第33話 MVP -2-
シゲ達が帰った後、俺はまだユニフォームも脱がずに座っていた。
「……あの……、先輩……」
すると不意に後ろから声がした。
(鈴……?)
慌ててタオルで頭と顔をガシガシ拭いて振り向くと、
控室のドアが少しだけ開いていて鈴が顔だけを覗かせていた。
「……」
鈴は俺の顔をじっと見たまま、入って来ようとしない。
だから俺が手招きすると、ようやく控室の中に足を踏み入れた。
「……お疲れ様でした」
そして俺の隣に座ると、缶コーヒーをそっと目の前に差し出した。
その缶コーヒーを受け取ると、じんわりとその温度が伝わってきた。
「あったかい……」
「冷たい方がよかったですか?」
「ううん、そんな事ないよ。ありがとう」
そう言って缶コーヒーを開けて口をつけると鈴は小さく笑った。
温かいコーヒーは汗が引いて冷たくなりかけていた体の中に沁み込んでいった。
変に言葉をいろいろ掛けられるよりも、今はこうしてただ黙って一緒に
あったかいコーヒーを飲んでくれる事がすごくありがたかった。
◆ ◆ ◆
「あ~ぁ……結局、ベスト8に入れなかったなぁー」
コーヒーを飲み終わって気持ちが落ち着いた頃、思わず溜め息が出た。
「でも、力は出し切ったんですよね?」
「うん」
「だから、カッコよかったです」
(……え?)
鈴の口から出た意外な言葉に俺は驚いた。
「一生懸命頑張ってる先輩、すごくカッコよかったです」
鈴はちょっと顔を赤くした。
その言葉がすごく嬉しくて、でも、なんだか照れてしまって俺も顔が赤くなった。
「……そ、そろそろ着替えないとな」
だから誤魔化すように急いでユニフォームを脱いだ。
すると鈴の悲鳴が聞こえた。
「きゃっ!?」
「へっ?」
「せ、先輩っ、いきなり脱がないでくださいーっ」
鈴はそう言うと両手で顔を覆いながら背中を向けた。
「……そ、外で待ってますっ」
そして俺に背中を向けたまま逃げるように控室を出て行った。
「う、うん」
(ぶっ、可愛い♪)
耳まで真っ赤になっている鈴。
それがすごく可愛くて、思わず吹き出してしまいそうになった――。