ドラゴンさんと一緒
やっとメインキャラの名前が出ました!
人間ってさ、努力し続けるのは大変だけど、堕落するのは一瞬だよね。
なんて事を思ってしまうくらい、最近の私は怠惰な生活を送っていた。
いや~。あれから、ドラゴンさんは私を背に乗せて住居(?)に連れて行ってくれたんだけどもね。
いわゆる山の中の洞窟で、何もないがらんどうの穴としか言いようのない所だったのにはびっくりした。でも、雨露がしのげるだけでも有難いと思わなくちゃね!
その洞窟はドラゴンさんも寝る時にしか帰らないらしく、見事に何もなかった。
想像では寝床にする藁くらいあるんじゃないかと思ってたけど、それもない。食料らしき物も何にもない。
まさか、肉食、と思って震えあがったけど、色々話を聞いたら、ドラゴンって空気中の魔力を摂取するから何も食べなくてもいいんだって。寝る時も体が鱗に覆われて堅いし、特に寝床は必要ないし、普段も外でそのまま寝ちゃったりしてるらしいから、ここにも滅多に帰らないのだとか。
外で寝て危険じゃないのかって聞いたら、ドラゴンの鱗はどんな攻撃も跳ね返すから大丈夫なんだとか。
うわぁ。元・婚約者よりチートな存在が、ここにいたよ。上には上がいるもんだなぁ。
それにこの世界にも人間がいるけど、ドラゴンの事は神様のように敬っているから、決して傷つけたりはしないんだって。
この世界に人間がいるなら、私も人間として認識されそうなものだけど、なぜかドラゴンさんたちは私を「雛」と呼ぶ。もう、私の名前は「ヒナ」でいいんじゃないかなって、最近思ってしまうくらい。
一応、ちゃんとアデライード・フェリシア・ジェンセンっていう名前があるんだけどもね。もう「ヒナ」でいいよ、ヒナで。アデライードの名前に未練もないし。
でもって、ドラゴンさんたちは長命で、なかなか子供が生まれないんだそうな。だから幼体をとっても大事にするんだとか。
それでなぜか雛認定されている私は、ドラゴンさんたちにと~っても大事にしてもらっているのだ。
え?幼体を大事にしてるのに、何で捨てられたと思われたかって?
それは、まだ幼体がたくさん生まれていた頃を知っている古参のドラゴンには、弱い個体を捨てるっていう習慣があったから、それだと思われたみたい。
あれ?ドラゴンの子供って幼体って言うんだよね。
じゃあ雛ってなんだろ。
……まあ、いっか。大事にしてくれてるのは変わらないし。
私をここに連れてきてくれた金色ドラゴンさんは、私が何か食べないと死んじゃうことを説明したら、そりゃもうどっさり食べられそうな実とか果物を大量に持ってきてくれた。
更にどこからか良い匂いのする藁も持ってきてくれて、それを敷き詰めてベッドみたいにしてくれた。
今まで101回人生を巻き戻している間に、何度も人間に裏切られてきた私には、その好意は本当に嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、つい泣いてしまった。
そして金色ドラゴンさんはその涙をザラザラする長い舌で舐め取ってくれた。
それがまた嬉しくて、涙が止まらなくなってしまった。
多分、金色ドラゴンさんが人間だったらこんなに心を開かなかったと思う。
だけどドラゴンだから。
だから信じてもいいかな、って気になった。ほら、動物の方が人間より本能に忠実な分、裏切ったりしないし。
そう思って、私は本当の事を話した。
本当はこの世界の住人ではない事。
前世の記憶があって、101回、人生が巻き戻っている事。
もう巻き戻りたくなくて、異世界への転移をしてみた事。
「なるほど。では君はずっとこの世界にいればいい。そして今度は幸せになるんですよ」
「あ……ありがとう」
大変だったね、と同情する事もなく、あっさりと未来への約束をくれる。
