第38話 偶然と勘違い -1-
――十二月、冬休みに入ってから数日後。
彼方此方でクリスマスソングが流れる中、俺は隣にいる人物と歩調を合わせるように
少しゆっくり歩いていた。
気分は非常に憂鬱だ。
なぜって……
隣にいるのが鈴じゃないから。
鈴と会えないから。
学校がある平日なら昼休憩に鈴と会える。
しかし、冬休みに入ってしまって鈴は毎日部活があるし、
相変わらず日曜日も会ってくれないからだ。
しかも今日はクリスマスイブ。
今日と明日は部活も休みだと言っていたのにまだ会う約束すら出来ていない。
「ねぇ、大地君、プレゼント何がいいかなぁー?」
そして今、俺の隣を歩いているのは十一月から俺の家庭教師をやってくれている
女子大生の加藤美夏さん。
クリスマス前だというのに三日前、彼氏と喧嘩をしたらしい。
それで仲直りも兼ねて明日クリスマスプレゼントを渡しに行こうと考え、
そのプレゼント選びに俺は付き合わされているのだ。
「てか、俺、美夏さんの彼氏がどんな人なのか全然知らないしなぁー」
とか言って、実はこの時、俺は鈴のプレゼントの事で頭がいっぱいだった。
だって、明日は鈴の誕生日。
本来なら他人の彼氏のプレゼントを選んでいる場合なんかじゃないのだ。
「どんな彼氏かと言われればー、そうねー……」
しかし、美夏さんはそんな俺の心中をまったくわかっていない。
俺がどんな人かわからないと言ったもんだから、周りを見回して
彼氏と同じ様な感じの人を捜し始めた。
(捜さなくていいっつーの)
「あ、あの人。ホラ、今ちょうどあそこのブランド店の前にいる
カップルの男の人みたいな感じ」
そして数メートル先のブランド店の中に入っていくカップルを指差し、
「……て、剛史っ!?」美夏さんはその男が知り合いだったのか、
驚いた顔をしながら二度見した。
「知り合い?」
「し、知り合いとゆーか……まさに彼氏。てか、知らない女の子と一緒だ」
美香さんは眉間に皺を寄せた。
知らない女の子と一緒とは、これはまた穏やかじゃない感じ?
しかし、次の瞬間、俺の心も穏やかじゃなくなった。
(鈴っ)
美夏さんの彼氏と一緒にいた女の子は鈴だった。