第35話 初めてのケンカ -2-
「あ……でも、宮田先輩が朋ちゃんのところに行ってたって事は
仲直りしに行ったのかもしれないですねー?」
鈴は誤魔化すように笑った。
「俺も日曜日、鈴に会いたいなー?」
「……」
「毎週じゃなくてもー、隔週とかー」
「……」
「せめて一ヶ月に一回とかー」
そこまで条件を落としても鈴は頑として首を縦には振らずに黙っていた。
(むー……意外と頑固だな)
「鈴は俺に会いたくないの?」
この話題が出る度、もう何度も俺は同じ質問を繰り返している。
「そんな事ないですよー」
で、鈴は決まってこう言う。
「鈴に会いたくて勉強が手に付かないー」
「私はそんな先輩の事が心配で夜も眠れません」
「禁断症状が出そうー」
「一日くらいなんとか我慢して下さい。月曜日にはこうしてまた会えるんですから」
これもいつものパターン。
「はぁー……俺が受験生じゃなかったらなぁー」
「受験が終わるまでの辛抱です」
そして毎回、鈴のこの台詞で終わる。
「受験が終わったら、いっぱい会ってくれる?」
「はい」
鈴はにっこり笑って答えた。
そんな彼女のあどけない顔を見ていると自分の感情が抑え切れなくなってくる。
「……っ」
突然、肩を抱いてキスをした。
すると、鈴は大きく目を見開いて声も出せないまま驚いていた。
「なんか可愛かったから、つい……」
「誰かに見られたらどうするんですか」
鈴は怒るのかと思っていたら、頬を赤く染めながら苦笑いした。
「大丈夫だろ。それに、見られてても俺は平気♪
だって、鈴は俺の“彼女”だって全校生徒に知れ渡るからいいじゃ~ん」
(そうすれば、岩井だって迂闊に鈴には手を出さないだろ)
「えぇぇっ!? そんなぁっ」
「今度はもっと濃厚なキス、してみる?」
「だ、駄目です、駄目ですっ」
鈴は両手をピンと伸ばして俺の体を押した。
「そんな嫌がらなくても……」
「せ、先輩とキスするのが嫌なんじゃないです……ただ……その、こ、ここでは……」
「て事は、誰にも見られないんだったら“濃厚なキス”していいんだ?」
俺は態と意地悪な言い方をしてみた。
すると、鈴は意外な事にコクコクと頷いた。
「えっ!? い、いいのっ?」
逆にこっちが驚いた。
「あっ、いえっ、いいって言うか、悪いって言うか……そのっ」
「も、もしかして……また“嫌”って言えなかっただけ……とか?」
「……はいぃ」
(あぁ……やっぱり、そーゆーオチだったかぁー……)