第一話 好き。
十話完結の予定です。今日から十日間よろしくお願いします。
読み返すと恥ずかしいです。
「裕二ー!」
どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえた。振り向いた先にいたのは、俺よりちょっと背の高い女子。
「愛佳」
彼女の名前は、吉野愛佳。俺の家の隣に住んでて、一つ年上の先輩。普通に可愛い。
そして、俺、浅井裕二はこの人のことを多分好きだ。中二の時に出会ってから、ずっと。
「待っててくれたの? やーっさしーい」
「何その言い方ムカつく」
「ひっど! 優しいって褒めてあげたんじゃん!」
俺は、愛佳の前であんまり素直になれない。恥ずかしさがあるから、なのかな。絶対子どもっぽいって思われてるだろうな……。
そう思いながら、俺たちは一緒に学校に向かった。渋田高校、通称渋高に。
渋高は、サッカー部が強いって愛佳から聞いていた。だから、俺はこの高校を選んだ。まあ、愛佳がいる高校だからっていうのもあるんだけど。
あー、もう、好き。好きだけど、絶対こんなの伝えられない。だって愛佳、好みのタイプ年上だって言うし……。なんで、年下じゃだめなんだよ。
まあ、三月生まれなのが余計に年下さを際立たせているんだろうけど。愛佳は、五月生まれだし。
うー……やだ。年も違うし俺生まれんの遅いし、ほんとやだ。子どもっぽいって、言われてるみたいで。しかも愛佳の方が背高いし。だから、愛佳は俺を恋愛対象として見てないのかな。
愛佳の横顔を見ながら歩く。やっぱ、可愛いな……。うわ、なんか俺恥ずい。
「ん? 何見てんの裕二」
「なっ、なんも見てねーし!」
言いながら、顔を隠す。もう自分が嫌だ。恥ずかしい。
そのあとも何かとからかってくる愛佳の言葉に反論しながら学校に辿り着いた。やっとだよ……。
「あ、裕二」
「おーはよー!」
校門を通りすぎたあたりで現れたのは、クラスメートの田中健太と金沢天音。ちなみにテンションが高い方が天音である。抱きついてくるから暑苦しい。
健太は俺と同じサッカー部。ついでに言うと愛佳はそのマネージャー。だから、なんだかんだで愛佳と一緒にいれる時間はまあまあある。ただ、部活でからかわれるんだけどな、先輩とかこいつらとかに。
「今日もラブラブだなお前ら」
「うるっせえ健太」
小声でささやく健太の頭を叩く。そしたら叩き返されたからなんかすげームカついた。いや、先に手を出したのは俺だけど、でもからかってきたのはあっちだし。……ま、いいか。
こんなやつだけど、俺は健太を結構信頼してる。一応、愛佳のことも相談してるし。……天音は頼りにならないから何も教えていない。あと信用できないし。絶対あいつ口滑らすからな。
「マジで、それで付き合ってないとかありえねーだろ」
にやにやする健太。あ、ウザい。殴りたいという衝動にかられるが、深呼吸して心を落ち着かせる。
「……俺だって、付き合えるものなら付き合いたいけどさ」
うつむきながらつぶやくと、なんか知らないけど健太に頭ぽんぽんされた。子ども扱いするなし。
「ほらほら、みんな早く行かないと遅刻しちゃうよ~」
のんびりとした愛佳の言葉で、俺たちはやっと歩きはじめた。
「それにしても、天音くんほんと顔可愛いねー」
「愛佳先輩ひどいなぁ。性格も可愛いですよー」
「えー、でもたまに毒吐くからなあー」
天音と愛佳はなぜか妙に仲が良い。あー、天音、無意識に近づいてるから余計ムカつく!
天音と愛佳の後ろをもやもやしながら健太と一緒に歩いていると、肩をちょんちょんつつかれた。
「……なに、健太」
「いやぁー、ヤキモチって怖いなあと思って」
「は!?」
ヤキモチってなに! 俺そんなのしてねーし!
ただ、ちょっと。ちょっとだけ、イライラしてる。でも、それだけだし。そんなのヤキモチの中に入らねーし。
「ほんと恋する乙女は可愛いなー」
「は?」
健太は……やっぱウザい。なんで俺、こんなやつのこと信頼できるとか考えてんだろ。
乙女じゃねえし、男だし。ほんとやだ。愛佳のこと好きなのは、しょうがないだろ。好きに、なっちゃったんだから。叶わない恋だって分かってたのに。全部知ってたのに。
「裕二、なに暗い顔してんの?」
「っわ」
気づけば、目の前に愛佳がいた。少しかがんで、上目づかいしている。真剣そうな目。
あああ、かわいい。なにこの人ほんっとに可愛い。
「べ、つに、暗い顔なんかしてねーし」
ふいっと顔を逸らしてぎこちなくつぶやく。多分俺は今、不服そうな顔をしているだろう。暗い顔なんて別にしてねーけど、もししてたとしたらそれ、愛佳のせいだし。愛佳が原因だし。だから、余計に……?って何言ってんだ俺。
ふと愛佳の方に顔を向けると、目が合った。……あー、無理。可愛い。今すぐ目を逸らしたい。なんで上目づかいとかしてくるんだよマジで可愛すぎだろほんとふざけんな。
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。ほらさっさと歩けバーカ」
「あ! バカって言った! 悪~」
「るっせバーカ」
「また言った! 裕二の方がバカだし! バーカバーカ」
愛佳は、きっと気づいていないだろう。俺がバカって言う時はいつも照れてて、それを隠すために言ってるってこと。まあ、気づかれた方が嫌なんだけど。恥ずかしいし。
愛佳は頬を膨らませて腕組みをし、俺を見下ろす。やっぱり、なんかやだな。チビって言われてるみたいで。
愛佳はじっと俺を見つめて、手を伸ばしてくる。
「ほんと裕二って可愛い」
「っは!?」
彼女はにやにやしながら俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でまわして、そして意地悪く笑った。
――――あ、やばい。可愛すぎて死にそう。ほんとに、好き。