞳で私を見つめて、頷いた。
二人で一緒に帰る。広い道を、いつもより少し距離をおいて歩いた。
裕二の横顔を見て、私の胸が痛む。ごめんね、ほんとは大好きだよ。ありがとう。
私を幸せにしてくれて、本当にありがとう。
こういうもやもやする話を書いてみたかった私です。
残り一回ですが、最後までどうぞお付き合い下さい。