かんたのふしぎカレー大冒険
かんたはおとうさん、おかあさんと三人でくらしています。
かんたはおとうさんの作った、ふしぎカレーが大好きです。
ふしぎカレーはおいしいのはもちろん、食べるとどんな病気もたちまちフワワッと治してしまうのです。
おとうさんはときどき出かけて、このふしぎカレーの材料を集めてきます。一度、かんたもそれについていきましたが、途中のトンネルがあんまり怖いので帰ってきて、おかあさんに泣きついてしまいました。
そんなある日、おとうさんが大事な用事で遠くに出かけることになりました。
「おとうさんはしばらく帰れないけど、おかあさんの言うことをよく聞くんだよ」
おとうさんが行ってしまうと、家では毎日おかあさんと二人きりです。すぐにかんたはふしぎカレーを食べたいとだだをこねましたが、それはおとうさんにしか作れません。
はじめの何日かはおかあさんもかんたと一緒に絵を描いたり遊んだりしてくれたのですが、だんだん疲れてきて、ばたん!
とうとう寝込んでしまいました。
「このままおかあさんが死んだらどうしよう」
かんたは外で遊ぶ気もせず、おうちで何か楽しいものがないか探していました。机の引き出しをあけたとたん、メモがひらひら落ちてきました。
そこにはふしぎカレーの材料と作り方が書いてあります。かんたは舌なめずりしました。
「そうだ! おかあさんはふしぎカレーを食べればきっと治るぞ! それに、ぼくも食べたい!」
かんたはもういてもたってもいられません。寝ているおかあさんに「待っててね」と言うと、かばんにパンと水筒とノートとペンとライトをつめ、それから少しのお金とおとうさんのメモを持って家を飛び出しました。びゅん!
「材料① まずはにんじん、たまねぎ、じゃがいも」
かんたは家の前を通りがかった人に聞きました。
「そんなものは聞いたこともアリマセン! でもだいじょうぶデス!」
とても大きな四角い頭をした人でした。
「頭の中のスーパーコンピュータで調べれば、あっというま! にんじん、たまねぎ、じゃがいも! わかりました! では、そこまでの道を説明するのでメモのごよういを! まず宇宙を右に曲がって……」
そのロボットは早口で言い始めたので、かんたは慌ててノートとペンを取り出して真剣に書きとっていきます。ふしぎカレーのためです! がんばって、かんた!
「……というわけで、あそこに行けば売っています」
ロボットは話し終わると、目の前のスーパーを指さしました。
うんうんと頷いてから、かんたは満足げにノートを確かめました。
「よし!」
ノートには、どういうわけかカレーライスの海で泳ぐかんたの絵が完成していました。
ロボットにお礼を言うと、かんたはホテホテ歩き出しました。スーパーに入ると、すぐににんじん、じゃがいも、たまねぎがありました。
「材料② 夜の森のとりにく」
かんたは町のはずれにある夜の森へやってきました。入り口のトンネルから覗くと、昼間だというのにそこは塗りつぶしたように真っ黒です。
ふりかえると、明るい日差しに照らされた見なれた町がありました。
かんたはふしぎカレーとおかあさんのことを強く思いながら、目を閉じてトンネルへ飛び込みました。
あおぉーん! あおぉーん!
ぴしゃーん! ぐららららららら!
森ではなんだかわからない鳴き声がたくさん聞こえます。ギャースギャースという鳥の声がしました。
かんたがそちらへ行ってみると、木の上に恐ろしく大きな鳥がとまっていました。足の爪のほんの先っちょだけで見上げるほどです。かんたはびくびくしつつ、大声でとりにくが欲しいことを伝えました。
「夜明けまでにわたしを捕まえられたなら肉をわたそう。捕まえられなければお前の肉をもらおう」
そう言って鳥は飛び立ち、あっという間に遥か上空までのぼっていくかと思いきや、運悪くジャンボジェット飛行機にぶつかってあっという間に落ちてきました。
鳥は観念して、自分のももにくの端をクチバシでついばみ、切れ端をよこしました。
かんたがそれに近づこうとすると、びゅん! とつぜん、横から黒い影がとりにくをかっさらっていきました。
それは日焼けした女の子でした。
「材料③ 一番高いココナッツ」
とりにくを奪った女の子の後を追って、森の奥へ奥へ進んでいくと次第に蒸し暑くなっていきました。
ホッホッホッホッ、ホァーッホァーッホァーッ! ちちちち、バサバサバサッ!
気がつけばそこはジャングルになっています。女の子はとりにくを脇に抱えたまま、大きなヤシの木を登っています。ヒョヒョイ!
