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肉がダメでも甘味をください

 ちょうど3個目の桃にかぶりつこうと思ったところで、ルゥが黒さんと一緒に戻ってきた。

 ぎゃあ。黒さん、もーちょっと静かに降りてよ!木の実が転がっていっちゃうじゃないの。


「黒さん!せっかくルゥが採ってきてくれた木の実が散らばっちゃったじゃないですか。もーちょっと静かに降りてくださいよ」


 腰に手を当てて、ルゥと同じくらい大きい黒竜を叱る。


 まったくもー。後で散らばった木の実をかき集めるのって、大変なんだよ?

 ルゥなんて、すーっと滑空するように静かに着地するのに。ほら、見てよ、あの優雅さ。

 爪の垢でも飲んで見習いなさい!


「ああ、悪い悪い。でもちゃんとお前の事は踏まないようにしてるんだから偉いだろー?」

「いや、それ当たり前だから。当たり前のことしてエバらないで下さい」

「細かいなぁ。そんなんじゃ立派なドラゴンになれないぞー」


 いや、それ無理だから。

 人間はドラゴンに進化しないから。


 そー思ったけど、雛は雛だって言われるのがオチなので口をつぐんだ。

 全くねぇ。雛って何なんだろう。聞いても上の言葉で会話が終了しちゃうのよね。ドラゴン同士はそれで納得しちゃうみたいだけど、人間の私にはさっぱり理解できません。

 でも雛だって事で大切にされてる訳だから、何も問題はないし、いいけどね。


「それより黒さん。私、人間の住む町に行ってみたいんですけど、どこに行けばいいか知ってますか?」

「人間の町?何しに行くんだ?」

「お肉とかお菓子とか食べたいんです!」


 両手を握りしめて力説すると、黒さんは横にいるルゥを見た。


「雛って肉食だったのか。珍しいな。腕の肉……だと後で困るから、しっぽでも切って食わせれば?」


 ぐわー!あんたもかー!

 だから、なんでルゥの肉を食べる話になるのよ!そこから離れなさい!


「ドラゴンは食べないから!絶対食べないからね!」

「私はシアだったらいいかなと思ったんですけどね」

「絶対食べないから!!!」


 大切な事なので念を押しました。

 まったくもう、このドラゴンたちときたら……なんで肉といえばしっぽなのよ。

 そーいえば蛇の肉って鳥のササミみたいだって聞いた事があったかも。ってことは……


 いやいやいや。何考えてるの私。

 ドラゴンなんて食べませんからね!


「肉が食えるかどうかは分からないけど、甘い物ならくれるとこを知ってるぜ。それでいいなら行ってみるか?」

「甘い物!行く行く!」


 肉がダメでも甘い物を食べれるならそれでもいいよ!

 かも~ん。甘味ちゃん。


 って、え?ドラゴンって物を食べたりするの?


「うん?ああ、なんかくれるっていうからなー、食べてみたらうまかったんだ。腹はいっぱいにならないけど、たまにはいいぞー」


 そ……そうなんだ。食べるんだ。

 なんだか食べないもんだとばっかり思ってたけど……


 あれだよね。アイドルは絶対トイレになんて行かない伝説を信じちゃったっていう感じ?


 もしかしてドラゴンって魔力以外を摂取したら暗黒面に落ちちゃうかもなんて最悪な想像をしてたから、それが杞憂だって分かったのは良かった。


 ハイ。ちょっと厨二が入ってましたね。反省。


「そんじゃ案内してやるよー。ゆっくり飛ぶからついてこいなー」

「ちょ、待って!私飛べないから!」


 そのまま飛んで行きそうになる黒さんを止める。

 くそー。羽があるからって飛べるのが普通だと思っちゃダメなんだからね!


「そうかー。雛だしなー。じゃあ金のに乗せてもらいなー」

「うん。そうする。ルゥいい?」

「もちろんです」


 ルゥは私が乗りやすいように、ちょっと体を低くしてくれた。私はよっこらしょとルゥの背中に乗り、すべすべの首に手を回す。そして寒さ対策と風対策の為に、自分の体の周りに風魔法で結界を張った。


「準備おっけー。黒さん、案内よろしく~」


 私の言葉を合図に、黒さんとルゥがバサァっと翼を広げる。そして大きく羽ばたいて空に浮かぶ。

 ああ、なんてファンタジーなんだろう。


 洞窟を抜けて空を飛ぶ二頭のドラゴン。

 キラキラと太陽の光を浴びるルゥの体が綺麗なのはもちろんだけど、日頃の言動から綺麗とかカッコイイからは程遠い黒さんも、ドラゴンマジックでかっこよく見える。


 いいなぁ、ドラゴン。

 私が雛だって言うのなら、いつかこの身もドラゴンになれないものか。


 そしたらずっとルゥと一緒にいられるのになぁ。


 どうせ転生するなら100回も殺される公爵令嬢じゃなくて、水色のドラゴンに生まれたかったよ。そしたらあんなに苦しくて悲しい想いはしなかったのに。


 でも……結果的にはルゥに会えたから良かったのかな。100回殺されたのも、ルゥに会うためだと思えば許せ……や、あのクソ野郎こんやくしゃの事は一生許せないけど、それでもここらでスッパリ忘れ去ってもいいかもしれない。

 許せないって事は、まだ心を残してるって事だから。


 うん。そーだよ。せっかく異世界に来て、こんな素晴らしいドラゴンと出会ったんだから、後ろなんて振り向いちゃダメだよね。

 ほら、この世界はドラゴンだけじゃなくて空気すらも優しいもん。


 人間……も、優しいといいんだけどな。

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