Chance
拙い文章ですが楽しんでもらえれば幸いです。
主人公はやれやれ系ではありません。
会話ではお母さん
頭の中では母と分けています。
「俺は死んだ。」
母を助け、代わりに霧ヶ峰翔太は死んだ。
死んだことに間違いはない。
だがしかし、そこには明確な翔太としての自我が残っていた。
何もない空間、色もなければ明かりもない。
体の感覚は意識が戻った時には無くなっていた。
「きっと生きているんだろうけど植物人間になっちゃったか。
きっとこうやって生きているほうがお母さんのこと悲しませちゃうな。」
そうやって生前のことを考えていたとき、太陽の如き光が翔太の前を覆い尽くした。
「おはよう翔太君。私の言っている言葉はちゃんと理解できるかな?」
その光の中から一人の美しい女性が出てきた。
きっとあれは神の後光であると、何故か理解できた。
「はい、ちゃんと聞こえますし、理解もできます。」
不良であった翔太は目の前の女性の存在に対して自然と敬語を使っていた。
友人と話すときはタメ口。
警察官や学校の先生と話すときは喧嘩腰に。
親と話すときは命令口調に。
唯一先輩と話すときは~っす。というしゃべり方をしていた。
不良にとって偉さとは不良をしてる年数であり、自然と年功序列制が翔太の中学校では出来上がった。
それに馴染むようにそのルールに従った。
そんな敬語を使わなくなった翔太にとって他人を敬いながら話すことは久方ぶりであり、
高貴な方に失礼な口調を使っていないか不安であった。
しかし、そんな考えは杞憂であった。
「そう、良かったわ。翔太君は自分が死んだことをきちんと理解できているようだし、何故ここにあなたがいるのかお話しましょうか。
これから話すことはあなたへのお願いであって絶対ではないからちゃんと考えて答えを出してね。」
不思議な方だ、自分の考えていること、思っていることを見透かされているかのようだ。
初めて会う人間にあまり良い目で見られたことのない翔太にとって目の前の女性は珍しかった。
自分のことをクズを見るような目で見なかったからだ。
そのことで自然と翔太の心は彼女に気を許し始めていた。
「はい。わかりました。
ですがお話を聞く前に、あなたのお名前と、自分の母がどうなったのかを聞かせてもらえませんか?」
「ごめんなさいね、まだ名乗っていなかったわね。私の名前はイーラ。
この世界の調和を司る神様よ。
2つ目のあなたの母親のことをすべて説明するなら長くなってしまうので簡単に説明するわね。
あなたの母親は病院に搬送されてから意識を取り戻したわ。けれどあなたの死を聞いてひどく落ち込んでいたわ。
体も治り退院してからは毎日あなたのことを思って泣いて、生活のために働くそんな生活を続けるようよ。」
どうやら母は助かったようだ、それは。。。良かった。
母を悲しませたのは思うところはあるが、それでも助かってよかったと思わずにはいられない。
「ありがとうございます。イーラ様のおかげで悩んでいたことが少しだけ解決しました。
是非そちらのお願いも聞かせてください。」
「分かったわ。それじゃあ一から話すことにするわね。」
~~~~翔太が死ぬ少し前~~~~
「なんででしょう。この空間に少し歪みがなんであるのかしら?」
イーラは一人その異変に首を傾げていた。
調和を司るイーラにとってそれは考えられなかった。
自分の仕事が不完全になることはほとんどない。
それから歪みの原因が気になったイーラの行動は速かった。
まずその歪みの発生元の空間の特定。
次にその空間の調査。
ここでイーラは驚愕の出来事を体験することになる。
「おそらくこの空間から歪みができているわね。」
そう判断し、その空間に存在する星を観測していた時のことだ。
「この歪みの元凶、それはこの魔王のせいね。」
原因たる存在を見つけ、どうやって対処しようか考えていた。
そして、その姿を再度確認したとき、魔王がこちらを見つめ、醜い顔を喜びで緩ませていた。
本来、別次元からの観測をしていたイーラの存在は同格の存在、もしくは自らの存在を知らしめるために設置された特定の場所(日本でなら神社など)でしか感知することはできない。
それなのにその魔王はこちらをしっかりと見つめていた。
それだけではない、こちらに対し攻撃を放ってきた。
次元を超える間にその威力は殺され、蚊が血を吸う時ほどの痛みしか感じなかった。
しかし問題はそこではない。
神より低格であるはずのものがこちらに対し干渉することが問題だったのだ。
その異常事態にイーラは脱兎のごとくその場から離れた。
いや、逃げざるを得なかった。
「なんなのよアイツ!!このままだと、いつか魔人に昇神してしまう。
そうなってしまっては遅い!なんとかしなければいけないわ!!」
そうして、イーラはその存在に対抗しうる存在を求めて数多の次元、時空を彷徨った。
どれ程時間のたった時だろうか、自分の求めていた存在を見つけた。
「ようやく見つけたわ!頼むから魂の回収よ、間に合って!」
そうして、翔太はここへ呼ばれることになる。
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「どうかしら?今の話で私がなぜあなたをここに連れてきたかわかったかしら?」
途方もない話だった、翔太の想像できるキャパシティーを完全に超えていた。
しかし、言わんとすることはおぼろげながらに理解できた。
つまり、彼女は俺に魔王を討てと言っている。
「なんとなくは分かりました。ですが何故僕なのですか?