「とりにくを返せ!」
かんたも登り始めました。女の子はかんたを無視して上がっていきます。
ずんずん。ずんずん。
ヤシの木はジャングルを突き抜けて空高く続いています。登っていくと雲を抜けて、お日さまが照って、あたりがぱあっと明るくなりました。
ずんずん。
やがてヤシの木のてっぺんが見えました。その下にココナッツの実が二つありました。かんたはメモに書かれていた「一番高いココナッツ」を思い出しました。文字通り一番高い場所にあるココナッツでした。
女の子はココナッツをもごうとしますがなかなかうまくいきません。
かんたはココナッツを器用にうまく取れました。二つともさっさと取ると、女の子にとりにくを返すように言いました。
女の子は泣きそうな顔で首を振りました。
「渡せない。これはおとうさんが元気になるしんぴカレーに必要な材料だから」
二人は話し合いました。けんけんがくがく。
女の子の名前はサリー。驚いたことに、サリーもおとうさんのためにとくせいカレーの材料を集めているのでした。その材料はかんたのふしぎカレーと幾つか同じなのです。
かんたがココナッツを一つ渡すと、サリーは謝ってとりにくの半分を返しました。
びゅうううん!
その時、激しい風が吹いて、二人は飛ばされてしまいました。空中で手をつなぎ合い、くるくる回りながら落ちて、落ちて、風に乗って、また落ちていきました。
「さいごの材料 一番大事なひでんスパイス」
二人が落ちたのは草一つない砂漠でした。目の前にはきょだいな石でできた遺跡があります。かんたはよだれが出てきました。大好きなカレーのにおいがただよってくるのです。サリーがかんたの手を引きました。
「ここが、一番大事なスパイスがねむるこだいカレーいせきよ。二人で協力しようよ」
二人はいせきに入っていきました。かんたはライトをつけて進みます。サリーは壁に手をつけて探りながら言います。
「おとうさんが言うには、いせきはおかしな場所なの。右に進みたい時には左へ、左に進みたい時には右に曲がって右に曲がって左に曲がるの」
かんたはちんぷんかんぷんでしたが、サリーはとても賢く、迷いませんでした。
そうしてたどり着いた部屋は、部屋中が財宝でキラキラ輝いていました。そのまんなかに、ひでんスパイスの入ったこびんがあります。
二人は喜んでかけよりましたが、すぐに困ってしまいました。こびんはひとりぶんしかないのです。かんたはサッとこびんを手にとると、笑ってサリーに渡しました。
「ぼくのおとうさんのふしぎカレーのスパイスは、これじゃなかったみたいだ。むだなくろうだったよ。これはいらないからあげる」
サリーはもらったこびんとかんたの顔をこうごに見つめて、ありがとう、と言いました。
いせきを出ると、サリーはいちもくさんにかけていきました。
かんたはうそをつきました。あのスパイスがなければふしぎカレーにはなりません。おかあさんもたすかりません。
かんたは落ち込んで、どうしようどうしようと考えましたが、どうにもなりませんでした。
家に向かって歩いていると、あたりが暗くなってきて、泣きたくなりました。体はくたくた、足はじんじんします。
家の玄関に立ったとき、かんたはとびあがりました。
カレーのにおいがしたのです!
家に入ると、そこにはひげもじゃのカレーの精とサリーがいました。
「これが私のおとうさん。かんたのくれたスパイスで元気になったのよ」
サリーが照れながら言いました。サリーはカレーの精の娘だったのです!
「きみがかんたくんか、ありがとう。きみのおかげで元気になったよ」
しかし、かんたは落ち込んだままでした。
「スパイスのことを気にしているのかい? あれならおやすいごようだよ」
カレーの精がエイッと魔法をかけると、たちまちスパイスのこびんがあらわれました。
「おとうさんも用事がすんだみたいだから呼び出そう」
カレーの精がホイッと魔法をかけるとおとうさんがおどろいた顔であらわれました。かんたはおとうさんに抱きつきました。
「おとうさん、ふしぎカレーの材料がそろったよ! カレーを作って!」
おとうさんはこんらんしていましたが、わけを聞くとすぐに「ようし、やるぞ!」と作り始めました。
かちゃかちゃ、トントン、ぐつぐつ、とろり。
かんたはおかあさんを呼びに行きました。おかあさんはかんたをとてもしんぱいしていて、怒っていましたが、すぐにだきしめました。
かちゃかちゃ、トントン、ぐつぐつ、とろり。
カレーのできあがり!
それからみんなで踊りながらカレーを食べました。
みんな元気になりました。
おかあさんは十皿、おとうさんは五十皿、カレーの精は百皿、サリーとかんたは千皿食べました。
おしまい。
読んでいただきありがとうございました。