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第六話 好きな人。

 すっかりショックを受けた俺は、思い当たることがあった。……愛佳の好きな人って、結局誰?

 諦める気はないけど、一応相手は気になる。あの人だったら譲る、とかそんなのはないけど、その人に近づけるように頑張りたいから。愛佳の好きな人になりたい。そんな思いがあった。


「……あの、さ」

「な、に?」


 二人とも、少しぎこちない。緊張で呂律が回らなくて、途切れ途切れの言葉になる。

 俺は愛佳を見上げ、尋ねた。


「愛佳の好きな人って……誰?」


 しばらくの静寂のあと、愛佳が小さく「え……」と口にしたのを、俺は聞き逃さなかった。みるみる愛佳の顔が赤く染まっていく。こっちまで恥ずかしくなって顔が赤くなりそうなほどだ。


「あ……の、それは、それはねっ!」


 やけに語尾を弾ませる愛佳。でも、楽しんでるとか、そんなんじゃなさそうだ。きっと、恥ずかしさで自然とそうなっているのだろう。

 彼女は顔を手で覆い、蚊の鳴くような声で「……見ないで」とささやいた。ごめん、もう散々見ちゃったよ。

 すると愛佳はそれ以上何も言わなくなって、うつむいてしまった。やっぱり、言いにくいんだろう。おとなしく次の愛佳の言葉を待っておくことにした。


「……あのね」


 しばらくしてから、愛佳が口を開いた。ゆっくりと、話し始める。


「その人ね、優しいの。背が高くて、力も強くて、なんか、包容力があって。リーダーシップもあるし、とにかく、私にはもったいないほどいい人なの」


 優しくて背が高くて力が強くて包容力があってリーダーシップがあっていい人……。誰だよ、わかんねえ。つーか、愛佳そいつのこと褒めすぎだろ。そうか、無駄に褒めてるから分からないのか。

 力が強いで連想するのは部長だけど、あの人全然優しくないし別に包容力ってのももないしな……。つーか包容力ってなんだよ。

 愛佳は年上が好きだから多分年上のはずなんだけど、誰だろう? 俺の知ってる人だと、彼女は言う。俺が知ってる先輩でそんないい人、いないと思うけどなあ……。


「じゃあ、愛佳その人のことなんて呼んでる?」

「そ、そんなの言ったら分かるよ」


 俺の質問に、愛佳は答えようとしない。もう、普通に教えてくれたっていいのに。

 部長の他に誰かいたっけ? 背が高くて力が強そうな先輩は結構いるけど……。

 俺が考え込んでいると、愛佳がぶんぶん手を振りながら顔を近づけてくる。


「リーダーシップが結構ヒントだよ!」


 怒ってるんじゃないかと思うような剣幕で、愛佳は叫んだ。リーダーシップ? リーダー、リーダー……中心的な存在ってことか? ――――まさか。


「愛佳の好きな人って……まさか、部長?」


 そんなこと、あってほしくない。俺はそう願った。

 だってあの人は、俺が尊敬してる人で。あの人には絶対敵わないだろうなって、すでに思ってる相手であって。でも。運命は、残酷で。

 ――――愛佳は、顔を真っ赤にしてゆっくりと頷いた。


「……そう、だよ。私、刈谷(かりや)部長のこと好きなの」

「……」


 マジ、かよ。愛佳の好きな人、部長かよ……!

 俺、心の中だけだけどそいつとか言っちゃったよ! 敵わないとかは置いといて目指したいとか思ってたし! 無理だろ! まず背と力は無理だな!

 ……どうしよう。本気でだめだわこれ。俺なんかが、部長に敵うはずがない。

 俺の恋、本気で終わった……。


「……だ、だから、ほら、裕二同じサッカー部でしょ? 私もだけど。お願い、手伝って!」

「てつ、だう……?」


 手伝うって、それはつまり。愛佳の恋の手伝い? 応援? 俺が? 愛佳のこと、好きなのに?


「お願い! ほんとに私、刈谷部長のこと好きなの! 裕二、部長と仲良いでしょ? 私のことどう思ってるか、聞いてくれない?」


 ……上目づかいはやめてほしい。手、合わせててなんか妙に可愛いし、真剣そうだし、そんなの俺、断れるわけないじゃん……。


「……いーよ」


 そう答えると、愛佳は子どもみたいにはしゃぎはじめた。


「やったー! ありがとう裕二! 大好き!」


 嬉しさの方で涙を零しながら、愛佳は俺に飛びついて強く抱きしめた。俺も、少しだけ抱きしめる。

 バカだなあ。なんで、俺こんなこと引き受けちゃったんだろう。余計つらくなるって、ちゃんと分かってたはずなのに。

 でも、嬉しそうな愛佳の姿を見ると、今更嫌だとは言えなかった。最悪、上手くいかないように仕向けることもできるような気がするし。

 ……いや、そんなことは、したくない。そんなことして愛佳が部長に嫌われたら、愛佳はきっと傷つくし、俺だってやりにくくなるだろう。

 傷ついた愛佳を慰めて、好きになってもらう。そんなずるいことは、したくなかった。だって、それが上手くいく保証なんてない。

 そんな、自分のことだけ考えたようなことをするくらいなら、俺は愛佳のことを諦めたって構わない。彼女が幸せでいられるなら、笑ってくれるなら、部長との恋を、俺は応援する。

 まだ、心から応援できるとは言えないけど、でも、もし愛佳と部長が付き合ったら、その時は笑顔でおめでとうって言えるように。

 今から、笑顔の練習しておこう。精一杯、笑えるように頑張ろう。

 愛佳も、愛佳の好きな人も、俺にとってはとても大事な人だから。

この子たちはみんないい子です。

逆にいい子じゃない子を書けない私です。

イラつく子を書けるようにもっと修行します。

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