第45話 Calling -2-
「ハァ……俺が後一年遅く生まれてたらなぁー……、そしたら鈴ともう一年一緒に居られたのに」
「そうですね。でも、先輩、来年になったらまた同じ事言いそう」
鈴はクスクス笑いながら宥めるように空いているもう片方の手で俺の手の甲を撫でた。
「あはは、確かにそうかも」
鈴は俺より二歳も年下なのに、時々俺より年上なんじゃないかと思うくらい冷静に答える。
……て、そもそも“自主留年”なんて子供っぽい事を言う俺自体がガキなんだけど。
でも、鈴の表情はちょっと寂しそうだった。
「なぁ、鈴」
「はい」
「鈴の中で俺は今、何番?」
「一番ですよ」
鈴がそう答えるのはわかっていた。
そして鈴も聞かなくてもわかってるでしょ? という風に小さく笑った。
さっきまで何か怒っているような顔をしていたけれど、
今は柔らかい笑みを浮かべている。
「じゃあさ、一番ならー……“先輩”じゃなくて“大地”って呼んで欲しいなー?」
俺が大学に通うようになれば今みたいにこうして顔を見ながら話すことも少なくなる。
だから、少しでも鈴を近くに感じられるように、鈴との距離がもっと縮まるようにしたかった。
「今日は卒業式だったんだし。“先輩”も卒業って言うのはどう? あー、ついでに敬語も」
突然の提案……というか要求に鈴はちょっと驚いていた。
「えっと……ご、五百万歩譲ったとして“大地君”じゃ、ダメですか?」
数秒考えた後、鈴はなんだかおとぼけた事を言った。
「ごひゃくまんぽ?」
「百歩譲る以上に頑張るって意味なんですけど……」
(そーゆー事ね♪)
俺はおかしくてちょっと吹き出してしまった。
「そんなに頑張ってくれるんなら、“大地君”でいいよ♪ あ、でも、
ちゃんとタメ語にしてね?」
「は、はい、頑張りマス」
「後、鈴に受け取ってほしい物があるんだけど」
「はい?」
「……これ」
制服のポケットに入れておいた物、それを鈴の手にそっと握らせた。
すると彼女は不思議そうな顔をしながら掌の中にある物を確かめるように
ゆっくりと視線を落とした。
「……え、これ……」
「俺の第二ボタン」
「っ!? コ、コレクターの子にあげたんじゃないんですか?」
鈴は俺が“第二ボタンコレクター”の子にあげたと思っていたのか、
メチャメチャ驚いていた。
「えーっ? そんなワケないじゃん。鈴に貰ってほしくて取っておいたんだよ」
俺がそう言うと鈴は嬉しそうな顔で掌の中の第二ボタンを見つめていた。
そして、この時初めて鈴が俺の名前を呼んだ――。
「ありがとう……大地君」