‐中編‐ 記憶
由詠は、私の大切な人だった。
病気がちな彼は、家から出る事が殆ど無かった。
だから私は、彼に外の世界を見せたかったんだ。
だから、無理矢理に外に連れ出した。
そして―…
私は、彼を殺してしまった。
由詠は、誤って川に落ちた私を助けて、溺れたんだそうだ。
事故直後、私は気を失っていたから何も知らなかった。
3日後、目を覚ました時にメールが来て。
由樹が待つ、公園に向かって、
そして知った。知ってしまった。
私が彼を、殺してしまった事を。
由詠《彼》が死んだ事を。
―瞼の裏に在る、あの時の、確かな記憶。
瞼を持ち上げれば、黒い空間があった。
『…戻して欲しい時間は決まった?』
銀髪の女性―時使いが私に聞く。
「うん。あの時…由詠が死ぬ前に戻して欲しいの」
『…分かったわ。但し…』
「但し?」
『貴方の、為になるかは分からない。』
「…?」
絢は眉を顰めた。
「どう言う事?」
『…だから、』
時使いが言いかけた時、私の前で何かが光った。
「―何?」
その光は、段々と形を作っていく。
その姿を見て、絢は目を大きく見開いた。
「由…詠…?」
光は、半透明だけれどもあの時の、由詠になっていた。
「何で…由詠が…」
どうして?
私が殺してしまったのに、何で?
『…その子は霊よ。もう死んでるわ。』
時使いが静かな、低い声で告げた。
「じ、じゃあ、何で此処に…」
聞くと、時使いは目を閉じて。
『貴方に、会いに来たのよ。』
「会いに?」
『えぇ。…最初に言ったわよね?此処は…時間を戻したい者が来る空間だ、と。』
「じゃあ…」
『彼も、その1人でしょうね。』
絢は、由詠に恐る恐るといった感じで近付いて行った。
「…由詠、なの?」
それに由詠は、何も言わずにこくりと頷いた。
「私に…会いに来てくれたの?」
『…うん』
「何で…私、貴方を殺したのに」
『殺されてなんか無いよ、僕は』
絢は由詠の答えを聴いて叫んだ。
「だったら何で、此処に来たの!?生きたかったんでしょ?死にたくなかったんでしょ?だから、時間を戻したくて…」
『違う!』
由詠は絢の言葉を断ち切った。
『…違うんだ…違う、そうじゃないんだ…僕は君の、誤解を解きに来たんだ』
「誤解?」
何のこと?と絢が訪ねる。
『絢。聞いて。あの時僕が死んだのは、決して君が悪いんじゃない』
『…それが言いたくて、時間を戻したいと思った』




