第33話 MVP -3-
――翌日、三時限目が終わった休憩時間。
「イズミ、鈴ちゃん来てるよ」
織田ちゃんにそう言われ、教室の入口に視線をやると珍しく鈴が来ていた。
わざわざ教室にまで来るという事は何かあったのだろうか?
「何かあった?」
「あ、あのー……」
「?」
「こ、これっ、よかったら……」
鈴はそう言いながら小さな紙袋を俺に差し出した。
(なんだろう?)
不思議に思いながら受け取ると、鈴は「いらなかったら誰かにあげてください、それじゃっ」と
言って走って行ってしまった。
「え……鈴?」
鈴はあっと言う間に見えなくなった。
逃げ足が速いというか、なんというか……。
取り残された俺は徐に謎の紙袋に視線をやった。
わりと重みがある。
とりあえず席に戻って中を見ると、弁当箱が入っていた。
「っ!?」
(これって……)
間違いなく弁当だよな?
しかも、ひょっとして鈴の手作り?
じゃなきゃ、鈴がわざわざ持って来るはずがない。
(でも、ベスト8に入れなかったのに、なんで……?)
◆ ◆ ◆
そして、四時限目が終わって昼休憩――。
「なぁ、井上、今日弁当持って来た?」
俺はだいたいいつも学食に行っている奴に声を掛けた。
「いや」
「お、じゃあ、ちょうどよかった♪ 俺の弁当食って?」
「え? なんで?」
「まぁ、ちょっと……」
「……?」
俺が弁当を差し出すと、怪訝な顔をしながらも井上は
「なんかよくわかんねぇけど、とりあえずサンキュー」と受け取った。
(いやいや、こっちこそ♪)
だって……
“いらなかったら誰かにあげてください”
鈴はそう言ったけど……
(あげるわけないでしょー?)
席に戻り、鈴に貰った弁当を出すと意外にもシンプルで大きな弁当箱だった。
決してお世辞にも“女の子らしい”とは言えない物だ。
(こ、これは……鈴の弁当箱? いやいやいや、絶対違うな)
だって、どう考えても“女子高生”の趣味とは思えない。
鈴はどっちかと言うと所謂“少女趣味”。
携帯に付けているストラップも、カバンやラケットカバーに付けている
ファスナーマスコットも全部ちっちゃくて可愛い『ハローキティ』だ。