第一話 黒い門
宜しくお願いします
太古の書にこんな言い伝えがある。
《ハルカサキノミライ、オオキクキョウコナミチニ、イカイノクロキモンハアラワレ、ヒトビトハ、センタクヲセマラレルデアロウ》
そして、その選択は刻刻と迫っていた。
☆
「蓮!一緒に帰ろうぜー」
学校の靴箱。蓮が靴を履いていると友達の恭介が廊下から走ってきた。
「あぁ、いいよ」
校門を出て、坂道を歩く蓮達。彼らは三年で大学受験の為、部活はもう引退している。
「そう言えば、葵ちゃんは?」
葵とは蓮達と同じ学校に通う蓮の彼女である。
「今日は部活に顔出しに行くってさ」
「へーそっか……弓道部だっけ?」
「そっ。だから今日は先に帰れってさ」
「っんだよー、冷ぇーじゃねぇーか。……帰るのは俺とじゃなくて葵ちゃんの方が良かったってか?」
「んなっ!ばっ、違うって!」
と、否定する蓮だが、顔が真っ赤で、丸分かりである。まぁ、蓮と葵がラブラブなのは周知の事実であり、今更否定されても信じられないのだが。蓮はムスッとした顔をして、歩くスピードを速める。
「ちょっ!悪かったって!おーい!待ってくれよ、れーん!」
それに恭介が慌てて追いかける。彼らはいつも通りに帰路につくのであった。
☆
次の日の朝。
蓮の目にとんでもないニュースが飛び込んできた。
『昨日未明、突如黒い門の様な物が現れ、出現した大通り付近では混乱が続いています』
テレビに映し出される大通り。その中心に大きい門の様な物が立っている。よく見れば、そこは蓮達の通う学校からそれ程遠くない場所の大通りと分かる。
「おいおい、本当かよ……」
蓮はリモコンを取ると音量を上げ、テレビを食い入る様に見つめる。
『今日は、古代歴史に詳しい専門家、黒木信三さんに来ていただいています。宜しくお願いします』
『よろしくお願いします』
『早速ですが黒木さん。この突如として現れた門を見てどう思いますか?』
『そうですねー。私が一つ思ったのは、古い書物に書かれてある言葉に似ていると思いましたね』
『言葉、ですか?』
『そうです。その書物は、日本のある場所から出てきた書物なのですが、かなり保存状態が良く、ハッキリと文字が読み取れたんですよ。その中の言葉でね?こういうのがありまして、《遥か先の未来、大きく強固な道に異界の黒き門は現れ、人々は選択を迫られるであろう》とね。ね?似てるでしょ?』
『確かに。それにしても異界……ですか。それはどういう事でしょう?』
『恐らく……ここから遠く離れた、例えば南極、アフリカ、南アメリカの場所を指しているのか、それとも私達の住む世界とは違う世界の事を指すのか分かりませんが、どちらにしても馬鹿馬鹿しい話ですね。まぁ、この門も誰かの質の悪いイタズラでしょう』
『そうかもしれませんね。……では、次のニュースです。今朝───』
蓮は愕然とする。まさか、これは───
っと机の上の携帯が振動する。見ると、恭介からの電話だった。
「もしも───」
「お前、テレビ見たか!?」
恭介の声が大音量でスピーカーから流れる。蓮は携帯から顔を離すと、思わず顔を顰めた。
「携帯で怒鳴るな恭介。うるさい」
「あぁ……悪りぃ」
「まぁ、いいけどさ。どうせ大通りの門の事だろ?」
「そうそう!蓮、あれ何だと思う?」
「さぁな。分からないよ」
「けど、あれって学校の近くの大通りだよな?」
意気揚々として話す恭介の声。明らかに大通りに行くつもりだ。
「なぁ、恭介」
「あ?何だよ蓮」
「今日、学校サボって葵と一緒にちょっと遠くに行かないか?」
蓮がそう言うと、ふっふーんと恭介が笑う声が聞こえた。
「蓮、お前が門を見に行きたいのは俺も分かるけどよー、見に行くなら放課後にしよーぜ?どうせ、今行っても人が多過ぎて見れねぇだろうし。それに、葵ちゃん、真面目だしな。俺らがサボろうっつても断られるだろうからな」
「いや、俺はそんなつもりで言ったんじゃ…………」
「ん?蓮、何か言ったか?」
「え?あ、いや………何でもない」
「そうか?……ってやべぇ!もうこんな時間かよ!じゃぁ、もう俺は行くかんな!また学校で!」
ブチッと音がして通話が切れる。
プープープーと音を出すそんな携帯を見つめて、蓮は呟いた。
「人々は選択を迫られるであろう…………か」
22時にまた更新します