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捜索

「この街っつっても結構広いぞ?河川敷とかあんのに全部見つかんのか?」

悠とウールは神社を出て一緒に歩いていた。石を集めることになったが、どこから探していいか検討もつかない。

「大丈夫、石は神社を中心に広がってるんだけど、神社の周りは大体見つけたから」

「そういうことを()いてるんじゃない。どうやって見つけたらいいかだ。何か手がかりとかあるのか?…匂いとか?」

キョトンとしていたウールがけらけらと笑った。

「石に匂いはないよ」

ふむ、ならどうするのか。それこそ手当たり次第探すしかないのか。考えていると、ウールが自慢気に話しだした。

「匂いはないけど、狐様が力をくれたんだ。石を探す力。石がある程度近くにあると、その場所が頭に浮かぶんだよ」

レーダーみたいなものか。

「そんなものあるなら簡単に探せるじゃないか。何だ、意外と早く集めれそうだな」

石の場所をその力で見つけて、回収すればいい。ただそれだけのこと。楽な依頼だ。

しかし、ウールは申し訳なさそうに言った。

「でも、その力の範囲が半径5mしかないから…結局変わんない…かな」

5m…。なるほど、やはり歩き回るより他ないというわけだ。それでも取り損ねはなくなるし、くまなく探せば絶対に全て見つかる。

「大丈夫だ、問題ない。探せばいいだけだ。お前、神社の周りは探したんだろ?じゃあ探してないところへ行こう」

悠の言葉を聞いたウールの顔がパァァッと明るくなる。ウールは猫のくせに感情の表現が顕著だ。偏見かな。

「ありがとう!」

二人で話した結果、東の方を探すことになった。街の東は大きな川が流れている。橋がかかり、住人はその川を隣街との境界線にしていた。

東側にした理由は後回しにしたくなかったからだ。河川敷、そして小さな公園がある。

街の中でも一番石があるのが東側なのではないか。だとすれば一番大変だが、一番多く見つかる可能性がある。

神社を出る前に今ある石を数えたら調度50個あった。残り50個。早めにたくさん見つけた方がいいだろう。二人?居るのだから多分大丈夫だ。

「にしても大変だったんだな。50個集めるのに一年もかかるって…」

東側に向かって歩いているときに聞いた情報だ。猫だからといってそこまでかかるか?たかが石を探して運ぶだけなんだから。

「うん…。僕さ、瓶で石を運んでたでしょ?なかなか慣れなくて。瓶って発想にたどり着くまでにも色々あったから…」

そういえば何故瓶なんかに入れて運んでいるんだろうか。石はそんなに大きくない。瓶に入れなくても口で持って運べば楽そうなのに。

それを伝えると、ウールは重々しく口を開く。

「猫が石に直に触れると人間病が進行するのが早くなるんだ…。石はね、『生命気』っていうのを絶えず放出してるんだって。それが猫の体に入ると人間病になるらしいよ。触ると、それが一気に体に入ってくるそうだから…」

だから人間である俺に頼った、という訳か。

石は人間には何も影響がないらしい。人間だけでなく、犬も、鳥も。猫だけの病。

石には色々と謎がありそうだ。謎といえば人間病についても謎は多い。狐様も何者なのか。…退屈しなさそうだな。

その後も話をしながら川へ向かった。何度かウールのレーダーが反応し、着く頃には悠のポケットに石が3個程入っていた。レーダーは急に反応するようで、ぶつかりそうで危ない。

河川敷には石の絨毯(じゅうたん)が広がっていた。河川敷はいつも見ているが、この中から探し物をしようと思うと気が狂いそうになる。ましてや目当ての石を探すのは不可能に近い。しかし、ウールのレーダーがなければの話だ。

犬が歩けば棒にあたるように、猫が歩けば石を探せる。ウールに限り。

「お?ウールまた人間に変身したのか」

いつのまにか横に人の姿のウールが立っていた。

「うん、水の中も探せたらなと思って」

川の水深は悠の(すね)くらいまである。確かに猫の姿では溺れてしまいそうだ。それに、猫は水が苦手とよく聞く。人の姿だと恐怖心が薄れるのかもしれない。

「あとね、人間のときはそっちの名前もあるから。浦野うらの かいっていうんだ」

確かに人間でウール、なんて名前は目立つだろう。元々の名前からもじって浦野、毛の色から灰か。

「そうか、灰。でもまだ川は冷たいぞ。川の中はもう少し暖かくなってからの方がいいだろ」

春先の川の水は驚くほどの冷水。もし滑って全身に浴びたりすれば風邪引くこと請け合いだ。

そんな訳で川は保留、陸で探す。

小一時間程探して休憩をとることになった。

「案外ないな…」

悠のぼやきにウールは…灰は敏感に反応する。

「ごめんね…」

「いや…お前が謝ることじゃないし。俺が探したいから探してるだけだ」

実際、ほんとにそうだ。

ふと見ると灰はじっ、と悠を見つめていた。

「そう言えばさ…何で引き受けてくれたの?暇だったのは分かったから。そうじゃなくて、もっと細かい理由。やっぱり僕が珍しいから…?」

最後の方の声は少しトーンが落ちていた。過去に何かあったのか。人間に対する何かが。そうなら…不安だろうな…。

「別にお前を見せ物にしたりはしねーよ。ただ俺はな…」

「あ!黒木君!」

どこからともなく声がした。悠と灰は同時に声の聞こえた方を見た。二人の視線の先は橋の上。そこには、いかにもって感じの女大生が立っていた。

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