第33話 MVP -4-
しかし、弁当箱に“先制パンチ”を受けた後、フタを開けた俺はさらにやられた。
玉子焼きはもちろん、俺の大好きな唐揚げが入っていたからだ。
それに加え、きんぴらとウインナーまで入っている。
しかも“タコさんウインナー”。
ご飯はというと、小さ目のサッカーボールのおむすびがたくさん入っていた。
海苔で模様が描いてある。
(今朝も朝練があったはずなのに……)
鈴は今週末、また試合に出る予定だ。
だから最近はずっと朝練があって早起きをしている。
弁当を作る暇があるなら少しでも寝ていたかっただろうに。
(いただきますっ)
まずは唐揚げ。
お弁当サイズの少し小さめの唐揚げは冷めているのに全然硬くなくて柔らかかった。
タコさんウィンナーの足もちゃんと八本ある。
(細かいなー)
俺の母親の弁当なんて焼いただけのウィンナーがそのまま入っているのに。
鈴の弁当はサッカーボールおむすびの具もそれぞれ違っていて手が込んでいた。
タラコだったり、おかかだったり。
後は梅と鮭、昆布とか。
しかし、ここで俺はふと思った。
(これ、また夢じゃないよな?)
味だって、食感だってある。
なんなとなく、周りを見回してみると、みんなも弁当を食べているし。
という事は夢じゃない。
(やべぇっ、俺、今日死ぬんじゃねぇのか?)
帰りに事故に遭うとか?
もしくは今夜寝ている間にぽっくり?
逝っちゃう的な?
あまりに幸せ過ぎて、ついそんな事を考えてしまう。
でも、鈴の弁当を最期に食べて死ねるならそれもいいかも……て、
そしたら鈴に会えなくなるじゃんっ。
美味しい弁当はある意味俺の思考回路を狂わせる……。
◆ ◆ ◆
――放課後。
HRの後、鈴が部活に行ってしまう前に彼女の教室に行った。
「鈴」
「あれ? 先輩」
「コレ、ありがとう。美味しかったよ」
空になって、すっかり軽くなった弁当箱が入った紙袋を鈴に返すと、
顔を赤くしながら受け取った。
「全部、鈴が作ってくれたの?」
「いえー、実はきんぴらと唐揚げはお母さんなんです」
「そうなんだ? でも時間掛かったんだろ? それに結局、
ベスト8入ってないのに……ありがとな」
そう言いながら鈴の頭を撫でた。
すると鈴はにっこり笑って「MVPです」と、言った。
(MVP……)
「全然豪華な賞品じゃないですけど」
「そんな事ないよ。……てか、アレ、誰の弁当箱?」
「あ、お父さんです。最初は私のお弁当箱に詰めようと思ったんですけど……、
私のは先輩のお弁当箱よりきっと小さいし、キティちゃんだから……」
「あはは、やっぱりな」
鈴のその答えを聞いてホッとした。
正直「私のですけど、何か?」と、言われたらどうしようかと思っていた――。