第38話 偶然と勘違い -5-
イタリアンレストランに入った俺達四人は俺と剛史さんが並んで座り、
その向かい側に鈴と美夏さんが並んで座った。
「……」
「……」
「……」
「……」
美夏さんは俺といた理由をどう話そうか考え、剛史さんはそれを
ちょっとムスッとした顔で待ち、しかしそれがまた余計に話しにくくしていた。
そして俺と鈴はそんな二人の様子を固唾を呑んで見守っていた。
「つ、剛史君、そんな怖い顔してたら話し難いよ……」
しばらくの沈黙の後、見兼ねた鈴が口を開いた。
「え、あ……うん」
すると、剛史さんはちょっとだけ表情を崩した。
「てか、鈴ちゃんは気にならないの?」
「何が?」
「彼氏君と美夏が一緒にいた理由」
「それならもう先輩に聞いたから」
「い、いつの間に?」
「さっきここに来る途中に」
「え」
剛史さんは美夏さんの事で頭がいっぱいだったのか、俺達が後ろを歩きながら
話していた内容がまったく耳に入っていなかったらしい。
そんなに距離をとっていなかったからもしかして聞こえてたかも? って、
思っていたんだけど、そんな事はなかったようだ。
「先輩と美夏さんが一緒にいたのって剛史君と同じ事考えてたみたいだよ?」
鈴がそう言うと剛史さんは驚き、美夏さんに視線を向けた。
「そ、そうなの?」
「え……てか、同じ事って?」
美夏さんは“同じ事”と言われてもピンと来なかったのか不思議そうな顔で
剛史さんを見つめ返した。
まさか剛史さんが自分とまったく同じ様に明日仲直りしに会いに行こうと
考えていたなんて思っていなかったからだろう。
「剛史さんも美夏さんと仲直りしたかったって事だよ」
「……そ、そうなんだ」
美夏さんは俺がそこまで言うとやっと気が付いた。
その後――、
美夏さんと剛史さんはその場では「ごめん」とは言わなかったけれど、
普通に笑いながら自然に話し始めた。
すっかり仲直り出来たみたいだ。
それにレストランを出る時も剛史さんは「この間は俺も言い過ぎたからここは俺が」と言って
美夏さんにサイフすら出させなかった。
て、俺達にもサイフを出させてくれなかったけど――。