第34話 クエストと報酬 その1 -1-
俺は今、とても困っている。
事の発端は昨日の事。
最後の部活として一昨日の試合の反省会をした後、部室棟の前で鈴と合流して
一緒に帰っている時だった。
「今週末の試合はどこでやるんだ? 応援に行くから教えて?」
鈴の応援に行こうと試合が行われる会場を訊くと、予想外の言葉が返ってきた。
「え……ダメですよ」
「は? なんで?」
「だって、先輩は受験生なんですよ? 応援なんかに来ちゃダメです」
「えー、大丈夫だよ」
「ダメですよー、だってもう今、十月の半ばなんですし、ちゃんと受験勉強しないと」
……で、結局鈴はその後もどこで試合があるのか教えてくれなかった。
(ま、いっか。どーせ明日、織田ちゃんに訊けばわかる事だし)
なんて思っていたら甘かった……。
今朝、朝一で織田ちゃんに訊くと「あ、その事なら鈴ちゃんに口止めされてるんだよねー」と
あっさり言われてしまった。
(くっそー、もう手が回っていたか……)
そんなワケで俺は今、どうやって鈴の試合会場を突き止めようか悩んでいる。
◆ ◆ ◆
「んで? おまえは鈴の応援に行きたくても行けなくて悶々としてるんだ?」
シゲは俺の目の前でニヤニヤしていた。
「鈴も意外とやるもんだなぁー」
「笑い事じゃねぇよ……」
「いや、笑ってない、笑ってない♪」
「思いっきり笑ってるし……」
お互いサッカー部を引退し、かと言っていきなり“どっぷり受験生”にはなれず、
二人で帰りにファーストフードに寄ったのはいいけれど……、
俺が鈴の事を話すとシゲはププッと吹き出した。
「てか、おまえももうちょっと頭使えよー、鈴と織田ちゃん以外からでも情報は得られるだろ?」
「でも、俺、他に女子テニス部に知り合いいねぇし」
「直接じゃなくても間接的にだよ」
「新井にも訊いたけどダメだったし」
「んじゃ、サッカー部の二年生部員のクラスに女子テニス部がいるかどうか、
そこからまず調べてみれば?」
「その後は?」
「その後は、そのサッカー部の奴にそれとなく訊き出して貰えばいいべ?」
「あー、なるほど」
シゲはなかなか悪知恵が働く。
この分なら、鈴の試合会場を突き止める“クエスト”は案外楽勝でクリアできるかも?