出逢い
受験勉強時に夢で見て、続きが気になったので書きました。
車通りの多い道。一車線のくせにスピード違反の車が多い。その横の歩道には多くの排気ガスがまき散らされる。つん、と鼻の奥に突き刺さった。
この道は嫌いだ。本能的にそう思う。生暖かい風が吹く、ある春先の日。
ふと横を見ると街路樹から一匹の猫が出てきた。よく見ると握りこぶし大の瓶を器用に転がして運んでいる。そして……
頭より先に体は勝手に動いていた。道路に飛び出し、猫と瓶を拾って逆側の歩道へダイブする。
「……あっぶね」
今になって体が震えだした。灰色でボサボサの猫。腕の中できょとんとしてる。まったく……のんきなものだ。
「鶴でも恩返しすんのに……、俺が何したか分かってんのかな……」
「助けてくれてありがとう」
どこからか人間の声がした。しかし、辺りには人影はない。
「どこ見てんの。こっちこっち」
まさかと思い、腕の中を見る。
「お前じゃ……ないよな」
「僕だよ」
猫はにらみ気味にこっちを見ている。不機嫌そうだ。
「マジか……喋る猫は初めてだな…」
「君は驚かないんだね」
少々意外そうに猫が言う。自分でも不思議なくらいだ。
「君も初めて見るタイプの人間だよ。普通は驚くのにね」
そうだろうと思う。
「別に……あんまり他のものに興味を持てないだけだ」
「僕の方は君に興味が出てきたよ。面白い人間だね」
どうやら機嫌は悪くないらしい。楽しそうに喉をゴロゴロ鳴らせている。
「君、これから 暇?少しついてきてくれない?」
大学の昼休みだったが、一つくらい講義を抜かしても大丈夫だろう。
「君、名前は?」
「黒木……悠だ」
「そっか、僕はウール。灰色ボサボサだからそう呼ばれてる」
ウールに連れ立っていくと、神社に着いた。
「狐様!狐様!ウールです」
すると、賽銭箱の上に光が集りみるみるうちに形になる。そして強く輝いた。まぶしくて目が開けない。やがて光がおさまり、恐る恐る目を開けると一匹の狐、それも九の尾を持つ狐が賽銭箱に座っていた。眠たそうに頭を振っている。
『ウールよ……何かあったか?おや?その者は……』
「はい、黒木悠さんです。面白い人間だったので興味を持ち、連れて来ました」
『ふーん……』
狐様は何かを確かめるように悠を観察する。
「す……げぇ」
目の前の現象、その全てを一言で表すとそれしかでてこない。
『まぁ……いいだろう』
「あの、この人げ……悠さんにあれを手伝ってもらおうと思うんですけど……」
『ほう』
狐様は面白そうに鳴いた。
『これも因果か……なるほど、面白い。そうなると最初から説明しなければならないな』
「何か手伝うのはいいけど、その説明?聞いてからだからな」
とりあえず逃げの手も打っておく。
『なあに、人間のそなたなら簡単にできることだ。そうだ、その前にウールの姿は見たのか?』
ウールの姿?悠が何のことか分からない、という表情をしたのを見た狐様はウールに指示をだした。
ウールは了解して目を閉じる。すると、ウールの体が発光しだした。どんどん光は強くなってゆき、目を開けるのもやっとの状態。薄目を開けて見てると光は次第に形を変え、膨張し、やがて人間程の大きさになった。そのとき光が爆発するように辺り一面に放たれ、悠は思わず目を背ける。
光がおさまるのを待って顔を戻すと、ウールの姿はどこにもなかった。しかし……
『これが人間病にかかった猫の姿だ』
目の前にはウールと同じ、灰色ボサボサの髪で、眼鏡をかけた小柄な青年が立っていた。