3回目
それで終わりだったら良かったんだけど、またしても気がついたら教室で編入生の紹介を見ていた。
もうね。ワケ分かんないよ。
悪役令嬢として処刑されるのはいいけど、あ、いや、よくないけどもさ、でも死んで終わりならともかく、何度も死ぬのを繰り返さなくちゃいけないのよ。
だから考えた。なんで何回もこの生を繰り返さなくちゃいけないのかって。そこには絶対何かの力が働いてるはず。
だけど、何の力なのか私には全然分からなかった。
死なない為に色々と試してみて……
だけども結果はいつも同じ。
卒業の年のパーティーで婚約破棄されて処刑される運命から、逃れられることはなかった。
そうして何度も何度も殺されて。
何度目かで理解したのは、私を殺す運命に導いたのが婚約者だったって事。
分かってしまえば簡単な事だった。
彼は、自分の愛した少女が王妃になるにはイケニエが必要だと知っていたのだ。
完璧な婚約者である私が罪人として処刑されることで、身分の低い男爵令嬢は悲劇のヒロインとなり国民の同情を買う。そこで世紀のラブロマンスが繰り広げられ、おとぎ話のようなロイヤルカップルが生まれるのだ。
ああ、なんていう茶番。
なんていう喜劇。
そして私に訪れる完全な悲劇。
それを知った瞬間から、婚約者に対する愛情はこれっぽっちもなくなった。
まあ当然だよね。これだけ何度も殺されていて、それでも愛してますって言うほど酔狂じゃない。
だから私は時が巻き戻る度に婚約者との仲を改善しようとするんじゃなく、ヤツの魔の手から逃れるための手段を得るために努力する方向にシフトした。
そして考えを改めた。何度も巻き戻るのなら、その限られた時間で力をつけようって。
泣いたって嘆いたって、殺される運命は変わらない。
そしてそれが何度も繰り返されるのも変わらない。
殺される運命が変えられないなら、せめて、この人生が巻き戻るのだけでも止めたい。もう終わりにしたい。
だから殺されるまでの二年間、必死に魔術を勉強した。繰り返し、繰り返し、二年の間必死に勉強した。姿隠しの魔法を覚えてからは王宮の禁書にまで手を出した。
幸い、巻き戻っても覚えた知識が失われることはなかった。
けれど、この世界の魔法を全て覚えても、巻き戻るのを止める事はできなかった。
そもそも、時を戻す魔法すら、存在していないのである。その中で、私だけが何度も時を遡るのだ。
なぜ、と考えても答えは出ない。
それでも諦める事はしたくなかった。
あ、正直に言うと、何もかもどうでもよくて何もしないで死んだ事もあったっけ。
だけど何もしなくても殺されるんだもん。
本当に、よく狂わなかったな、と思う。
いや、もしかしたらもう狂ってるのかもしれない。
だけど、それはもう、どうしようもない。
私の意識がこうしてハッキリしていて、もうこの運命を繰り返したくないと思うなら、抗うしかないんだから。
魔法を全て覚えた私は、繰り返しを止める方法を探す間に、剣術も習い始めてみた。
それは心の中である野望を抱いていたからだ。
全ての根源である婚約者という名前のチート野郎を殺せば全部終わるんじゃないかって。
うん。まあ結果はあっけなく返り討ちにされたけどね。
ああ、斬り殺されたのってあの時だけかなぁ。
前回の話なんだけどね。
そうして101回目の巻き戻しが起こって、やっと私は光明を得た。
それは打ち捨てられた古代の神殿の中にあった。
「間違いない……これは召喚の陣……」
あった。あったんだ!伝説じゃなかった!
魔術も剣術も極めた私は、今世では冒険者として世界を回る事にしていた。どうせ二年間しか生きられないのだ。どうせならやりたい事は全部やってしまえと開き直った結果、家出して各地を放浪している。
一応家族には無事でいると手紙を出したけど、家出した娘などとっくに勘当されている事だろう。もうヤツとの婚約は破棄されているだろうけど、それでも私の運命が変わる事はないはず。
100回分の巻き戻しの内には、ヤツから姿を消した時もあったんだけどね。なぜか王太子の恋人を呪い殺そうとした犯人に仕立て上げられていたよ。……ハハハ。
十年間の間、婚約者として一緒に過ごしたんだけどね……
ヤツにとっての私は、踏み台でしかないんだなと思い知った時だったなぁ。
まあそんな訳で冒険者として各地を回っているときに、ある遺跡で不思議なレリーフを見たのよ。
それはね、魔王と勇者の戦いを描いたレリーフなんだけど、そこに古代語で、召喚されし勇者、って書いてあってね。
神話の時代に人間を滅ぼそうとする魔王と勇者の戦いがあって、勇者が勝って世界が平和になったっていう伝説があるの。各国の王家は、その勇者の子供たちが建てた国だとも言われてる。
その勇者が召喚されていた。
どこから……?
それは異世界からしかないよね?
異世界よりの召喚―――
それはつまり、こことは別の世界があるって事。
異世界から勇者を召喚する魔法があるなら、きっと逆もあるはず。
勇者を召喚した陣さえ見つかれば……
藁をもつかむ思いで古代の遺跡を探し回って……
やっと砂に埋もれたこの神殿を見つけた。
そしてその最奥で、念願の召喚の陣らしきものを見つけたのだ!!!