だけど今の私には、それが一番欲しかったものだ。
私は金色ドラゴンさんの顔に抱き着いた。見返す瞳は金色だけど、人間のそれじゃなくて爬虫類の瞳。だけど私にはその方がよっぽど暖かく感じられた。
「ドラゴンさん、ドラゴンさん、私の名前はアデライード・フェリシア・ジェンセンって言うの。ドラゴンさんは?」
金色ドラゴンさんが何かを言ったけど、それは私の耳には言葉として聞き取れなかった。かろうじて聞き取れたのは、ルゥって単語だけ。
「ごめんね、ルゥってとこしか聞き取れなかった。ちゃんと名前を呼びたいのに……」
「雛だから仕方がないですねぇ。でも、その名前もいいです。ではあなたにだけは、ルゥと呼んでもらいましょう」
「じゃ、じゃあ私はシアで!」
アデラって愛称は、かつてよく呼ばれた名前だから。ルゥにはルゥだけの呼び方で呼んでもらいたかった。
「ルゥ、ルゥ。あなたに会えて良かったわ」
金色なんて大嫌いだったけど、あなただけは好きになりそう。
優しい金色のドラゴンさん。
「私も君に会えて嬉しいですよ」
ペロリと頬を舐められて、私はくすぐったさに笑った。
そんな感じで私の保護者になってくれた金色ドラゴン改め、ルゥとの生活は、迫りくる死へのカウントダウンに怯える事もなく、平和に平和に過ぎていった。
見た事もない綺麗な花畑でルゥに花冠を作ってあげたり、花の妖精たちに懐かれるルゥを見て笑ったり。
ドラゴンの雛はよっぽど珍しいのか、次々にやってくるカラフルなドラゴンさんたちともお知り合いになった。相変わらず名前は聞き取れなかったから、それぞれ色で区別している。
たまに同じ色のドラゴンがいるんだけど……まあ、誰が誰かなんてそもそも判別できないから、とりあえず色の名前で呼んでいる。青さん、赤さん、黒さん、とか、そんな感じで。
いやだって、ドラゴンの区別なんて無理だよ。鱗の並びのここが違うとか言われてもね、そんなの見分けるのは無理!
簡単に見分けられるって人は、ドラゴン鑑定士になれると思うよ。うん。
金色なのはルゥだけだから、彼?だけはちゃんと区別できてるよ。
雄か雌かは聞いた事がないから分からないけど、話し方からすると雄っぽいのかな?
まあドラゴンはドラゴンだから、雄でも雌でもどっちでもいいんだけどね。
ドラゴンさんたちは私が見分けられてないのは分かってるらしいけど、笑って許してくれてる。
うん。ドラゴンって寛大だよね。
あ、あとドラゴンさんたちはファンタジーの定番の人間に変身はできなかった。それどころか、魔法も使えなかった。
空気中の魔力食べてて、存在そのものが魔力の塊みたいな物なのにね~。
でもって火も噴かなかった。
火山に棲んでるのになぜだ。
でも体の中の魔力を塊にして発射する事はできるらしい。
なんだろう、その最終兵器的なビームみたいなのって。
やっぱりチート?ドラゴンはどこまでいってもチートなの?
「チートというのは何ですか?」
ルゥに聞かれた私は真面目に答える。
「反則的に強いって事!ありえなーい」
「でも私からすると、シアの魔法の方がありえないと思います」
まあね~。この世界にも魔法はあるけど、さすがに私ほどの魔法を使える人はいないみたい。伊達に101回も人生巻き戻してないからね。
「じゃあさ、ルゥに魔法教えてあげようか」
「ふむ。それはおもしろそうですねぇ」
大きな金色のドラゴンに魔法を教えて。
毎日、そのドラゴンから果物をもらって。
夜は一人と一匹で寄り添って寝た。
くるんと丸まった堅い鱗だらけの体は、思いのほか暖かかった。
そんな風に一週間が過ぎていった。
お気楽に書いておりますので、細かい設定に不備があるかもしれません。
でも勢いで書いておりますのでご容赦くださいませ。
ドラゴンさん、敬語遣いに変更しました。