第3話 集団下校 -2-
――高津先輩と付き合い始めて五日。
「鈴、お待たせー」
部活が終わった後、部室棟の前で高津先輩を待っていると和泉沢先輩も一緒に来た。
ちなみに今日は私の方も同伴者がいる。
織田先輩だ。
「帰ろ」
「はい」
そして私の隣に高津先輩、その後ろに和泉沢先輩と織田先輩が並んで一緒に歩き始めた。
ここ数日、高津先輩と二人きりだったからこんな風に四人で帰るのはちょっとホッとした。
だって和泉沢先輩と織田先輩が一緒なら、無理矢理私が高津先輩に話しかけなくても
なんとか間が持てそうだから。
「そういえば大地も山手線だったよな?」
私がそんな事を思っていると高津先輩が和泉沢先輩の方に振り返りながら言った。
「あぁ、そうだけど?」
「鈴もだよな?」
「はい」
私は首を縦に振りながら答えた。
うん……やっぱり、高津先輩と二人きりで帰るより全然緊張しなくて済む。
「田町だろ?」
すると、何故か和泉沢先輩は私が降りる駅を知っていた。
「は、はい」
(なんで私が降りる駅、知ってるんだろ?)
「大地、なんで鈴が降りる駅、知ってんだ?」
「俺、小峯と同じF中だったし」
「えっ!?」
(和泉沢先輩も?)
「大地、鈴の事知ってたのか?」
「知ってたって言うか、なんとなく覚えてただけ」
和泉沢先輩はそう言ったけれど……
「鈴は? 大地の事、覚えてた?」
「あ……え、と……」
私は覚えていなかった。
「覚えてないんだろ?」
和泉沢先輩はクスッと笑った。
「す、すいません……」
「いいよ。俺が覚えてるほうが不思議なくらいなんだから」
「……」
(でも、和泉沢先輩、どうして私の事覚えてたんだろ?)
「イズミはなんで鈴ちゃんの事、覚えてたの?」
私の疑問を代わりに口に出したのは織田先輩だった。
「いや、俺もそんなハッキリとは覚えてなかったんだけど……」
和泉沢先輩の答えに高津先輩と織田先輩は同時に「「ふぅ~ん」」と返した。
私は必死で脳内の全記憶を辿ってみた。
でも、思い出せない……
和泉沢先輩と会った記憶がないのだ。
◆ ◆ ◆
そして、そうこうしている内にあっと言う間に駅に着いた。
高津先輩と二人で帰っている時はもっと長く感じた距離も今日はとても短く感じた。
「鈴、大地、またなー」
「イズミ、鈴ちゃん、バイバイ」
高津先輩と織田先輩は東横線。
山手線の私と和泉沢先輩は改札の前で二人と別れた。
山手線のホームに行くとちょうど電車が後数秒で発車するところだった。
「小峯、走るぞ」
「はいっ」
発車ベルが鳴り響く中、私と和泉沢先輩は電車に駆け込んだ。
帰宅ラッシュと重なるこの時間の電車内はとても混んでいた。
私と和泉沢先輩の体は自ずと密着し、抱きかかえるように持っているラケットが
辛うじて二人の間を隔てる壁になっている。
「……」
「……」
和泉沢先輩も私と目を合わせることもなく、ただ無言で乗っていた。
(早く、着かないかな……)
でも、高津先輩と二人きりの時よりはあまり“苦痛”に感じていなかった。
そして次の駅に着いてかなりの人が降りた。
普段なら降りた人の数だけ乗ってくる人の数もいるのだが、今日は乗ってくる人が少なかった。
おかげで私と和泉沢先輩の間にすこし空間が出来た。
ドアが閉まり、電車が動き出すと右手にカバン、左手にラケットを持って、
つり革にも掴まっていなかった私は発車の衝撃で足元がふらついた。
「きゃっ!?」
すると、和泉沢先輩が咄嗟に私の二の腕を掴んで支えてくれた。
「大丈夫か?」
「は、はい、ありがとうございます」
ちょっとびっくりした。
「ラケットがあるから大変だな」
先輩は小さく笑いながら「こっち」と、スタンションポールの近くに移動して私に手招きをした。
「?」
不思議に思いながらついて行くと、「これがあれば少しはマシ?」先輩は
スタンションポールに片手を置いた。
「あ、はい」
先輩はカバンとラケットで両手が塞がっている私を気遣ってくれたのだ。
(和泉沢先輩って、優しいな――)