伯爵令嬢の失敗
はじめまして、エプティル王国で伯爵家令嬢をしているシェルアといいます。
女の子は秘密の一つや二つなくては魅力も半減すると思いませんか? そんなことない? そうですか、失礼しました。
まぁ、魅力云々は置いといて実は私にもあるんですよ。秘密の一つや二つ。たぶん、知られてしまえば国家的に規模の大きな秘密が。
私、シェルア・セバートは生まれたそのときから神様の恩恵を受けし神子なのです。
はい、自分で言ってて恥ずかしいのですが嘘ではありませんし、私の頭は正常に機能しています。
神子というのは、動物となんとなくで意志疎通ができたり、妖精や聖霊といった類を認識できたりと個々で所有する能力が異なりますが、ようは何らかの特殊な力を持つ者のことです。
流石にどこぞの物語のように火や風などを操ったり、というものはいないようですけどね。過去の文献を調べてみると、神子の力には直接危害を加えられるような攻撃的なものはないと思われます。
その神子ですが、どうすれば産まれてくるのか、誰から産まれてくるのか解明されておらず、低確率でポンと出てくるとか。
国に影響を及ぼすような強力な力を有した者から放っておいてなんら問題のないような力まで神子の力は様々だそうです。ちなみに、私は後者ですよ。
しかしどのような力でも、バレてしまえば国に拉致されるという面倒事になってしまうのです。といっても待遇は国王並に優遇されますが、それでも私は頑張って隠してきました。
何故なら私の将来の夢に神子としての立場は邪魔でしかないからです。力の方は色々と便利なので有効活用させていただくつもりですが、国に拉致されるのはごめん被りたいですし、国王並の待遇に興味はありません。
なので力の事を知られるのは何が何でも死守します。
死守する、筈でした。
「アナタも神子、なの?」
ふふ、どうしてばれてしまったのでしょう。
***
数日前、私は一つの噂を耳にした。
神子様が現れた。
その噂は瞬く間に広がり、王都から比較的近いこのレンシー領では神子の噂で持ちきりだ。
それを聞いた私は、好奇心でいっぱいになっていた。他の人達もそうだろうが、私は隠してはいるが一応神子と呼ばれる存在だ。自分以外に同じような存在に出会ったことがないので、噂の神子に対する好奇心は人一倍である。
私は伯爵令嬢ではあるが、セバート伯爵家は代々王族との繋がりが深く、私自身王宮への自由な出入りを認められている身なので、噂の神子にも会いたければ今すぐにでも会いに行く事は可能だろう。
しかしそれでは礼儀に欠ける。
きちんと許可を頂いてから出向かなければ淑女とはいえない。
それに私は私で色々と大変な時期だ。今年で十六歳になった私は本格的にお父様の仕事の手伝いをする事になる。
お父様には息子がいないため私が伯爵家を継ぐ事になるのだが、その仕事内容が領地経営、つまり領主だ。
ただてさえ領の運営は大変だというのに、セバート伯爵家の管理する土地の広さは他の領とは違い小国並みの広さがある。
何故これほどまでに広大な領地の管理をお父様が任せられているのか不思議に思っていると、お父様本人から「欲しいといえば貰えた」と教えくれた。
あれ、そんな簡単に譲渡していいものなの? と疑問に思ったのは言うまでもない。
そんなわけで残念ながら噂の神子に会うことは難しかった。
そんな私の元に一通の招待状が届いたのは神子の噂も落ち着いてきた頃だった。
このエプティル王国の第一王位継承権を持つクレイスト・ディア・オルディース王太子殿下の、ついでにいうと私の幼馴染みの誕生パーティーの招待状。
まあ、行かないわけには行かないだろう。
というわけであわよくば噂の神子にも会えればいいなと思いつつ、幼馴染みの誕生日を祝うために私は王宮へ来ていた。
会場では多くの貴族たちが集まっており、中には知り合いの姿もちらほらと見える。流石は王族のパーティーとしかいえない。
私は仲のいい令嬢と談笑しながら主役が来るのを待っていた。
そこまでは良かった。
友人と別れて並べられたご馳走を眺めていると、突然声をかけられたのだ。
振り向けば綺麗な黒髪と白い肌が特徴的な可愛らしい少女が立っている。年齢は私と同じか、もしくはそれより少し上だろうか。
彼女の背後には若い青年が一人付いているが、恋人といった様子ではなさそうだ。令嬢とそのお付きと言われて納得する空気であった。
そんな少女はキラキラと目を輝かせて私を見ていた。
え、何だろう。ちょっと怖い。
そう思っていると次の瞬間、彼女の口から信じられない言葉が紡がれた。
「アナタも神子、なの?」
ん、聞き間違えかしら?
「ううん、この感じ、神子で間違いない」
驚きのあまり一瞬思考回路が停止してしまった。
「…………え」
「…………は?」
思わず間抜けな声が出てしまったのは許して欲しい。
少女の言葉に後ろに立っていた青年も反応を示している。
それはそうだろう。一人産まれるだけでも非常に珍しい神子がここにいると言われたのだから。
「私が、神子? なぜそう思われたの?」
内心動揺しまくりだが、大丈夫。ポーカーは得意なのです。
「あ、私はレティア・アーバックといいます。ご存知かもしれませんが私は神子なのですけど、その力の一つに神子を見抜く力を持ってます」
少女は緊張しているのかちぐはぐな言葉ではあったけれど、言いたいことは十分に伝わってきた。
つまりアレだ。彼女の視界に入った瞬間に私の負けってことよね。
なるほど、それならばレティアさんの斜め後ろに立っている青年は護衛騎士というわけか。
神子はその力から一部の宗教からは魔女といわれ、嫌悪の対象となっている。それ以外にも力目当てで誘拐を企てる輩もいるためそういったもの達から護るために神子には護衛騎士が付けられることが多い。
「…………反則よ」
あんまりだ。そんな力があるなんて知らなかった。
「え?」
目の前の可愛らしい少女は上手く聞き取れなかったのか、首を傾げた。
私は今すぐ穴を掘って潜りたい気持ちで一杯だというのに。
しばらく驚きで固まっていた騎士は「神子が増えた……」とかなんとかぼそぼそ呟いている。
「えっと、私先生以外で神子を見たのは初めてで感動です!」
「わかったわ、詳しくは個室でお話しましょう」
ええ、もはや挽回の余地がないということはよくわかりました。