第35話 初めてのケンカ -5-
「なぁ」
翌日、週明けの月曜日。
昼休憩、屋上に行くと和泉沢先輩はいきなり不機嫌そうに口を開いた。
「はい?」
ちょっとびっくりした。
今まで先輩がこんな風に不機嫌顔で私に接した事はないからだ。
「昨日、二人だけじゃないって言ってなかった?」
「?」
「カタログ集め」
「はい、二人だけじゃなかったですよ?」
「だったら、昨日の三時頃、岩井と二人で歩いてたのはなんでなんだ?」
「え? もしかして、先輩とどこかですれ違いました?」
「なんでなんだよっ?」
先輩の苛立った声が頭上から聞こえた。
(先輩、どうしたんだろう?)
「なんで嘘付いたんだよ?」
「あ、の……」
いつも優しい先輩が怒っている。
私は驚いて“なんで嘘付いたんだよ?”と言った先輩に「誤解なんです」と
否定するのも忘れていた。
「……」
先輩は険しい表情で私を見つめている。
「せ、先輩……?」
「……」
しかし、先輩は結局、それ以上何も言わずに私を残して屋上から出て行った。
(先輩……)
◆ ◆ ◆
教室に戻った私は、先輩にメールを打とうかどうしようか迷っていた。
もしかしたら、ものすごく怒っていたからメールさえ見てくれないかもしれない。
そう思い、開き掛けた携帯を閉じる。
(でも、誤解されたままなのは嫌だな……)
嫌だけれど、さっきの様子ではきっと話を聞いてくれそうにない。
と言うより、怖くてちゃんと話せるかどうか自信がなかった。
“どうしたらいいんだろう……?”
午後の授業の間、そればかりを考えていた。
おかげで授業の内容がさっぱり頭に入っていなかった。
(こんな事になるんなら、磯川君と行けばよかったな……)
『後悔先に立たず』とはよく言ったもので、私は昨日の自分の行動を
激しく後悔していた。
しかし、後悔だけしていても仕方がない。
(……よっし! 今日、帰ったら先輩に電話しよう!
勉強の邪魔になっちゃうかもだけど、そんな事、言ってられないもん!)
そう決意した私はHRが終わると同時にカバンを持って立ち上がった――。