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はい、あ~ん

 神官さんたちが奥から持ってきてくれたのは、お盆くらいの大きさのクッキーらしきものでした。

 うん。まあドラゴンサイズで作ってたら、一口大のクッキーもこの大きさになるよね。


 クッキーの表面には色とりどりのドラゴンがモチーフになってる模様が描かれていて、とっても綺麗だった。これ多分、神様へのお供えとかそんな感じだったんじゃないかな。ただ飾っただけでも、かなり見栄えがするもんね。


 きっとこの神殿に棲む人たちは、いつやってくるか分からない黒さんの為に、毎日毎日お供えを用意して待っていたんだろうなぁ。前回の訪れから30年たっても、毎日欠かさず。


 そのけなげな信仰心に、ちょっとホロリとする。


 お盆サイズクッキーは全部で10枚あって、そのうちの3枚を黒さんはペロリと平らげてしまった。

 早っ。


「黄金竜様と雛様も、お口に会えば良いのですが」


 私は神官さんの持ったクッキーを軽くスキャンする。

 あんまり疑いたくはないけど、毒でも入っていたら大変だからね。私が死ぬのはともかく、ルゥを死なせたくない。


 正直、自分が死ぬという事に恐れはない。

 だってさー、あんだけ死んでたらいい加減慣れるよね。

 怖いのは繰り返す事だ。それと、関係のない人が私の巻き添えで死んでしまう事。


 繰り返す時の中で、私の行動の違いで死んでしまう人がいた。ある時は私を助けてくれて、ある時は私を陥れた人たち。

 だけど彼らは根っからの悪人っていうわけじゃない。だって立場が許せば助けようとしてくれたことだってあったんだもん。


 だから、信じきれないけど、憎みきれない。

 ほんと、矛盾してるよね。

 だけどさ、いつか裏切るかもしれないからって見捨てたら、私まで元婚約者の王子きちくと一緒になっちゃうじゃない?

 だから巻き添えで周りの人を死なせないように気を配った。


 その一環で毒物が入ってるかどうかのスキャンもできるようになったんだけどね。


 まあ、これからルゥを守る為に使えばいいし、覚えてて損はなかったって事だよね。

 ルゥに毒が効くのかどうかも、後で聞いておこうっと。


 ざっとスキャンしたところ、差し出されたクッキーに異常はなかった。でもまず私が一口かじってみる。


 んんん。堅いけど、久しぶりの甘いものだー!


「おいしー」


 にっこにこで、残りをルゥの口元に持って行く。

 ルゥがそおっと口を開けると、ギザギザの歯が見えた。初食べ物だよ!思う存分味わって食べてね!


 あ、後で歯磨きも教えないとダメかもね。私が磨いてあげようかなぁ。

 仕上げにクリーンの魔法をかけて。


 ん?最初からクリーンの魔法で綺麗にすればいいって?

 えー。そんな事したら歯磨きしてあげる楽しみがなくなっちゃうじゃないですか。やだー。なんてね。


 クッキーを口に入れて、おそるおそる噛んでいるルゥが可愛い。

 こんなに大きいのに可愛いとは何事だ。けしからん。でも可愛いから許す。


「どお?おいしい?甘い?」


 期待をこめて聞けば、ルゥは首を傾げた。


「これが甘いという事なのでしょうか?よく分かりませんが……シアと同じ物が食べられるというのは嬉しいですね」


 ぶほっ。何このイケメンな返事。思わず口の中のクッキーを吹き出すところだったよ。お供えだったからか、ちょっと硬くてずっとモグモグしてたんだよね。吹き出したらもったいないし、せっかく作ってくれた神官さんたちに悪いもんね。


「おー。金のも気に行ったか?雛もどうだった?」

「ん。おいしいよ。黒さんも神官さんもありがと~」


 ルゥがくるんと丸まって地面に伏せたんで、いつものように私はその横腹にもたれて座った。そしていつものようにルゥのしっぽをナデナデする。つるんとした鱗のついたしっぽは、ほんのりと暖かい。そのしっぽが私のなでる手に合わせてユラユラと揺れる。


 ああ、幸せだなぁ。

 こんなに幸せを感じるのなんて、転生してから初めてだよ。

 幸せすぎて怖い、ってこういう事を言うのかなぁ。


「雛さまにもお気に召して頂けたようで光栄です。次にいらっしゃる時には、何か肉の物もご用意いたしますね」

「んー。いいよ。次にいつ来れるか分かんないし。肉は保存できないからいつも置いとくのは大変でしょ?自分たちで食べないんだし。それより、ここから一番近い町ってどれくらいで行けるの?なんていう町?」

「町……ですか?」


 とまどう神官さんに私はうんうんと頷く。

 だってねー。肉を食べない神官さんとドラゴンさんの前で一人で肉をほおばるのって、いたいけな乙女にはハードル高いもん。

 だからここは、一人で町に行って、がっつり肉料理を食べる作戦なのです!


 お金はあれだよね。冒険者やって貯めた金貨があるから、それをこの世界のお金と交換してもらえばいいし。

 あ、できたら服も欲しいなぁ。だって冒険者スタイルのこの服しか持ってないからね~。それを魔法で洗浄して着てたけど、さすがにちょっとオシャレしたいなぁ。女の子だもん。


 まあ一応、この世界の常識を神官さんに教えてもらってからにするけども。


「この山の麓に小さな町があります。人の足で2時間ほど歩いた所でしょうか」

「食堂はあるかしら?」

「宿屋の中にあったと思いますよ」


 2時間かぁ。結構近いのね。

 うん。決めた。前言撤回。常識は現地で学ぼう!

 いざ、お肉!


「じゃあ私ちょっと行ってくるからルゥと黒さんはちょっと待っててね。あ、神官さん、お金だけ換金してください」

「え?シア。一人で行くんですか?」

「うん。だってルゥは行けないでしょ?さすがに町にドラゴンが行ったらパニックになると思うし」


 三日位たってから迎えにきてもらうんでもいいんだけど、ドラゴンの時間感覚は当てにならないからね。申し訳ないけど、ここで神官さんたちと遊んでてください。


 そう言うと、ルゥは捨てられた子犬のようにうなだれた。

 うん。可愛い。可愛いけど……


 ごめんね。私は肉が食べたいのよおおおおおおおお。

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