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Calling  作者: 式部雪花々
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第6話 葛藤 -1-

「鈴ーっ」


体育祭の午後のプログラム・学年別の『クラス対抗リレー』に出る高津先輩が、


次のプログラムの出場者の列で待機している私に手を振っていた。


私が小さく手を振り返すと、高津先輩の隣の列に和泉沢先輩が並んでいるのが見えた。




すると、和泉沢先輩も私に気が付き、ちらりとこちらを一瞥した。


でも、私は咄嗟に目を逸らした。




(ファーストキスだったのに……)


「はぁー……」


思わず深い溜め息が出た。


昨日、ファーストキスを奪われてしまったから。




……和泉沢先輩に。




先輩は「ごめん」て謝ってくれたけど、なんて答えていいかわからなかった。




(別に先輩が悪いわけじゃないのに……)


わかっているけれど、その後もずっと目を合わせる事が出来ない。


それに和泉沢先輩だって私とキスなんてしたくなかっただろう。




――パァーンッ!……




不意に乾いた音がした。


その音の大きさに私の体がビクンと小さく跳ねた。


顔を上げると学年別の『クラス対抗リレー』が始まっていた。


さっきの音はスターターピストルの音だったのだ。






三年生の『クラス対抗リレー』が始まり、アンカーの高津先輩と


和泉沢先輩がトラックの中に入った。




「鈴、ちゃんと応援しててね♪」


高津先輩は私に視線を向け、小さく笑った。




「はい」


高津先輩は私の“彼氏”。




だから応援するのは当たり前なワケで……






高津先輩と和泉沢先輩のクラスはほぼ同時にトップでバトンタッチした。


後は高津先輩と和泉沢先輩の一騎打ち。




(先輩、頑張って……っ!)


私は心の中で祈るように呟きながら見つめていた。




……和泉沢先輩を。




無意識のうちに目が和泉沢先輩の姿を追っている。




私の“彼氏”は高津先輩なのに……




でも、目で追っているのも、心の中で応援しているのも和泉沢先輩だ。






高津先輩と和泉沢先輩は最後まで接戦だった。




「先輩! 頑張って!」


私は必死で叫んでいた。




和泉沢先輩に向かって――。






     ◆  ◆  ◆






結局、学年別『クラス対抗リレー』は和泉沢先輩が制した。




「あ~ぁ、せっかく鈴が応援してくれたのにな……」




“先輩! 頑張って!”




高津先輩はどうやら私が言ったあの言葉が自分に向けられた応援だったと思っているらしい。




「ちっくしょー、勝てると思ったのにー」


高津先輩はラスト3mで和泉沢先輩に抜かれたのだ。




「……」


なんて声を掛けようか?




心の中で応援していたのは和泉沢先輩。




そして……




声に出して叫んだのも……。




本当ならここで「それでもカッコ良かったです」とか言えればいいんだろうけれど、


私はそんな気の利いた言葉の一つも言えないでいた。


寧ろ、“カッコいい”と思ったのは和泉沢先輩の方。


一生懸命に走る彼の姿にものすごくドキドキしていた。




なんか……私、おかしいよ……――。

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