想いを辞表にしたためて。
彼女はお嬢様だ。
一人称は「ワタクシ」で、語尾に「ですわ」とか「ですの」ってつけてて、中学生なのに香水なんかつけちゃってて、髪はロングに立てロールしてて、きつそうなコルセット巻いてて、爪はいつも整えられてて、姿勢はいつも正しくて、顔もやけに整ってて、胸は少し小さめで、身長も同じくで、制服を改造してフリルをふんだんにつけまくってて、「校則違反だ!」って教師に怒られて元に戻して、首にロケットをかけてて、「校則違反だ!」って教師にまた怒られてて、でも「絶対にはずしませんわ」とか言ってさらに教師を怒らせて、たまたまその場に居合わせた僕が屁理屈を駆使してなんとか許しを得て、それでもお礼一つ言いもしないで、「召し使いにしてさしあげますわ」とか言いだして、とくに断る理由も無いから僕は承諾して、はれて彼女の召し使いになって、いろいろ身の回りの世話をするようになって、朝は弱いだとか、魚が苦手だとか、あのロケットは亡き母親の形見なんだとか、彼女についていろいろ知る破目になって、でもやっぱり彼女の高慢は直らなくて、数日でほとほと疲れちゃって、召し使いを辞めたいって言っちゃって、「好きにすればいいじゃない」ってあっけなく召し使いをやめる事が出来て、登下校に付き添わなくてもよくなって、時間ができて、学校の休憩時間も付き添わなくてもよくなって、時間ができて、ときどき彼女を見かけるけど彼女は以前とまったく変わりなくて、僕なんていなくてもよかったんだとか思うようになって、うつろになって、そういえば僕友達いなかったんだなとか思うようになって、うつろになって、ある日ふとしたことでいじめられるようになって、淋しくて、僕はそれがかっこ悪いとおもってて、親にはいえなくて、ただただ耐えるだけの日々を送ってて、つらくて、つらくて、でも自分の人生はこれしかないから仕方ないだなんて達観して、でもつらい現状は変わらなくて、世界なんて終わっちゃえなんて悲観して、いじめられて、いじめられて、いじめられて、耐えて、耐えて、いじめられて、いじめられて、ついに彼女にみつかっちゃって、僕は恥ずかしくてうつむいて、それでも彼女は僕をかばってくれて、「ワタクシの召し使いにはワタクシ以外、指一本触れさせはしませんわ」って言って、でも非力な彼女はやられちゃって、僕の変わりにいじめられるようになって、でも僕は「よかった」とか思っちゃって、卑しい人間だなって思って、いじめられる彼女をただただ見てて、逃げて、見ちゃって、逃げて、見ちゃって、逃げて、そうしてる内にいじめられてるときよりもつらい現状に気づいて、召し使いを辞めたいと言ったときの彼女の顔を思い出して、そういえばあのときだけは素直に承諾してくれたなとか思って、僕は卑しい人間だなってもう一度ふと思って、それならいっそのこといじめられるべきは自分だなって思って、どこからか湧いてくる勇気に頼って、彼女がいじめられてるところに突撃して、「お嬢様に手をだすな!」とかいまさら感バリバリな発言しちゃって、非力な僕はいじめっこにやられちゃって、でもやりかえして、ボコボコにやられて、でもやりかえして、ボコボコにやられて、そうしているうちに教師にみつかっちゃって、とりおさえられて、事務室につれてかれて、事情を説明して、なんとか彼女のいじめをやめさせることができて、彼女を救った気がして、それは違うとすぐに気づいて、彼女に「ほめてつかわしますわ」っていわれちゃって、でも素直に喜べなくて、首を振って、「僕は卑しい人間だよ」って彼女に言って、いまさら許しを請う気はさらさらなくて立ち去ろうとして、でも彼女は高慢だから「ワタクシの召し使いに卑しい人間なんていませんわ」とか言ってくれちゃって、「あなたに決定権なんてありませんの」なんていわれちゃって、ついつい「お嬢様」とか呟いちゃって、「なんですの?」って反応を返してくれるのがすごくうれしくて、そうして毎日彼女に仕えるようになって、日々が過ぎて、高校生になって、同じ高校に通って、同じように彼女に仕えて、日々が過ぎて、社会人になって、日々が過ぎて、彼女と結婚して、一生仕えることを心に決めて家を建てて、日々が過ぎて、僕と彼女の間に子供ができて、僕は父親になって、彼女は母親になって、日々が過ぎて、子育てに苦労して、日々が過ぎて、子供もお嬢様になって、日々が過ぎて、年をとって、日々が過ぎて、子供も結婚して家を出て、日々が過ぎて、日々が過ぎて、突然彼女が倒れて、入院して、余命三ヶ月と宣告されて、泣いて、泣いて、彼女に余命を告げて、さらに泣いて、ごめんごめんと謝って、彼女は「そう」とだけいって、僕に変わらずわがままを言って、一日一日を大切にして、日々が過ぎて、時が来て、彼女は逝ってしまって、つらくて、いっそのこと僕も逝ってしまいたいなんて思って、でも彼女は高慢だから僕の夢にまででてきて、「ワタクシのことなんて忘れてしまいなさい」なって言ってきて、そんなこと無理だなんて思っても、毎夜毎夜現れて、僕はどこかで気づき始めて、彼女の優しさに感涙して、僕が仕えたのが彼女でよかったって思って、いつかとは違った思いを辞表にしたためて、どこに出すわけでもなくそれを燃やして。
僕は彼女の召し使いを辞めた。
即興小説で書いたものを加筆修正したものです。
ホントは別に書いたものを投稿しようと思っていたのですが筆が進まず……自分の悪いとこです……。
次回はクリスマスが近いのでできればそれに合わせて何かしら描けたらなーと。できれば。
では、もし会えたならクリスマスに。