第三話 部活。
「やっと部活だー!」
「健太耳元でうるさい」
授業も全部終わって、部活の時間になった。俺たちは一年だからまだ部室を使わせてもらえないので(サッカー部はうちの学校強いのになぜか部室がアホみたいに狭いからってのが理由)廊下で着替えを済ませる。
着替え終わってグラウンドに行くと、もう部員はほとんど揃っていた。
「遅いぞお前らー」
「部長すいませーん」
俺たち一年は小走りで集まった。部員を仕切る部長の隣には、マネージャーの愛佳もいる。目が合うと、微笑まれた。
……一瞬、心臓止まるかと思った。
「筋トレきっつー」
「黙ってやれねえのかよ健太」
「仕方ねーだろー」
筋トレの時間。いつものように健太はうるさかった。何が仕方ないんだよ。部活中くらい黙れよ。
俺は小さくため息をついた。健太はほんとにうるさい。まあ別に、それが健太だからいいんだけどさ。
「ほらー、健太くんもちゃんと黙ってやる! あと、裕二もわざわざ注意とかしなくていーから! ややこしくなる!」
パンパン手を叩きながら現れたのは愛佳。マネージャーっぽいジャージを着ている。言動も心なしかマネージャーっぽい。
「すいません愛佳センパイ」
しおらしく謝る健太。でも俺は、愛佳に対してそんな答え方はできなかった。
「るっさいなーもー」
「あーっもう裕二! 私、先輩なんだからちゃんと敬語使うの!」
「はいはい」
「はいは一回でしょうが! ったくもー」
うるさいな……。愛佳、部活の時間になると厳しくなるからなあ。まあ、俺がちゃんといつもの時間と部活を切り替えないのが悪いんだろうけど。
でも、愛佳先輩とか言えるわけない。だいたい、愛佳は先輩ってキャラじゃないし。どちらかというと甘える側だろ、愛佳は。
「ほんと裕二、愛佳先輩のこと大好きなんだな」
俺にそう言ってくる健太は、にやにやしている。
「るっせバーカ」
そう言い返すと、「バカバカ言ってんじゃねーよ。嫌われんぞ」と真顔で言われた。誰に、なんて、聞かなくても分かった。
俺は腹筋しながら小さな声でつぶやく。
「……別に、今更いいよ」
「なに、どういう意味?」
「どうせ、好かれたところで意味ねえってこと!」
だって、愛佳は俺のこと、恋愛対象として見てないから。もう、知ってる。何度も聞いた。
“私、年上の人に守ってもらいたいんだよね~!”
そう、言っていたのを。
「なんだよ裕二。しおらしいな」
「うるせ」
「うるさいうるさい言うんじゃねーよバーカ」
俺の口癖、うつってんじゃん。バカバカ言うなって言ったの、健太のくせに。
腹筋を終えて地面に寝転がり、空を見上げた。当たり前だけど、広い。雲が全然ない、晴天だ。綺麗。
「何見てんだよ」
「空」
健太に尋ねられて、俺は素っ気なく答える。いちいちうるさい。別にどうだっていいだろ。
そう思いながら、俺は目を閉じた。眠たい……。
「おい、裕二、起きろ」
「起きてる」
「目ぇ開けろ。愛佳先輩来るぞ」
目、開けた。カッ、という効果音がぴったりだ。ちなみに健太にひかれた。
「……お前、ほんと愛佳先輩のことになると性格変わるよな」
「んなことねえよ」
通りすぎていく愛佳。彼女はこっちを見ると、口に手を当ててくすっと笑う。
なんで笑われたのか分からなかったけど、とりあえず起き上がる。あとで健太に「腹出てたぞ」と言われて先に言えよと殴りたくなった。
「ほんとラブラブだよな、裕二とマネージャー」
「部長そういうのやめてください」
「ほんとのことだろ、照れんなよ」
部長に無理やり肩を組まれて、俺はむっとしながら振り払おうとする。が、全然だめだった。部長力強すぎ。
二つしか歳変わらないのに、部長すごい背高いし力強いしがっしりしてるしなんかもう、憧れる。……俺も、あれぐらいだったら愛佳に頼ってもらえんのかな? 愛佳はきっと、俺のこと頼りないって思ってるだろうし。
「なんで不機嫌そうなんだよ」
「別に不機嫌じゃないです」
部長にほっぺたをぷにぷにされながら答える。部長、力強いから痛い。
散々いろいろいじられたあと、やっとボールを触れる時間になった。部長、ちゃんとしてくれ。
そんな感じで部活は終わった。解散したあと着替えて昇降口に向かう途中、また部長に捕まって散々いじられた。この人しつこい。髪とかわしゃわしゃされたから、すごいぐっちゃぐちゃになったし、最悪……。
靴を履き替えたあとしばらくそんなことをされていると、愛佳が来た。部長がにやにやしながら俺から離れ、背中を押してくる。力強いってこと自覚しろよ部長!
「あ、愛佳」
「ん? 裕二どうしたの?」
愛佳に一緒に帰ろうと誘おうと思って呼び止めたのはいいものの、なんかめっちゃ部活の人に見られてる。……恥ずかしい。
部長も健太も、他の人もみんないるし。なんでみんな見るんだよ! さっさと帰れよ!
「……い、一緒に帰ろ」
俺の方が背が低いから、少し上目づかいになる。なんか、絶対顔赤くなってる……。
そう思ってうつむく。すると、何を思ったのか愛佳が頭を撫でてきた。なんで、いっつも頭撫でられるんだろ、俺。
「いーよ、帰ろ!」
ってかいっつも帰ってるじゃん、と笑う愛佳の横顔を見ながら、俺は心の中で部活毎日あってよかった、と思っていた。好きな人と同じ学校って、幸せだな……。家も隣だし。
個人的な話ですが、部長に絡まれてる裕二が好きです。