きっと僕よりも立派で強い人はいるはずですよ。」
「そうね、たしかにあなたは立派ではなかったわね。
でもね、最後に自分の力で闇に落ちていた自分の魂を救いだしたでしょ?
そのことであなたは不屈の精神、そして、悪に対する抵抗ができたのよ。
だからこそのあなたなのよ、翔太君。
きっとあの魔王と少しの間でも抵抗のない人間が戦ったなら彼の瘴気にやられて魔堕ちするわ。
だからそれに対抗する精神を有するあなたしかできないの。
それに一瞬だけど、あなたの魂が体から出た時に、本来人間から出せないほどのオーラを纏っていたわ。それこそ神に近いね。
だからきっとあなたなら魔王に勝てる。そう思ったから声をかけたの。」
「そうですか。しかし、僕は剣も扱ったこともない、魔法も、弓も、罠も、なにもやったことが無い。それに僕にはもう体がありません。」
「大丈夫。私の加護と、アイツに対抗できうる能力も上げるわ。
私はね、調和を司ると言ったけど実際は問題が起こった時に、それを対処できそうな人間に力を与えて解決させているの。
だから私自身には戦闘力はないの。だからあなたに頼るしかないの。
もちろん、タダでやってくれとは言わないわ。神の権限であなたの母に謝罪する機会を向うでの死後に討伐に成功していようが、失敗していようが用意するわ。
それで受けてもらえないかしら?」
「お母さんに自分の口謝れるんですか?もしも・・・・もしもできるなら。」
イーラはあと一押しでこの子は受けてくれる!そう思った。
「もちろんよ。それは神イーラの名において約束するわ。」
母に謝ることができる。
ならば、どんなに怖いことだって乗り越えて見せる!
「そのお話受けさせてもらおうと思います。」
イーラはこれで魔王への対抗手段ができたと喜んだ。
「そう!ありがとう!
それで、あなたの体なんだけどね、向うで今にも死にそうな男の子がいるの。
その子に話を付けて、死後に体を世界のために使わせてとお願いして許可をとってあるの。
もちろん、その男の子から向うでの常識や、母親や父親、兄弟。その他彼の記憶をすべて引き継ぐことになるわ。
だから、向うの母親や父親も本当の親だと思うようになるの、最初は慣れないと思うけど、
その体をくれた男の子の親御さんだからちゃんと親孝行してあげてね。
そして、あなたに魔王に対抗するために与える加護。これはあなたの運を底上げして、魔力、体力、記憶力も人外に格上げするわ。
そして、もう一つあなたに与える能力。それはスキルクリエイト。
向うの世界ではゲームのように、スキルと能力、魔法そしてレベル制度があるの、だからその中でもスキルをあなたの想像できる限り自由に制作、譲渡できるようにする能力を与えるわ。
あなたの仲間を見つけて魔王のもとに行くといいわ。
瘴気への耐性上魔王とは一騎打ちになるからそのことだけは覚悟しておいて。」
「それではそろそろ向うの世界へ行ったほうがいいですか?」
「そうね、これだけの能力付与をしてもアレに勝てるかは微妙なの。だから、がんばって。
魔王の様子からタイムリミットは30年後まで、でも時が経つにつれて力を増すからなるべく早めに討つようにしてね。
向うの世界の名前はプレイル。いろいろな種族の人間が生きているわ。いろいろな技を教えて貰うのも悪くないと思うわ。
それじゃあ、カウントダウンで送るよ。」
「5」
怖い。
「4」
けど、挫けない。
「3」
向うではきっと親孝行する。
「2」
必ず魔王は倒す。
「1」
お母さんに謝らなきゃ。
「0」
待っててね。
「転送!プレイル!」
そして霧ヶ峰 翔太は旅立った。
主人公はやれやれ系ではありません。
どちらかと言えば、積極的にするつもりです。
会話ではお母さん
頭の中では母と分けています。