第37話 まさか……S? -2-
「昨日は四人で待ち合わせして、それからスポーツショップを回ることになってたんですけど、
意外に店舗数が多くて二手に分かれて行く事になったんです」
「それであいつと二人で?」
「はい」
「そっか……ごめんな、勝手に怒って」
「いえ……」
鈴とあいつが二人でいた理由は実に単純だった。
鈴は別に嘘をついていた訳じゃない。
(俺ってやっぱりバカ……)
「て、それより鈴っ」
「は、はいっ?」
「部活の時間……」
「あ、今日はちょっとお休みさせてもらったんです」
「えっ? なんで? どっか具合でも悪いのか?」
顔色は特に悪そうでもない。
けれど、もしかして風邪でもひいたのかと思った。
「なんか最近、膝が痛くて」
「膝?」
「佐藤先生が言うには多分、成長痛じゃないかって」
「あー、それ俺も中学の時になったなぁー」
「先輩もですか?」
「うん、でもそれって身長が伸びてる証拠だよ」
「ホントですかっ」
「俺の場合は病院行くのが面倒臭くて放っておいたけど、母親が『家庭の医学』とかいう
やたら分厚い本で調べてさ、子供の成長期によく見られる症状なんだって言ってた」
「じゃあ、私も身長が伸びてるんですかね?」
「うん、だと思うよ」
「やったぁー! 毎日牛乳飲んでた甲斐がありました♪」
「毎日飲んでるのかっ?」
鈴が身長の事を気にして牛乳を飲んでいたのは知っていた。
しかし、まさか毎日飲んでいたとは……。
「はい、毎日、朝昼晩に飲んでます」
「そ、そんなに?」
しかも、朝昼晩て。
「変ですか?」
「い、いや……すごいなぁーと思って」
牛乳が大嫌いな俺にはとても真似出来ない。
◆ ◆ ◆
――翌日、昼休憩。
屋上で鈴を待っていると、なにやら紙袋を手に彼女がやって来た。
そして開口一番、「先輩、イライラするのはきっとカルシウムが足りないからなんだと思うんですよ」
と言った。
「へ?」
俺はかなり唖然とした。
(いきなり何を言うのかと思えば……)
「という訳で……コレ、飲んでください」
鈴はごそごそと紙袋の中を探り、俺に何かを手渡した。
「んっ!?」
びっくりした。
「それを飲めばカルシウムはもうバッチリですから」
「ちょ……鈴」
彼女がくれた物……それは俺の大嫌いな牛乳だった。
(もしかして昨日の逆襲かーっ?)
「ささ、一気に♪」
そう言ってにんまりと笑った鈴を見て実は意外と“S”なのかもしれない……そう思った。
「あぅ……鈴ぅ~っ、昨日はごめんてば~、もうあんな事で怒んないから……だから、
マジ、これだけは許して?」
「先輩、そんなに牛乳ダメなんですか?」
「うん……」
「しょうがないですねぇー……じゃあ、こっちと交換してあげます」
すると、牛乳のかわりに今度は紙袋ごと俺にくれた。