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僕と魔法

グラントがそれを見つけたのは、偶然と言えば偶然であった。

荒れた劇団の隅で簡易治療を終え、一人崩壊した舞台を眺めていたときのことだ。色を無くした劇場のとある一点に、謎の球体が発生する瞬間を見たのだ。それは七色に輝いていた。見知った物に例えると、シャボン玉が近いか。

少しずつ膨らんでいくそれの中に何かがーー誰かがいることに気付いたのは、それが掌に乗るほどの大きさに成長した頃だった。そしてその誰かが見知った同輩であることにも、その時になってようやく気付けたのである。


「シーヴァ!!それにテティスも!」


駆け寄ると、シーヴァはひどく草臥れているように見えた。テティスに至っては気を失っている始末だ。同輩を抱えてやってきた大柄な男にも見覚えがある。


「酒場のおっちゃん!何でアンタがここにいるんだよ!」

「グラントそれは後でいいから、ちょっとアリッサ呼んで」

「お、おお、分かった」


シーヴァの剣幕に圧され、ざわついた劇場の中でアリッサを探す。率先して救護の輪の中にいた彼女を連れ出して引き合わせると、その溢れ落ちそうなばかりの大きな瞳を素早く瞬かせた。


「良かった!無事だったのね!」

「うん、トライバーさんが…」

「アリッサ、重要な話がある。レオも連れて来い」

「お母さんいま出張中なの。さっき知らせたからすぐに帰ってくるとは思うんだけど」

「チッ。まあいい、先に話するぞ」


まずは、とトライバーは舞台上に寝かせたテティスを見る。金糸は汗で張りつき、無表情なままの寝顔だ。


「こいつは、天武の才とは別に“センス”の持ち主でもある」

「センスって…?」

「魔法には大きく分けて二種類あるんだ。さっき使って見せた“スキル”と、こいつが持っているような“センス”の二つ」


この世界の魔法と言えば、大きく先天的に備わっている“センス”と後天的に後付けの出来る“スキル”の二つに分けられる。センスは、生まれながらに体内の魔力を使用する能力を持っている人間しか扱えない高等魔法のことだ。反対にスキルは、魔法陣や詠唱の力を借りて体内の魔力を放出する。センスと比べると能力の劣りは見られるが、生まれながらの能力を持たない者にとっては重要なツールの一つだ。


「それが、俺のこれ」

「これも魔法?」


トライバーの左腕を埋めるほど、そこには刺青が刻まれていた。魔法陣のように描かれたものや、動物を模されたもの。一見するとそれが魔法であるとは気付かないような刺青が所狭しと刻まれていた。刺青は簡素な魔法陣の一種で、最も手軽なスキルとして冒険者に好まれている。


「ま、テティスはこんなもの無くてもいいようなセンスを持ってるって訳だな」

「…どういうことよ」

「そのままの意味さ。テティスの演舞の才はセンスによるもので、さっきの暴走もそのセンスのせいってこと」

「暴走って…何があったの!?」

「黒仮面を一人で殲滅した。…アリッサ、アザレアは前に千夜一夜を題材に公演したことがあったな」


アリッサが頷く。シーヴァとグラントにもその記憶があった。一ヶ月間に渡って劇団総動員で試みた新企画のことだ。そう前の話ではない。




「その時にテティスが演じたのは“アリババと40人の盗賊”で間違いないな?」

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