人間病
「マジか…まんま鶴の恩返しだな」
悠が目の前のウール…だった人を見て言った。助けた猫が人間になって目の前にいる。昔話と違うのは、
「残念ながら恩返しはできないけどね…。しかも手伝ってもらおうとしてるし」
「別にそこは気にしねえよ。それより説明してくれ。俺は何を手伝ったらいいんだ?」
ウールは助けを求めるように狐様を見た。
『難しいことではない。ただ、ある石を探してくればよいのだ』
石…?石を集めてどうするのだろうか。
「ほら、これだよ」
ウールがズボンのポケットに手を突っ込む。しかし、
「あれ…?ない…、瓶がない」
あたふたして辺りを見回すウール。瓶とは何だろう。
悠はウールを初めて見たときのことを思い出す。そういえば確かに瓶を転がして運んでいた。その後どうなったんだっけ。
「あ」
悠はズボンに手を入れ、瓶を取り出した。助けたときに拾ったのをすっかり忘れていたのだ。
「あ!それそれ!拾っててくれたんだ。ありがとう」
瓶を受け取ったウールは中の物を手で取らず、地面に落とす。出てきたのは黒に緑が混ざった色の石だった。
『猫の世に、人間病が出現したのは約5年前のことだ。猫にだけ感染し、感染した猫は人間になってゆく。これのやっかいなところは治らない、という点だ。ウールもこの病気にかかっている。まだ初期段階なので連続1時間しか人間の姿にはなれないがね』
ウールがうつむく。得体の知れない恐怖におびえているのか。
『食い止めるには原因となる石を集めなければならない。私自身、この件を解決したいがこの神社には結界が張られてて出られない。そこでウールに頼んだのだ』
「…分かった」
悠はゆっくりとうなずいた。狐様の目を見てニヤリと笑う。
「いいぜ。手伝ってやる。ちょうど暇だしな」
狐様は目を細めて悠を見る。そして次に石の方へ目をやった。
『触ってみろ』
少し不安になってウールを見やり、コクとうなずき合った。
しゃがんで石をそっと持ち上げる。手の中の石は石らしくない感触だった。しっとりとしていてすべすべとしている。そしてなにより…
「生暖かい…」
石は微妙な熱を持っていた。それはまるで生きているかのようにも感じられる。
『その石も裏へ置いておけ。それでは私は寝る。黒木悠よ、よろしく頼んだぞ』
そう言い残して狐様は再び光に包まれ、光と共に消えた。
「こっち来て。石を置いている場所があるから」
ウールの後に続いて進むと神社の裏に出た。そこには確かに何個かの石がある。しかし、悠には気になることがあった。
「ウール…、ここには一体何個あるんだ…?」
神社の一角に先程の石が山積みになっている。全て暗緑色をしており、不気味なオーラを醸し出しているように思えた。
「大体50個くらいかな」
唖然としていた悠を気にも止めずに答える。
「じゃあ…一体全部で何個集めればいいんだ?」
「あ、言うの忘れてたね」
けらけらとウールは笑った。そして、この質問にも丁寧に答える。
「100個だよ」