吉原 雪
だんだん文体が変わっていく可能性がありますが、ご了承ください
「おーい黒木くーん」
いきなり現れた女性は橋の上からブンブンと手を振っていた。
灰が誰?という表情でこっちを見る。
「…大学の知り合い。つっても名前くらいしか知らないけどな」
確か吉原とかだったはずだ。
「仲いいの?」
「言ったろ。名前しか知らない」
実際、会ったら二、三言話す仲。でもその程度。
「じゃあ何であんなに手を振ってるの?」
こっちが聞きたいよ。
ほっといて石を探そうとしたが、吉原は河原へ降り、悠に近づいてきた。
「おはよー黒木君」
おっす、と軽く手を挙げて挨拶をする。
「おはよーってまた寝てたのかよ」
吉原は講義中、ふと見ると寝ている。そのくせに1つも単位を落とさないから不思議だ。
「大学をサボってこんなところで何をしていたのかね」
不思議なのはこの喋り方もだよな。どーでもいいけど。
「いや、まあ色々だ」
ふむそうか、と吉原は頷く。
「こちらの方は?」
視線を灰に向けてきいてきた。さてどうしたもんか。
「従兄弟の浦野 灰って奴。遠くに住んでたんだけど、久しぶりにこっちに来たんだ」
「浦野 灰です。よろしくお願いします」
深々とお辞儀をした灰に対し、吉原の方も、これはこれは…とお辞儀をし返した。
「黒木君と同じ講義をとってる吉原 雪といいます。仲良くしてやってください」
よし自己紹介もすんだところで石探しでもするか。
「ところで黒木君」
ん?
「今日の講義で分からないところがあったんだ。今から教えてくれないか?」
は?またかよ。
「いやいや…今日の講義出てないから知らないし。灰も案内しなきゃなんないし」
ふむ、そうだったな、と吉原は考えこむ。
「まあいい。それより従兄弟君は何か急ぎの用でもあるのか?そっちへ走っていったが」
「えっ?」
バッと振り返るとそこに灰はいなかった。辺りを見回すと、土手の上に灰色でボサボサの猫がこちらを見ていた。
そういえば1時間しか人間になれないんだったな…。
悠は灰のもとへ行こうとしたが、灰は首を振り、どこかへ走り去った。
「そ…ういえば、何か行くとこあるって言ってたな」
くそ、断る大義名分が…。
押し問答の末、結局教えるはめになった。めんどくせ。
近場の喫茶店に入り、注文したコーヒーをすする。
こんなことするよりウールと石探しした方が楽しいんだけどな。
「で、ここがこうなるわけだ」
で、何故か悠が教わっている。講義に出ていないので自然な流れなのだが…約束が違う。解せぬ。
「いいのかい?」
「うん?ああ、そこは理解した」
「そうじゃない」
あん?と吉原を見ると目が合った。そして彼女はクスッと笑って言う。
「従兄弟君のことだよ」
従兄弟…ああ、ウールか。
「大丈夫だよ多分。ここら辺のこと詳しいし」
てか今のちょっとかわいかったな。本当にどーでもいいけど。
ウール…大丈夫かな。幸い猫に戻るのは見られてないみたいだけど。制限時間のことをすっかり忘れていた。
だとすればこれでよかったのかもしれない。あのまま3人でいたらボロがでる可能性もある。
多少強引だったがウールと吉原を引き離せたのは正解だろう。
「…で、いいかい…?」
おっと、またボーッとしていた。何の話だったっけ。まあいいや。
「うん、いいよ」
「よかった!」
…え?
吉原は顔を朱に染め、とても嬉しそうにはしゃいでいる。
俺は…一体何に返事をしたんだ…?