第四話 聞きたい事
遅くなってすみません
「それじゃぁ、さっきのアレを聞かせて貰おうか、蓮」
蓮達三人は恭介の家を去った後、蓮の家に行き、そして今、葵の家にいる。なので、今度は蓮と恭介が玄関で、化け物が来ないかどうか周囲を警戒していた。
「えっと、それは……」
蓮が言い淀む。勿論アレとは、蓮と葵のキス未遂の事だ。
「それは、何だ?」
「えっと……なんと言いますかー……」
顔を真っ赤にする蓮。恭介はそれを見て笑った。
「まぁ、いいけどよ。お熱い事で」
蓮の顔は更に赤くなり、遂に耐えきれなくなったのかそっぽを向いてしまう。恭介は思わずため息を吐いた。
「それで?葵ちゃんが戻ってきたら、どうする?」
「そうだな……家族がどうなっているかだな。俺は1人ぐらしで親は離れてるからいいとして………恭介の家族は?」
「テレビで放送されたのを見たから避難するっていう紙が置いてあったくらいだな。俺は大丈夫だけど、葵ちゃんなんかはやっぱり心配じゃねぇーのか?」
「だよな……よし。避難場所が何処か分からないけど、そこに行けば、親がいるかも知れない。だったら、一旦そこに行こう。避難場所だったらもしかしたら武装した自衛隊とかが、守ってるかもしれないし」
「オッケー、決まりだな。……にしても葵ちゃん遅いな」
もう既に十分が過ぎている。男と違って葵は女の子なのだから、準備に多少時間が掛かるとはいえ、ここも安全なわけでは無い。寧ろ危険でもある。これ以上ここにいるのは、まずいかも知れない。蓮はそう考え葵を呼びに行こうとする。ガシャーーン!!突然、二階の硝子がけたたましい音を立てて割れた。
「なんだ!?」
蓮と恭介が上を見上げると二階の窓から何かが飛び出す。それは蓮達の前に着地すると、蓮達を見た。
「おいおい、マジかよ……」
飛び降りてきたのは、豚の様な顔に丸く肥った体。目はギロリと蓮達の方に向けられ、オークの様なモンスターだった。うろたえる蓮達。しかし、問題はそこではなかった。
「葵!」
「葵ちゃん!」
オークの手には肉切り包丁が握られており、腕の中には葵がぐったりした状態で掴まれていた。パッと見て葵に外傷はない。気を失っているだけの様だ。しかし、このままでは葵の命は危ない。オークは叫ぶ蓮達を見てニタリと嫌らしく笑う。
その瞬間、世界が変わった。蓮の周りの空気が変わり、殺気がオークに向けられる。それはとても冷たく鋭い殺意だった。とても、普通の高校生には出せる物ではない。しかし、蓮の顔からは殺意が滲み出し、歪む。それに恭介は声が出せないでいた。
───蓮……なのか?
信じられなかった。さっきまで顔を赤くして、照れていた蓮からは想像出来ない程の変貌だった。親友の恭介が疑う程に。
「葵に何をした……っ!」
蓮から絞り出された低い声が聞こえる。オークは蓮の殺気に怯えた様に後退りするが、直ぐに余裕を取り戻す。そして、こっちには人質がいるのだぞ、と見せつける様に腕の中の葵を持ち上げる。
「《身体強化》」
が、気が付けば、そこに葵はいない。オークの目に蓮に抱かれた葵の姿が映る。
「オッ……?」
オークが視線を下ろす。地べたにはオーク自身の肩から先の腕が落ち、溢れ出す血で地面を汚していた。
「オォッ……!」
蓮を見るオークの目が変わる。目には怒気と恐怖が含まれていた。しかし、すぐにその目は怒りに染まる。オークはやはり単細胞なのかも知れない。蓮の動きを捉える事さえ出来なかったというのに、オークは肉切り包丁を反対の手で持ち直すと、正面から真っ直ぐに蓮に駆け出した。
「ブオオオォォォ!!!」
オークの醜い叫び声が響く。それだけだった。
「《ウィンドバレット》」
地面に倒れるオーク。その身体にはバレーボール程の大きさの穴があいていた。オークは二度と立ち上がる事なく、絶命していた。
「蓮、お前……」
「さぁ、ここも危険だ急ごう」
何が起こったか、恭介にはわからなかった。ただ、オークが死に、葵が助かったのは蓮のおかげだ。蓮に言いたい事は山々だが、今はそれどころではない。恭介はそれが分かっているので蓮に聞く事は出来なかった。葵を抱えて走る蓮の背中を見て、恭介も走り出した。